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メタバース 徹底して解るまで 21


第14章 メタバースの勝者と敗者


順番からいうと13章 Metabusiness なのだがこの章を飛ばして14章メタバースで誰が勝つか に進めたいと思う。個別の産業の説明より大きな立場で分析しているので、次はどうなるのか、を知りたい読者にはこの順番がふさわしい気がするからだ。パートⅡはメタバースの作り方で、いろいろと興味深い話ではあるが、各論である。パートⅢはメタバースビジネスの将来であり、くわえて、一番大切な哲学的な視点の変化が前に出てくる。この視点からメタバースを整理して、個別具体の技術を語ると、大分意味が変わってくる。さらにどのようなビジネスが立ち上がってくるのか、もわかりやすくなる。

さて、最初に結論を書いておく。メタバースの世界の勝者はIVWP(Integrated Virtual World Platform)を提供したところになる。この世界で活躍するiPadネイティブの心をつかんだところがメタバースの勝利者になる。この議論はなかなか複雑に展開する。そもそもIVWPの意味をネットで探してもいまのところは出てこない。これはIntegrated Virtual World Platformの略である。これを巡る破壊的イノベーションの争いに生き残ったところがメタバースの勝者となる。

Ballの話は進み、いよいよ、メタバースの到来で誰が勝者になり、だれが敗者になるか、の議論である。Web2の勝者はGAFAMの5社である。このなかで生き残る会社はあるのか、さらに、別の会社が主導権を握るのか、まったく新しい会社がでてくるのか。予言は予言なので当たることもあるし当たらないこともある。しかしながら破壊的イノベーションの歴史にて照らし合わせると、大きな変化が起こる直前にあることがわかる。

Ballの議論をまとめてコメントをつけていきたいが、ポイントは次の質問である。

質問1: 新しい「メタバース経済」の価値とは何なのか?
質問2: 誰がそれをリードするのか?
質問3: メタバースは社会にとって何を意味するのだろうか?

多くの企業はいまメタバース騒動を目の前にして、この三つの質問をしているのではないか?だが、こうした質問に正しく答えることは意外に難しい。

質問1: メタバースの経済価値
 
メタバースとは何か、いつ到来するのかについて、決定的な議論は出ていないが、多くの経営者はうまくいけば、自社にとって何兆円もの価値があると信じている。nVidiaのJensen Huangは、メタバースの経済価値は最終的に物理世界のそれを「超える」と予測している。
 
メタバースの経済規模は実際どのくらいのものなのだろうか。過去を振り返ってみても、iPhoneの登場でモバイルインターネット時代になって少なくとも15年、インテル・マイクロソフトのプラットフォームとインターネット技術が結びついて40年、IBMや富士通NECといったデジタルコンピューティング時代になって4分の3世紀が過ぎた。それぞれの「モバイル経済価値」「インターネット経済価値」「デジタル経済価値」がどれほどの価値を持つかについてのコンセンサスは得られていない。

メタバースはまだ存在せず、その開始時期も明らかでないため、モバイル経済価値に焦点を当てるのは困難である。メタバースについて「メタバース経済」の規模を測るより現実的なアプローチがある。それは哲学的なものである。この話がなぜ冒頭で述べた結論、勝者はIVWPになる、と深く関係していくが、哲学的な議論に向かう前に、経済的な数字をもう少しまとめておこう。

 Ballの説明によると、2032年にメタバースがデジタルの10%になり、その間に世界経済に占めるデジタルの割合が20%から25%になり、世界経済が平均2.5%の成長を続けるとすると、10年後にはメタバースの経済規模は年間3兆6500億ドルに達するという。この数字は、2022年以降のデジタル経済の成長の4分の1、同時期の実質GDP成長の10%近くをメタバースが占めていることを示す。メタバースは、2032年のデジタル経済の30%を占めるかもしれないと想像する人もいる。
 

この数字は推測にすぎないが、経済がどのように変容するかを正確に描写している。メタバースを開拓する企業は「デジタル」または「フィジカル」経済のいずれかをリードする企業よりも速く成長し、我々のビジネスモデル、行動、そして文化を再定義することになる。破壊的イノベーションが起きると想定すると、ベンチャー企業や株式市場の投資家は、メタバース関連の企業を他の企業より高く評価し、投資して、人々に多額の富をもたらすことになる。

現在、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトの5社の2021年の売上高は1兆4000億ドルで、デジタル支出全体の10%未満、世界経済全体の1.6%を占めると報告されている。世界を支配する魔の帝国というには規模は小さい。だが、これらの企業は、社会に大きな影響を与えている、とBallは述べる。

質問2: メタバースをリードする企業とは? 

