避難指示解除と共に、東京から大熊町へ。とにかく楽しい移住ライフ【おもせ〜ひと vol.12】
福島県大熊町の”おもせ〜ひと”(=面白い人)を数珠つなぎ形式でご紹介するインタビュー企画「おおくままちの”おもせ〜ひと”」。
12人目にご紹介する”おもせ〜ひと”は、2022年7月末に大熊町へ移住された近藤佳穂さんです!
昨年6月30日に避難指示が解除されたばかりの地区に、7月に東京から移住された近藤さん。
実は大熊町では、近藤さんのように、復興公営住宅や再生賃貸住宅、東電の社員寮などが集まる大川原地区以外の場所に住んでいる方、なおかつ元々大熊に家があったわけではなく、県外から家を借りるという形で町に住み始める方は、今のところかなりレアな存在なのです。
一体、どんなところに住んでいらっしゃるのか、気になっていたところ、ありがたくも近藤さんのご自宅でインタビューさせていただけることに。
近藤さんがお住まいのアパートは、誰もいない、だだっ広い道路と草原を抜けていった先にありました。見た目は普通のアパートとなんら変わりがないものの、近藤さんが住んでいるお部屋以外は全て空室だそうです。
(2023年1月追記:3月から3組ほど入居されるかも…とのこと!)
元々田舎に住みたかったというわけでもなく、そういったことを考えることもなかったけれど、今の生活が「すんごい楽しい」と話す近藤さん。
今回は、そもそもなぜ大熊へ来たのか?大熊での生活の、どんな部分に楽しさを感じているのか?など、知られざる大熊町での生活に迫ります。
移住の経緯
-自己紹介をお願いします。
近藤:近藤佳穂です。東京出身、1994年生まれ、28歳です。
大熊町にくるまでは、横浜のホテルニューグランドに勤めて、カジュアルレストランやフレンチ、バー、ティーラウンジや経理部などで仕事をしてました。
ここ(住んでいる地域)の避難指示が解除になるタイミングに合わせて、7月末に大熊町に引っ越してきました。
-この地区は6月30日に解除されたんですよね。お家は解除前から探されていたのですか?
近藤:解除になる前から探してました。
そもそも、ここの地区の避難指示の解除は今年の春って言われてて。夏くらいには引っ越そうと思ってたから、「解除になったら住もうと思ってるんです」みたいな感じで、事前に不動産屋さんに連絡をしたり、移住定住支援センターに3月から話を聞きに行ったりとかしてました。
6月30日に避難指示が解除されるっていうニュースが出たあたりぐらいに、不動産屋さんから連絡をもらって。何件か物件があるから見にいきますか?って話になって、7月頭に内見しました。
-そもそもなぜ大熊町に移住することになったのでしょうか?
近藤:夫が仕事の関係で2年前から大熊町に住んでいて、避難指示解除のタイミングで2人で住める物件が見つかったので移住しました。
元々大熊町出身だとか、福島出身の人と結婚したからこっちに来たわけではなくて、2人とも東京出身で、結婚したし、一緒に住みたいよね〜と思って引っ越してきただけなので、町にきてこんなことをやろうとか、何かすごい高いモチベーションを持って、この町に来たわけではないんだよね。
でも、若い力だったり、東京での経験を、町に生かせたらいいなとは思ってるかな。
-お隣の富岡町の方が、お店もいっぱいあって、もっと便利な家があると思うんですけど、そんな中でわざわざ大熊を選んだのには、何か理由があるんですか?
