流れがやってくる。【短編小説】
バス代が片道30円上がった。
会社に交通費の更新をお願いすると、グニャっとした印象のメモが置かれ、なにかしら「匂い」がしたので、
「そろそろ辞め時じゃない?」
と夫婦の中で浮上した。
まあ、不信のままも嫌だなと、直接担当に確認。
グニャっとしていたまま、ただ「和解」の提示がなされた。
「様子見かね」
と、夫婦で合意。
そこから。
何年も務めていたムードメーカーで要の一人だった人物が辞めることが決まり、数日後、頼みの綱で心の支えだった一人も辞めることが決まった。もちろんバス代が原因ではない。
そんな偶然。
二人ともとても心地良い人で、僕は沢山助けられてきたので、ひたすら寂しい。
「寂しいなぁ」
と、思いつつYouTubeを見ると、会社辞めるドッキリと、人気者の無期限活動休止の動画。
ざわざわ。
「なにか促されてるみたい」
と、妻に言うと、
「そういうのあるのよね」
と、頷く。
「でも、まあ、流れって突然来るから、想像もしてないところから」
と、僕の経験則。
「なんか来るかもね」
まあ、流れだから。
職場の同僚は辞めたら、会うことはなくなる。
それも経験則。
寂しいなぁ。
でも、より良くなるために、人は移動を試みるんだから、それはやはり感謝であって、ただただ祝福を。
と、黄昏れる。
バス代は上がり、友人はぎっくり腰になり、犬は散歩の遠出を嫌がり、部屋の模様替えを試みて、宮崎駿の10年ぶりの新作に打ちのめされる。
そしてずっと考えてる。
なにを考えるべきか考えてる。
考えの断片のメモが増え、その断片の中に、また「考えるべき」を考える。
でも、いくら考えても、突然「流れ」はやってくる。
バス代の値上げのように、予期せぬ場所から。
ざわざわ。
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