メタバース時代をリードするのはどの企業か?いろいろ言われているがFacebookは過小評価出来ないという。30億人の月間ユーザーと20億人の日次ユーザーを抱え、オンラインで最も利用されているIDシステムを持っている。すでにメタバース関連の取り組みに年間120億ドルを費やし、VRハードウェアの出荷を他社に数年先行して行い、創業者はどの企業幹部よりもメタバースを信じている。だが、破壊的イノベーションは投資をすれば勝てるというものではない。予測不可能なものだ。過去にいくつもの間違いをおかしてきたマイクロソフトも侮れない。アプリストアやスマートフォンの役割から、一般消費者にとってのタッチスクリーンの重要性まで、すべてにおいて間違っていた。Windows OSと統合されたMicrosoft Exchange、Officeスイートなどの収益に頼り、今まできたが、顧客が好むものをサポートするという決断が出来る会社になっている。マイクロソフトのサービスをことごとく蹴散らした、Googleはどうだろうか?Googleは仮想世界、仮想世界プラットフォーム、仮想世界エンジン、あるいはそれに類するサービスを自社で持っていない。ナイアンティックはもともとGoogleの子会社だったが、2015年にスピンアウトした。その2年後、グーグルは衛星画像事業をプラネット・ラボに売却した。2016年には、クラウドゲームストリーミングサービス「Stadia」の構築に着手し、2019年末にサービスを開始した。同年初め、グーグルは「クラウドネイティブ」コンテンツスタジオである「Stadia Games and Entertainment」部門も発表した。しかしながら、2021年初頭、このスタジオは閉鎖された。その後の数カ月で、ゼネラルマネージャーを含む多くのスタディアのトップが、グーグル内の他のグループに移ったり、会社から完全に退職したりした。

こうした動きに比較して、Epic GamesUnityRoblox Corporationといった企業は、すでに新たな破壊的イノベーションの勝者への道を行っているように見える。評価額、収益、事業規模はGAFAMに比べると控えめだが、彼らはプレイヤーネットワーク、開発者ネットワーク、そして、仮想世界を持ち、メタバースにおける真のリーダーとなり得る。過去10年半の間、GAFAMはストリーミングTV、ソーシャルビデオ、ライブビデオ、クラウドベースワードプロセッサー、データセンターなどについて主に関心を寄せてきた。だが、「メタバース」に必要な子どものための仮想遊び場やその世界を作るゲームエンジンにはほとんど関心を払ってこなかった。またGAFAMはエピック、ユニティ、ロブロックスを買収しようとはしなかった。ビデオゲームという領域が重要な領域であるとはおもっていなかったのだ。RobloxのIVWP(統合仮想世界プラットフォーム)はゲームエンジンUnityである。(最近ではunReal Engine 5を使うことも出来る)。そして、何よりも大切なのは、Roblox はiPad ネイティブといわれる子供達がコンテンツを制作している。彼らが大人になるのはもうすぐだ。彼らはソーシャルネットワークを採用したことすらない消費者なのである。

Facebookがメタバースへの最も積極的な投資家であり、Googleが最も位置付けが低いとすれば、Amazonはその中間に位置している。アマゾン・ウェブ・サービスはクラウドインフラ市場の3分の1近くを占めている。メタバースはかつてないほどのコンピューティングパワー、データストレージ、ライブ配信力を要求する。つまり、メタバースが成長して他のクラウドプロバイダを使うようになっても、現状のサービスでメタバースから大きな利益を得ることができる。しかし、メタバースに特化したコンテンツやサービスを構築するアマゾンの取り組みは現状ほとんど成功していない。

