T.T 4話-6「千尋の夜 Zz。.(⁎ꈍ﹃ꈍ⁎)」
四万十町 野勢
朔日庵 十六夜の間 布団の中
眠る 鷲見野 千尋 (すみの ちひろ)
千尋 十七歳
警察なんか大嫌いだ。
新宿辺りのどこかの警察署に連れて行かれた。
若い女性警察官が出て来て 生活安全課少年係 なんだと言う。
はぁ。 少女ですけど「少年係」……なんですねぇ。
まぁありきたりなんだろうけど担当した婦警は「保護者を呼べ」の一点張りだった。
初対面の人と話をしたくないのでずっと黙っていた。
「親は心配しているだろう」とか「このままでは学校にも連絡しなくてはならなくなる」とか言ってくるが特にどうでも良いので黙っていた。
若い婦警では難しいと判断したのか、少しお歳を召した婦警が出て来て状況が変わってしまった。
その婦警は部屋に入って来るなりすぐに私のことを「見たことがある」と言い出した。
そうなのだ。
高校に上がるまではあちこちで賞を取っていたので、何度か新聞などにも取り上げられたことがあった。もしかしたらそれを見られたのかもしれしれないとドキドキした。
「確か……すみのちひろ さん よね?」 と言うので心臓が爆発した。
「変わった名前だなぁ と思って印象に残っていたのよ」
残すなよ そんなもん。
この婦警、結構お喋りらしくドンドン一人で喋り出す。
実はその婦警の娘さんが同じ大会に出ていたらしい。
しかもあの大会にも応援に来ていたのだという。さらにあの時この婦警も人工呼吸ができると言うことで自分のそばまで来ていたのだ。だからあの涙だらけ涎だらけの顔を見られていたのだから恥ずかし過ぎる。
それでも黙秘を続けていたが、大会関係者に連絡が取られたらしくその線から身元がバレてしまい親に連絡が行った。
もう仕方がないので、色々と話し始めた。
一番に訴えたのは、同じ部屋にもう一人女の子がいたこと。これはマンガ喫茶の受付に電話してくれてすぐに確認がとれた。
次に捕まったその時点で自分はシンナーをやっていなかったこと。逆にそのもう一人の女の子がやった可能性はあること。
そしてその女の子に自分のカバンを盗まれたこと。
しかし、この婦警はちゃんと話を聞いてはくれなかった。シンナーのことはハナから嘘だと思っているのが見え見えだし、カバンの盗難のことも結局被害届のことは誤魔化された。
……クソ警察。
しばらくしてやって来たのは母だった。
口を聞きたくないのでまた黙った。
母は何にも知らないのに一方的に自分を悪者にしてきて腹立たしかった。
さらにクソ警察官に低姿勢で何度も何度も謝っていたのも気に食わない。
私にも謝るように言ってきたが無視した。
結局、未成年で初犯ということもあり警察官は厳重注意で済ますと言った。
車で家に連れ戻されたが、次の日に逃げ出した。
いつものハンバーガーショップに行って朝から晩までナオコが来るのを待ったが、彼女は現れなかった。
代わりにナオコから紹介された男が現れて声を掛けて来た。
ナオコの行き先を尋ねたら、バイクの後ろに乗るなら教えると言うので仕方なく従った。
バイクは初めての経験だった。
連れて行かれたのは江ノ島だった。
夏の江ノ島は深夜でも車が沢山来ていたし人も多かった。
いわゆる暴走族と呼ばれているオートバイが沢山集まっていた。バイクが停まってしばらくするとピンクのツナギを着たそのグループの一員らしい女の子が近寄ってきてカバンを渡してきた。
その女の子にナオコの居場所を尋ねたが「そんな女は知らないし、そのカバンを渡すように頼まれただけだ」とそう言って何処かへ消えて行った。
気付いたらここに連れて来てくれた男もいなくなっていた。
カバンの中身はそのままだった。特にお金に変えられるような価値のあるのモノは入っていなかったので捨てられたかと思っていた。
カバンの中に一通の手紙が入っていた。
「チヒロありがとう。またね」
とそれだけ書かれてあり 千円 入っていた。
終電は終わっていたので、どうやって帰ろうか考えたがヒッチハイクも怖いので歩いてハンバーガー屋へ行って朝まで過ごした。
そしてコーヒーを飲みながら高校三年の夏が終わったなぁ と思ったら十八歳になっていた。
二学期になって随分と遅い進路指導があった。
同級生達はみんな自分の進路をすで決めていてそれに向けて頑張っていた。
自分ももし水泳で頑張ることができていれば、どこかの大学にスポーツ推薦か企業のクラブへの所属が可能だったかもしれないがそんな望みはもうない。
この時点では、自分は特に何も考えていなかった。いや考えられなかった。何をしたらいいのかまるで思い浮かばない。
そうしたら進路指導の先生が「看護学校でも行くか? 食いっぱぐれはないぞ」と言うのでそうすることにした。
(つづく)
T.T 4話-6「千尋の夜 Zz。.(⁎ꈍ﹃ꈍ⁎)」
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