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ポワポワ【短編小説】

娘が行方不明になった。
海外旅行に行き、連絡がつかなくなった。

最後にLINEで動画が送られてきていた。

「お父さん。大好き。沢山の思い出ありがとう。帰ったらまた連絡するね」

と、少し淋しげな笑顔で画面に向かい話している。
この動画をもらったとき、特に考えもせず。
「お父さんも大好きだよー。楽しんできて」
と、返事を書いた。

なぜ動画だったのか?
なぜ少し淋しげだったのか?

そして、娘は無事なのだろうか?


娘が行方不明になって2週間が過ぎた日の夜。
不思議な夢を見た。

「ポワポワ、ポワポワ」
と、声がする。
ポワポワ?
「ポワポワ、ポワポワ」
辺りにはモヤがかかり、一面は少し背丈の高い草むら。

「ポワポワ、ポワポワ」
僕は、その声に導かれるように、草をかき分け進んでいく。
草は柔らかく、羽のような肌触り。
次第に心地良くなり、この草に包まれて眠ってしまいたくなる。僕は歩を止め、座り込もうとしたとき、
「ポワポワ!」
さっきまで柔らかく囁いていた「ポワポワ」が、激しく叫んだ。
ポワポワ?

しかし、眠気が全身を包み込む。
もうなにもかもどうでもいい。
と、そのとき、
「ポワポワ……お、お父さん」
ポワポワがお父さんと聴こえた。
僕は顔を上げると、
草むらの先、娘が立っている。
「え!」

眠気が吹っ飛び、慌てて草むらを飛び出し、娘に近づこうとしたが、距離が縮まらない。
娘の名前を呼ぼうとするが、
「ポワポワ!」
ポワポワとしか言えない。
ポワポワ?

僕は立ち止まると、娘は離れていくことはせず、こちらを向いている。
「ポワポワ」
と、娘が言う。ポワポワの中にも微妙な響きがあり、意味あいがあるようだ。
僕は、大丈夫かと、
「ポワポワ」
と、言う。
娘は笑い、
「ポワポワ」
と言った。

そこで目が覚めた。
なんだ、あれは。
ポワポワ?

それから3日後、娘からLINEが入った。
無事だから安心して。
と。
僕はホッとして、「ポワポワ」と送ってみた。

は?
と、返事が届いた。

良かった。世界は素晴らしい。

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