ちなみにBallは最近までAmazonの開発のプロデュースに関わっていたので、このあたりの分析はなかなか面白い。Amazonでは音楽、ポッドキャスティング、ビデオ、ファストファッション、デジタルアシスタントなど、ほとんど成功していない。創業者JefLBezosは "計算能力を活用してばかげたゲーム "を作ることを目標にAmazon Game Studiosを設立して、毎年数億円を費やしてきた。しかし、制作したタイトルのほとんどは発売前にキャンセルされた。Amazon Game Studiosの少ない販売例の一つは2022年2月にリリースして絶賛された「Lost Ark」である。

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だがこれはAmazon Game Studiosが作ったものではなく、S.milegate RPGが開発し、2019年に韓国でリリースされ、その1年後にAmazonが英語圏の契約を結んで発売したものである。アマゾンはゲームエンジンも開発しており、ゲーム「ファークライ」のパブリッシャーであるクライテックが所有する中堅の独立系ゲームエンジン「CryEngine」のライセンスを取得した。その後数年間、Amazonは数億ドルを投じてCryEngineを、AWSに最適化させて、UnrealやUnityの競合となりうるLumberyardへと変貌させた。

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ところが、このエンジンは開発者にあまり採用されず、2021年初めにLinux Foundationが開発を引き継ぎ、「Open 3D」と改名し、無料かつオープンソースとした。アマゾンはこれまでのところ、リアルタイムレンダリング、ゲーム制作、ゲーム配信の周辺では、ほぼすべての取り組みが期待外れとなっている。

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面白いことに、ここにEpicも加わっている。この動きは追いかけてみたいね。

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Appleもメタバースのイノベーションにおいては重要な役割を持つかもしれない。同社のハードウェア、オペレーティングシステム、アプリプラットフォームは、仮想世界への重要なゲートウェイであり続け、メタバース時代が来ても何十億もの高収益をもたらし、技術標準やビジネスモデルに対する影響力も強いままだと思われる。また、軽量、高出力、使い勝手の良いAR・VRヘッドセットやその他のウェアラブルを開発・発売する場合、iPhoneとの統合性が高いこともあり、有利な立場を維持することが出来る。

しかし、AppleはRobloxのような独自のIVWPを開発していないことが知られている。これは繰り返すが、Integrated Virtual World Platformの略語であり、これを提供することによって、他者がバーチャルワールドを構築することがより簡単に、より安く、より早くできるようになる。これはメタバースの世界構築においてもっとも大切な概念の一つである。また、このプロセスにより、バーチャルオブジェクトとデータの標準化がさらに進む。
IVWPの開発者は、仮想世界で拡大を続けるオブジェクトとますます高性能になるネットワークの構築において、お互いに協力をしているのだ。Appleはゲームに関する専門知識が乏しく、またソフトウェアやネットワークではなくハードウェアに特化した企業であるため、今後有力なIVWPを構築する可能性は低いと思われる。
 
GAFAM企業のなかで、メタバース時代に生き残るのはマイクロソフトかもしれないと言われている。2001年に発売された最初のXbox以来、投資家や会社幹部はマイクロソフトにゲーム部門が不可欠なのか、それとも邪魔なのかを議論してきた。しかし、サティア・ナデラがマイクロソフトのCEOに就任して3ヶ月後、彼はマイクロソフトとしてのゲーム戦略を明らかにして、数十億ドルでMinecraftを買収した。これは利用者数最大といわれるIVWPである。

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マイクロソフトはゲーム体験をビジネスの中心に置いた。マイクロソフト・フライト・シミュレーターは、Xbox Game Studiosが開発・発売したものである。この作品は、無償利用できるオンライン地図であるOpenStreetMapsのデータを活用し、Azureの人工知能がこれらのデータを3Dビジュアライゼーションで描写し、リアルタイムの気象情報を提供し、クラウドデータストリーミングを行っている。

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Xbox部門は、独自のハードウェア群、世界で最も人気のあるクラウドゲームストリーミングサービス、ファーストパーティゲームスタジオの艦隊、および少数の独自エンジンも持っている。2022年1月、マイクロソフトは中国以外の独立系ゲームパブリッシャー最大手のアクティビジョン・ブリザードを750億Sドルで買収することで合意した。GAFAM史上最大の買収額といわれている。この買収を発表した際、マイクロソフトは「(Activision Blizzardは)モバイル、PC、コンソール、クラウドにわたるマイクロソフトのゲーム事業の成長を加速させ、メタバースのためのビルディングブロックを提供する」と述べた。

