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思春期のこと。【短編小説】

「今日が最後だ」
と、彼が言ったのは、20年も前のことだ。

僕達はまだ少年で、真剣で深刻に思春期だった。

最後に遊んだのが、あの日。
沢山遊んだ日々の中で、「最後」と決めたあの日。

「ねえ、なんで今日が最後なの?」
と、僕が尋ねると、
「このままだと終われないから」
「終わりたいの?」
「いや、終わらないと、始められないんだ」

僕はしばらく黙って、その意味を考える。
「わかった」

そう僕は答えたが、たぶん、わかってなかった。どうせまた遊ぶはずさ。と。

僕と彼は川に足をつけながら、空を見上げた。雲がゆっくりと流れている。
「嘘つきって言われたのはショックだった」
「加山が言ってたやつ?」
「ああ、オレは嘘ついてるつもりはなかった」
「うん」
「でも、結果、嘘つきって言われてもしょうがなかった」
「ああ」
彼は、加山に剣道の大会で優勝を約束して、結果、3位だった。別に彼が悪いことしたわけじゃない。

「もう、嘘つきにはなりたくない」
「よくやったさ」
「ガッカリされたくないんだ」
「加山はどっちみち、お前と付き合う気はなかったのかもな」
「それだとしても、勝ちたかった」
「うん」

僕は、なんで今日が最後だなんて言っているのか、その意味を考えていた。

「オレ、芸大に行きたいんだ」
「芸大って、画家になるやつ?」
「うん。魂が震えるような絵を描いてみたい」
「そうなんだ」
魂が震えるか。たぶん真剣に深刻に言ってるのだろうな。

だから、遊べないのかな?
「だから最後」
「そうか」

その後彼は芸大に落ちて、浪人生活に入ったことは知っていた。
僕は、デザイン学校に入って、広告と撮影について勉強し、今もそんなような仕事をしている。

たまに彼のことは思い出していたが、同窓会にも出てこなかったし、噂もあまり聞かなかった。

ふと、アーケードの下を歩いていると、ショーケースに何枚かの絵が飾られていた。

比較的色が鮮やかな絵。
なんとなく立ち止まり眺めて、
「ん?」

絵の下に作家名が書かれていて、「彼」の名を見つけた。

「……」

僕はたぶん、彼だと確信した。
20年か。

「今度は勝ちだな……」

僕は囁き、ふと、また遊べる日が来る気がした。



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奥田庵 okuda-an
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