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彼女は回る【短編小説】

彼女はフィギュアスケートが好きだった。
クルクル回って、パッと決めポーズ。
部屋の中、テレビの前でその真似をした。
小学生の頃は祖母が喜んだ。
友達も教室とか放課後の帰り道でなんとなく一緒に回って楽しかった。

クルクル回る。
パッ。

フィギュアスケートをやるという機会には出会うことはなかった。
彼女はただ、その場でクルクル回って、パッとポーズをする。
それをたまにしながら、アラサーになった。

祖母が死んだときに、病室のベッドでも回った。祖母は目を瞑ったまま、もう喜んではくれなかった。
受験合格でも回った。
就職しても回った。

しかしある時気づいた。

「……」

最近、人前を避けて回っている。
あの憧れたフィギュアスケートのように、回っていることで多くの人が喜んでくれると錯覚していた気持ちはもう、無くなっていた。

一人で回っている。
パッ。

涙が出た。

帰りにエクレアを2つ買った。
最近太るかもって我慢していたのだけど、いいやって食べた。

回りたい。

秋になって彼氏ができた。
デートを4回ほどしたとき、

「見てて」
ひとけの少ない広場で彼女は彼の前で回ってみた。
「おおー、凄い、回るねー」
と、最初は余裕を見せていた彼も、あまりに回る彼女を見て、
「……」
立ち上がり、

「え?」
彼女が回りながら目を疑う。

彼も回ったのだ。

二人が回る。
回る。

が、「ダメだっ」っと彼の目が回りその場で尻もちをついた。

彼女はまだ回っている。
そして、パッと、ポーズをとった。

彼が拍手する。

「なにそれ! 凄いね!」
「ね、なんだろうねこれ」

そう言うと、やっと彼女は久しぶりに心から笑えた。

そんな喜びもあるのだと、その日知った。




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奥田庵 okuda-an
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