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多くの点で、Nadella 氏の Minecraft に対するアプローチは、Microsoft 社は全体的な戦略を変更してモバイル時代を生き延びてきた。この戦略によると、マイクロソフトのサービスは自社のオペレーティングシステム、ハードウェア、技術スタック、またはサービスのためだけに設計されることはなく、かつてのように、自社で動作するように最適化されることもない。代わりに、プラットフォーム非依存型になる。マイクロソフトのサービスは、自社のプラットフォームにとらわれず、できるだけ多くのプラットフォームをサポートするとしてきた。こうして過去10年、マイクロソフトは、コンピューティングOSの覇権を失いながらも成長することができた。この哲学を、メタバース時代にも当てはめよう、そしてオフィスもゲームもこのなかにとりこむとしたのだ。
 
1946年に設立されたソニーもまた、興味深い。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、売上高で世界最大のゲーム会社であり、自社開発のハードウェアやゲーム、サードパーティーの出版・流通に関わる事業を行っている。SIEはまた、世界第2位の有料ゲームネットワーク(PlayStation Network)、世界第3位のクラウドゲームストリーミング配信サービス(PSNow)、および複数の高度なゲームエンジンをつかって、『The Last of Us』『God.of War』『Horizon Zero Dawn』などのオリジナルゲームを開発している。

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一方、ソニー・ピクチャーズは、売上高で最大の映画スタジオであると同時に、独立系テレビ/映画スタジオ全体でも最大である。また、ソニーの半導体部門は、イメージセンサーの世界的リーダーであり、50%近い市場シェアを持ち(アップルはトップ顧客)、イメージワークス部門は視覚効果やコンピュータアニメーションのトップスタジオである。ソニーのHawk-Eyeは、世界中の多くのプロスポーツリーグで、3Dシミュレーションやプレイブラックを通じて審判を支援するコンピュータビジョンシステムとして使用されている。

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サッカークラブのマンチェスターシティでは、試合中にスタジアム、選手、ファンのライブデジタルツインを作成する技術も導入している。

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ソニー・ミュージックは、売上高で第2位の音楽レーベルでありTravis Scott はSony Music artistである。

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CrunchyrollとFunimationは世界最大のアニメストリーミングサービスを提供している。

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ソニーの資産とクリエイティビティを振り返ると、メタバースが出現した今、大きな可能性を感じさせる。SONYがメタバース時代の勝者でいいのでは、と思う人がおおいだろう。

だが、問題が無いわけでは無い。ソニーのゲームはほとんどプレイステーション専用であり、SIEはモバイル、クロスプラットフォーム、マルチプレイヤーゲームでヒット作を生み出すことに成功しているとは言えない。ゲームハードやコンテンツには強いが、オンラインサービスでは後塵を拝しており、半導体の分野では日本が強みを発揮しているものの、コンピューティング・インフラやバーチャル・プロダクトの分野ではリーダーシップを発揮していない。

これはどういうことかというと、ソニーがメタバースに移行するためには、 GAFAMのサービスや製品を利用する必要があるということになる。2020年、ソニーは強力なIVWPであるDreamsをリリースした。

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しかしながら、多くのユーザーや開発者を惹きつけることはできなかった。他のIVWPとは異なり、Drezznjs_was.はフリー・トゥ・プレイではなく、40ドルで販売された。さらに、競合するIVWPは世界中の何十億ものデバイスでプレイできるのに対し、このタイトルはPlayStation®コンソールに限定されていた。
ここ何十年か、ソニーはチャンスを逃した会社とされてきた。ソニーはウォークマンを通じて携帯音楽機器の世界的なマーケットリーダーであり、世界第2位の音楽レーベルを所有していた。が、デジタル音楽に革命をもたらしたのはアップル社であり、ソニーは家電、スマートフォン、ゲームに強みを発揮したが、携帯電話事業からは撤退し、コネクテッドTV.デバイスの分野にも完全に乗り遅れた。ソニーは、守るべきレガシーTV事業を持たない唯一のハリウッド大手であり、NetflixがDVDからピボットしたのと同じ年にストリーミングサービスCrackleを開始したが、この機会を生かすことはできなかった。

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ソニーがメタバースを実現するためには、多大なイノベーションだけでなく、前例のない部門横断的なコラボレーションが必要である。そして、同時に、PlayStationのような緊密に統合された自社製品の外に出て、サードパーティのプラットフォームと接続する必要がある。
 
