バスケがしたい。
駐車場横の公園には、バスケットゴールがある。
通りかかる度に、こういう場所で誰にも見られないでシュートの練習とかしたいなぁと思っている。
別に、バスケがしたいわけではなく、
早朝。朝日。静けさ。朝靄。
そんな空間の中で、ボールをストンストンストン音立てながら、軽やかにドリブルして、スンっとシュートを決めてしまう。
それが楽しくなり。
ああ、生きてる。息してる。
そんな感じへの憧れ。
で、気がつけば上達したころ、理不尽な親になってしまった元バスケ選手が、子供が密かに楽しんでいたギターを取り上げ、
「お前はバスケをやれ、音楽なんかするな!」
と、公園へやってくる。
その光景を見て、
「子供の好きなことをさせてやれよ」
と、声をかけ、
「他人は黙ってろ!」
「あんた、見たことある顔だね、バスケの選手だった……」
「うるせぇ」
「あんた、子供にバスケさせたいのって、自分が果たせなかった夢を無理やり背負わせようとしてるんじゃないか? そんな根性じゃ、今の俺にすら、バスケで勝てやしねぇさ」
なんて、喧嘩吹っ掛けて、なんだかんだで、勝ってしまう。
少年は、将来凄いミュージシャンになり、
俺は、その曲を聴きながら、父親と酒を酌み交わし、あの日のバスケ対決を振り返る。
なんて、ところまで妄想が膨らんだある日。
誰もいない公園。ボールが一つ隅っこに置き忘れてあった。
これは、きっかけかも。
と、周りに誰もいないのを確認。
ボールを手に取り、
ゴールを見つめ、
「それっ」
外れる。
何度かやってみるが、外れる。
全然楽しくない。
汗とかかいてきて気持ち悪い。
蒸し暑い。
「……」
ボールをもとの位置に戻し。
「帰ろ」
帰り道、出会うかもしれなかった少年を思い、
悪いが父親の説得は自分でして
素敵なミュージシャンになってくれよな。
なんて考えたり。
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