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このことは秘密。【小説】
心地良い静寂を感じる。
九月。少し涼しい日。
車が行き交う道を離れて、住宅街を抜け開けたところ。
ふぉん。と耳当たりの良い静寂。
緩やかな風が頬を包む。
三十メートル先に母親と娘らしき二人。
娘は三歳ぐらいか。ニンマリとした笑顔を母親に向け両手を伸ばす。
娘を抱え上げ、なにやら、キャッキャッと二人で笑っている。
そんなサイレント。
声は聞こえない。
ふぉん。としている。
イイなぁ。イイね。
色々と騒がしいことが多かったと思い浮かべる。
そして、そこに慣れようと、少しだけ視線の滞在を増やしたりしていた。
目を逸らすまでの時間を少しだけ溜める努力。
たったそれだけのことで、たまに、とても悲しい気持ちになることがあった。
そして、その視線の滞在にある程度効果があることが分かると、また悲しくなる。
僕の中の「心地良い静寂」を手放さないといけないような気になる。
このことは秘密。
心地良い静寂のことは、僕の胸にしまっておく。
だけどたまにこっそり黙って少しだけ離れる。
そして、ふぉん。とする。
それぐらいは良いだろ。
と、思うことにした。
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