近藤:単純に、大熊のアパートが気に入ったから!(笑)。
富岡町の方が、スーパーもあるし、コンビニもあるし、住み良い雰囲気があるかもしれないけど、私からしたら富岡も大熊も、どちらも車が無いと買い物ができないし、ベースは全然変わらなくて。
だったら、夫の会社が近くて、のびのび暮らせる気に入った家に住む方がいいなって。
それと、住むんだったら、これから先、劇的に変わっていきそうな「大熊町」が、経験として面白いなと思って。
だから私は、駐車場のどの場所にも車を停められるこの家が気に入ってるし、全然誰も通らないこの道路を通ってどっかに行くのが楽しい。
半年間住んでみての、リアルな感想
-ところでこの家、とても11年も放置されていたとは思えない綺麗さですね。
近藤:多少リフォームはしてくださっています。
基本的には、あんまり11年放置されていたようには見えないけど、床とかに結構傷があったり、ものが倒れてこぼれて何年間も放置されてたようなシミがあったりはするかな。
周りのアパートとか見ると、窓ガラスとか割れたまんま放置されてたり、この辺では空き巣とか、窃盗とか、動物が家の中に巣を作っちゃうとか、そういうこともあったみたい。
楽しいこと -地元の人とのちょっとした会話
-大熊町に住み始めて、大体半年ほど経ったと思うのですが、住んでいて楽しいことは何かありますか?
近藤:いっぱいあるよ!町内を歩いてるだけで色んな人に会えるし。
例えば、郵便局の局長さんとか大熊町交流ゾーンの職員さんと仲良くなった。
あとは、ヤマトのドライバーさんとかも数人くらいしかいなくて、そういう人たちと話すのが楽しい。町中で私を見つけると、軽いものならその場で荷物を渡してくれたりもする(笑)
宅配便も、今まで東京だったら、大体この人が来るなっていうのはあったけど、ここでは3~4人でローテーションしてて、もうシフトまで把握できちゃう、そこまでわかることは今までなかったから。
近藤:だから、郵便局や宅急便とか、東京でもよく使ってたんだけど、大熊町ではサービスを利用するためにいく、というよりは、楽しみで行くみたいな。誰々さんいるかな、とかそういうノリで行く。
田舎ならではの、人が少ないから顔見知りになるってこれかあ!と思って。
今日も来たねとか、今日は遅かったねとか、そんなちょっとした会話をしたり、割れ物注意のシール貼り忘れた時に、電話して「近藤です」って言うと、「わかりました!」ってすぐ対応してくれたり。今度イベントあるのでよかったら来て下さいみたいな話をすると、「前バーテンダーやられてたんですか?」って質問してくれたり。
特に、お互い自己紹介をして、初めましてって話したわけではないんだけど、ちょっとずつ身の上話をするようになって、だんだん知り合いになっていった。
そういうのが私としてはすごく楽しいかな。
あとは、食事。お店があんまりなくて外食が基本できないのがわかってるから、いろいろ調味料とか買い集めて、美味しいご飯を作るのが楽しい。
新妻さんの畑作業お手伝いで収穫した野菜を使ってみんなでパーティーするのも楽しい!
不便なこと -「全然思いつかない」
-逆に、住んでて不便に感じることはありますか?
近藤:車があるから全然不便に感じないんだけど…なんだろう。あっ、道路がガタガタしてる!工事多すぎて、片道車線ばっかり。山道で3分くらい信号で待ったり。あれが不便。
あと、セブンイレブンが欲しい(笑)
でも、そんくらいかな…全然思いつかない。
-あと、よく「住めるの?」と聞かれるという話を耳にしたのですが…
近藤:「住めるの?」は町内の企業の社員さんとか、警察とかに聞かれる。あとは、前に町役場で手続きしたときに役場の人に「現住所を書いて下さい」って言われて。大熊の住所を書いたら、「避難先の住所を書いて下さい」って言い換えられて。それで、役場の人にも「え、住めるの?」って聞かれたことはある(笑)
それから、夫と2人で出かけた時に、帰ってきたら、隣のマンションを2人の警察官が見てて。なんかあったのかと思って、「どうしたんですか?」って聞いてみたの。そしたら、「安全パトロールしてるんです」って言われて。
そうなんですかーって言ったら、「今日はもう帰られるんですか」って聞かれて。「いや、ここに住んでるんです」って言ったら、「え!住めるんですか!」って(笑)。
「特別」が日常で楽しいですよ
-復興公営住宅や、東電の方の寮がある大川原以外のところに住んでいる人が相当珍しいんでしょうね(笑)。
しばらく町で暮らしてみて、町に対して近藤さん的に「いいな」と思うことって何かあったりされますか?