最後の候補者はNvidiaである。この会社はグラフィックス・ベース・コンピューティングの時代のために30年以上かけて成長してきた。Amazon、Google、Microsoft のデータセンターに搭載されているハイエンドの GPU や CPU を供給している。しかし、Nvidia は、それ以上のサービスを展開している。例えば、同社のクラウドゲームストリーミングサービス「GeForce Now」は世界で2番目に利用されており、ソニーの数十倍、AmazonのLunaやGoogleのStadiaよりも桁違いに大きく、マーケットリーダーのMicrosoftの半分の規模となっている。

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一方、Omni Verseのプラットフォームは、3D標準を開拓し、異種のエンジン、オブジェクト、シミュレーションの相互運用を容易にし、「デジタル、ツイン」および現実世界のためのRobloxのようなものになる可能性がある。

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Nvidiaはゲームを制作したり、VR用のヘッドセットを販売することはないだろうが、自社のIVWPを提供してMetaverseで活躍する可能性の高い会社である。

この先はわかりにくいが、Robloxで遊んでいる世代はiPad ネイティブであり、彼らはいま大人になろうとしている。そして、シリコンバレーからだけではなくて、様々な場所で何千(あるいは何万)人もの同時ユーザーを素晴らしいゲームや、ブロックチェーンアプリケーションを開発して、魅力的なIVWPを生み出す可能性がある。
 
質問3: メタバースは社会にとって何を意味するのだろうか?

答え:信頼がこれまで以上に重要になる社会の構築がメタバースによって可能になる

さて、こうした競争において、哲学的な考察が必要な領域がある。それが「信頼」である。どの企業が破壊的イノベーションを経てメタバースの世界で主流になっていくのかは解らない。だが一握りのIVWPが、メタバースのプラットフォームとなり、人々がメタバースで費やす時間、コンテンツ、データ、および収益のかなりのシェアを占めていくだろう、ということである。

我々にとって大切なことは、メタバースをめぐる戦いは大企業同士でも、大企業とそれを駆逐しようとするスタートアップ企業との間でもない。iPodからiPhoneへの流れで、2007年にアップルがクローズドモバイルエコシステムを立ち上げた。アップルはこの判断で、モバイル経済を生み出し、より大きく成熟させ、同時に歴史上最も価値と利益のある会社と製品を生み出してきた。15年後の現在、米国のパーソナルコンピュータにおけるアップルのシェアは3分の2以上(ソフトウェア販売のシェアは4分の3に近い)二なる一方で、以前に詳細を紹介したEpicとの裁判に見られるように、アップルの支配は開発者と消費者から多くの選択肢を奪っている。

大企業なのかスタートアップなのか、という対立ではなくて、あたらしい軸をたてると話は見えてくる。Ballは次のように説明する。Epic Games の開発者向け Unreal ライセンスは、特定の Unreal Engine プログラムの開発者に無期限の権利を与える。また、Unreal のライセンスでは、開発者がカスタマイズをほぼ自由に行えるため、開発者は将来のアップデートを使用せず、4.13、4.14、5.0、およびそれ以降に Epic が追加するものの代わりに、独自に構築することを選択することが可能となっている。
 
Epic社はブロックチェーンによる権利の分散化も考えている。相互に排他的ではない権利をメタバースに構築するために、「現実世界」の法制度を拡張して、非物質的なものの物質性を反映させることが必要と主張している。Tim Sweeney氏は、「強力な企業が裁判官、陪審員、死刑執行人として行動する能力を持ち、「製品を作り」、「製品を流通させ」、「顧客関係」をサービスすることを止めることができる」という活動を行う(Appleの行動を指す)ことから誰も利益を得られないと論じている。
 
ここで非常におもしろいのはメタバースのなかに信頼を基本とする仕組みを生み出そうとしていることである。IVWPを構築するためには開発者を惹きつける必要がある。そのためにはIVWPを信頼してもらわなくてはいけない。現状のIVWPはより良い、より収益性の高い仮想商品、空間、世界をより簡単に、より安く、より速く構築するために、何十億も投資している。彼らはまた、単なるパブリッシャーやプラットフォームではなく、パートナーであるに値することを、メタバースのポリシーとして提供することに新たな関心を示している。これは常に優れたビジネス戦略でしたが、メタバースを構築するために必要な投資の膨大さと、それが開発者に求める信頼に答えるものになり、それがIVWPの発展を促す。よって、この戦略が最重要視されるようになったのです。
 
