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評判のお店にて【短編小説】

妻とのランチ。
ネットで評判のレストランへ行く。

フレンチ。

「入れますか?」
「どうぞ」

思ったよりカジュアル。
一番安いコースが3000円。
たかっ。

二人ともそれ。
で、メインを妻がお肉料理、僕が魚料理。

「お飲み物は?」
「お水でいいです」

本当に酒は飲まないので水でいいのだ。
けど、ちょっと後ろめたい。

「かしこまりました」
と言った店員さんが、一瞬、白目をむいた。

ん?

まあ、いいか。

前菜、スープ、パンと、その中年女性の店員さんがスッと、お皿を運んできて、料理の説明をしてくれる。

が、説明の度に一瞬白目をむく。

「……」

なぜ?
なんとなく、馬鹿にされている気持ちになる。
なるのだけれど、その可能性を一度横へ置き、たぶん、癖なのだろうと、納得する。

誰も注意しないのだろうか?
いや、お店の人は接客中の彼女の白目を見ることはできないだろうから、知らないのかもしれない。注意するとすれば、お客さん?
いや、しないだろ。
一瞬、白目をむくから、それ止めてって言うの、レストランに食事を楽しむために来てるのになかなかハードル高いかも。

僕も気にし過ぎかもしれない。
気取って、澄ましているつもりが、ああいう白目をむくという行為になってしまったのかもしれない。
もしかしたら、あれが彼女が習ったこの店の正しい「接客」なのかもしれない。そうじゃなくて白目は彼女の個性であって、紆余曲折の末、誤解を受けながら生きてきて、辿り着いた先がこのレストランなのかもしれない。

つまり、馬鹿にされている訳ではない。
たぶん、癖である。
悪気もない。

だから、ここに今、なにも危惧することはないのである。

とか、思ってたら、何だか食べ終わってた。
デザートと、コーヒー。

そんな美味しくなかった。
気がする。
というか、白目しか思い出せない。

店を出て妻と話した。
「店員さん、説明のとき白目向いてたね」
と、僕が言うと、
「ね、料理の名前と内容を思い出すとき、上向く人なのかもね」
と、妻が言った。

「なるほど、思い出してたのか!」
「一瞬、馬鹿にされている気になるよね」
「なる!」
「でも言えないよね」
「言えない!」

そうか、良かった。
妻も思ってたんだ。

ふむ。
心残り。

まあ、世間には評判が良いお店なのだ。
良かったじゃないか。

ふむ。
心残り。


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