近藤:どこに行っても歓迎してもらえてる感じがする!
私ずっと接客をやってきたから、感じの良いお店とそうじゃないお店をすぐ判断しちゃうくせがあって。町の施設はどこでも、「いらっしゃいませ」を、ちゃんと「いらっしゃいませ」って思ってる感じで言ってるの。
やっぱり東京とかって、客来るのが当たり前だし、なんならなんで来たのみたいな感じでやってる人もいる気がしてて。でもこっちの方って、それを感じたことは全然ない。本当に、レジ打ち一つとっても「よく来たね!」みたいな雰囲気を感じる。
すぐ移住をするのは難しいかもしれないけど、週末過ごすのにいい場所だと思うんだよね。テレワークとか2拠点生活とかにすっごくいい。
のびのびできて、自然に囲まれてて、新しい施設が多くて、行政からの補助とかもあるし、常磐線で東京から3時間半。座って映画を見たりちょっと作業をしてれば、着く。大野駅は特急も止まるし、行き来するのに便利!
-最後にこれを読んでいる方へメッセージをお願いします!
「『特別』が日常」で楽しいよ。
森とか林があって、涼しくて、動物がいて、川や海もあって、住み良い環境があるっていうのが、どこかのリゾート地みたいで「特別」なんだけどそれが日常。すんごい楽しい!
それに、大熊町の活動的でかっこいい人たちも、私が伸び伸びゆったり過ごしているのを尊重してあたたかく受け入れてくれる。
「何もしない」をしたり、疲れた心を癒しに来てほしい。ぜひ住みに来てください!
後日談
移住後、近藤さんはフリーのバーテンダー・バリスタとして、大熊町交流ゾーンで講師としてワインテイスティングの方法をレクチャーをしたり、双葉駅前で行われたイベントでバーを出店するなど、前職、ホテルで培われた食やサービスのご経験を活かして大活躍中です!
https://www.instagram.com/chicafuji/
▼近藤さんお手製のカクテルの数々
編集後記
これまで、11名の方にお話を伺ってきた私たちですが、インタビューの中でよく耳にしたのが「大熊町は新しいことに挑戦しやすい町」という声。
実際に、私たちも町にきてみて、「これをやりたい」という強い思いや目的を持って活動されている人の多さを肌身で感じました。
ただし一方で、町が町として成り立っていくためには、そのように「何かをやろうとする人」だけではなくて、「ただそこに住む人」の存在も大事だという声も同じくらい頻繁に耳にしました。何か目的がなかったとしても、ここが何となく自分に合っている気がするから、住みやすそうだから、楽しそうだから。そうやって、何か活動を起こさなくとも、暮らしを営んでいく人の存在も、町には必要不可欠とのことでした。
そんなお話を聞いた上で臨んだ、近藤さんのインタビュー。
近藤さんはまさに、今町に必要とされている「ただそこに住む人」のお一人でした。一住民として、町での生活を心から楽しんでいらっしゃいます。
何となく、大熊町のような特殊なバックグラウンドのある町には、何か大きな使命ややりたいことがないと足を踏み入れてはいけないんじゃないかという敷居の高さを感じる方もいらっしゃるかもしれません。かくいう私も、その1人でした。
ですが、もし町に「面白そう」「楽しそう」などと少しでも心惹かれるものがあるのであれば、たいそうな目的がなくても、もっと気軽に町と関わりを持っても良いのだなということを、近藤さんから教わりました。
近藤さん曰く、まるで「特別が日常」だという大熊町。
皆さんにはどんな町に見えるでしょうか。ぜひ一度、足を運んで町を体感してみてください!
インタビュー:殿村・中井
編集:殿村
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