2021年4月、マイクロソフトは、PCのWindows Storeで販売されるゲームの手数料を従来の30%から12%に抑え(Xboxではそのまま)、Xboxユーザーはゲーム機のXbox Liveサービスに加入する必要なく、フリートゥプレイのゲームをプレイできると発表した。2ヵ月後、この方針は修正され、非ゲームアプリはマイクロソフトのものではなく、独自の課金ソリューションを使用できるようになり、その結果、VisaやPayPalなどの決済レールから課される2~3%のみを支払えばよくなった。9月までに、XboxはEdgeブラウザを「最新のWeb標準」に更新したと発表し、ユーザーはXboxの競合他社(GoogleのStadiaやNvidiaのGeForce Nowなど)が所有するクラウドゲームストリーミングサービスを、Microsoftのストアやライブサービスを使用せずに、デバイスからプレイできるようになった。
 
マイクロソフトの最も重要な方針転換は2022年2月に行われ、同社はWindowsオペレーティングシステムのための新しい14項目の方針プラットフォームと、"ゲームのために(同社が)構築する次世代マーケットプレイス "を発表しました。これには、サードパーティの決済ソリューションやアプリストアをサポートすること(そして、それらを使用することを選択した開発者に不利益を与えないこと)、ユーザーがこれらの代替手段をデフォルトオプションとして設定する権利、開発者がエンドユーザーと直接コミュニケーションする権利(そのコミュニケーションのポイントが、Microsoftのストアやサービス群を除外することによってより良い価格やサービスを得られることをユーザーに伝えることであっても)、が含まれていた。重要なことは、Xboxのハードウェアは赤字で販売され、Microsoft独自のストアで販売されるソフトウェアによって累積的な利益を生み出すように設計されているため、これらの原則のすべてが「現在のXboxコンソールストアに直ちにかつ全面的に適用されるわけではない」ことをMicrosoftが表明したことである。ただし、Microsoftは「Xbox本体上のストアであっても、ビジネスモデルを適応させる必要があることは認識している。. . . 残りの原則については、時間をかけてギャップを埋めていくことを約束します」と述べた。
 
2021年10月にFacebookのメタバース戦略を発表する際、マーク・ザッカーバーグは「メタバースの経済性を最大化」し、開発者をサポートする必要性について明確に述べている。例えば、ザッカーバーグ氏は、Facebookのデバイスは引き続き原価以下で販売されるが(コンソールに似ているがスマートフォンとは異なる)、同社はユーザーが開発者から直接、あるいは競合するアプリストアを通じてアプリをダウンロードできるようにすると述べている。また、OculusのデバイスはFacebookアカウントを必要としなくなり(2020年8月に新しいポリシーとなった)、自社独自のAPIスイートを作るのではなく(要求するのはともかく)、ブラウザベースのAR・VRアプリ用のオープンソースAPIコレクション「WebXR」とインストール型のAR・VRアプリ用のオープンソースAPIコレクション「OpenXR」を継続して使用すると発表した。
 
その後数週間のうちに、Facebook は、かつてサポートされていたものの数年間閉鎖されていたいくつかの API と競合プラットフォームとの統合を発表した。最も注目すべき例のひとつは、InstagramのリンクをTwitterに投稿すると、関連するInstagramの写真がツイートの中に表示される機能である。Instagramは2010年のサービス開始後間もなくこのAPIを提供しましたが、2012年にFacebookに買収されてわずか8カ月後にこのサービスは削除された。
 
マイクロソフト、フェイスブック、そしてその他の巨大企業について皮肉るのは簡単なことだ。2020年5月、マイクロソフトのブラッド・スミス副会長(ナディラ氏はCEOで会長)は、オープンソースソフトウェアに関して同社は「歴史の間違った側にいた」と述べ、2022年2月には、米上院が可決した、アップルとグーグルに自社のモバイルOSを第三者のアプリストアや決済サービスに開放するよう求める法案を公に支持した(彼はこの「重要」法案により「競争を促進し、公正さと革新を確保できる」と述べている)。
 
