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お向かいさん【短編小説】
老後にふたり暮らしだった、向かいの家に住んでる夫婦。
お爺さんは耳が遠いらしく、
「ご飯はもう少し待ってね!」
とか、
「今日は暑くないね!」
とか、
「電話は明日って言ってた!」
なんて、声を張り上げるお婆さんの声がよく聞こえた。
お婆さんは、家の前に沢山の鉢植えや花壇をいつも整えて、お花を綺麗に咲かせていた。
それをお爺さんが座って眺めている。
お婆さんは横に座ることなく、ずっとお花をいじってる。
そんな姿をよく見かけた。
ある日、家の前に霊柩車が止まり、喪服を着た男性二人が腕時計を見て、時間を確認し、ドアまで歩き、チャイムを鳴らしていた。
あのお爺さんが亡くなったようだ。
その日を境に、お婆さんの張り上げる声は聞かなくなった。
しばらくして、お花をいじるお婆さんもあまり見かけなくなった。
たまに、見慣れない車が停まってたり、家族らしき男性が出ていくのを見かけたりした。
やっぱり、お婆さんはお爺さんに見せたくてお花をいじってたのかなと、僕は思った。
そして、お花とともに自分の姿も見てもらいたかったんじゃないかなと思った。
ある日、お婆さんがまた、お花をいじっていた。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
お婆さんは、お花に水をやり、そして、お爺さんが座っていた椅子に腰掛け、庭を眺めた。
お爺さんに見せたかったお花の景色。
お爺さんが見てくれていた景色。
それを見てみたくなったのかな?
そんな想像をしながら僕はバス停へと向かった。
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