さて、IVWP型のメタバースプラットフォームでは開発者やユーザーがプラットフォームを信頼できることが必要になり、そのようなプラットフォームだけが勝ち残っていく。これが哲学である。この哲学を実現するのがブロックチェーンをつかってプログラミングできるapplicationの「トラストレス」で「パーミッションレス」な性質である。

人々は、Google MapsやInstagramなどの「Web 2.0」の時代には多くの素晴らしいサービスを無料で受け、多くのキャリアやビジネスがこれらのサービスの上に、そしてこれらを通じて構築された。しかしながら、個人情報を膨大にGAFAMに蓄積されてしまったいま、多くの人はこの交換が公平なものではなかったと考えている。ユーザーは「無料サービス」の見返りとして、これらのサービスに「無料データ」を提供し、それが何千億ドル、何兆ドルという価値のある企業の構築に利用されたのだ。

さらに悪いことに、これらの企業は事実上顧客のデータを永久に所有し、その結果、データを生成したユーザーが他の場所でそれを使用することが難しくなっている。例えば、アマゾンのレコメンデーションは、何年にもわたる過去の検索と購入に基づいているため、非常に強力だが、その結果、同等の在庫、低価格、同様の技術があっても、ウォルマート(あるいは他の「新興企業」)は、アマゾンの顧客を満足させるために常に困難な道をたどることになる。これでは公正な競争が保てない。公平な競争を維持するためにはアマゾンにため込まれた自分の履歴をエクスポートして競合サイトに持ち出す権利をアマゾンはユーザーに提供しなければならない。Instagramのユーザーには、技術的にはすべての写真をダウンロード可能なZIPファイルにエクスポートし、競合サービスにアップロードする権利は与えられているが、コレを行うプロセスは簡単ではない。また、各写真の「いいね」やコメントを引き継ぐ方法は提供されていない。また、多くの人が、「データで構築された企業」が、現実世界を劇的に悪化させ、サービスを利用する人々の心理的・感情的な生活に悪影響を及ぼしていると考えている。ザッカーバーグがメタへの社名変更を発表したときの反応の大部分は、嘲笑で占められていた。なぜ、フェイスブックのような会社が、さらに我々の生活に入り込む必要があるのか?知らないうちに社会はオーウェルが『1984』で描いたような社会になり、ギブソンやスティーブンソン、クラインが描いたディストピアとなってしまったのではないか?

これはappleが1984年に打った記念碑的なコマーシャルで、IBMの巨大なコンピュータが社会をしはいしている。それをappleはぶちこわす、というものである。オーウェルの小説をもとにしている。当時はこうした哲学をもっていたApple社だが、いまや巨大コンピュータによる支配側に回ったと言うことである。

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さて、ここで非常にたいせつなことがある。現在 「Web3」「Metaverse」という言葉が混同されている。巨大なクラウドに個人のデータをため込みそれを強力なコンピュータで分析して人々の行動を予測してビジネスを行う。これがweb2である。ことときに、GAFAMの技術巨人たちに与えられる個人の自由を束縛する力はス座間市鋳物がある。メタバースという言葉はディストピアSFからきているという歴史を最初に紹介したが、マトリックス、メタバース、オアシスという言葉で表される世界を支配する人々がその情報を悪用することを止めることは出来ない。絶対的な権力はかならず腐敗する。

EpicのCEOであるスウィーニーは警告する。「もし、ある中央企業がメタバースを掌握したら、彼らはどんな政府よりも強力になり、地球上の神となるであろう。」ここがメタバースの真剣な議論における最も重要な点である。メタバースが登場して我々がそこに生きていくためには、メタバースが絶対的な権力をもたない必要がある。そのようなメタバースで無い限り、私たちは信頼をもたないだろう。web3とはそのような信頼を生み出すものであり、ブロックチェーンをつかって様々なアプリケーションを構築して私たちの周りにいあるメタバース世界を信頼できるものにしていく必要があるのである。そのための「信頼」を生み出す政策を作り、ブロックチェーンアプリケーションにして、web3として、メタバースに埋め込んでいく必要があるのである。


次回第15章ではTCO/IPを拡大して信頼できる環境をblockchainで構築していくための政策について議論を進めたい。










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