東大生と京大生への講演 その1
「アナリストよ、
歴史家のように記述し、
科学者のように分析し、
芸術家のように共感し、
哲学者のように思考せよ。」
2015年に東大生と京大生を相手にアナリスト業務について講演したことがありました。その講演内容をメモってくれた東大生のA君がいました。
8年前のものですが、懐かしく想い紹介します。
■1■疑問
「バイサイド」と呼ばれる機関投資家に所属し、運用の現場で日々奮闘している若いアナリストたちは四半期ごとの短期業績について膨大な時間を費やしている。それらは本当に重要なことなのだろうか。
運用の現場では、ファンドマネージャーが売りと買いの材料を「絶えず」探しているように見える。
投資の材料を「絶えず」探し回る必要はあるのだろうか。
運用対象としての株式はそんなに頻繁に売買する必要があるのか。
今日10%下落している銘柄を明日5%リバウンドするかどうか議論をする。
この議論は本質的なものだろうか。
アナリストやファンドマネージャーは、豊富な情報源を持っている。
あらゆる情報を投資機会へと結びつけようとする。
よいアナリストとは何だろうか。
フットワークが軽く、相当な数の会社を訪問し、膨大な情報を短時間で加工し、スピーディに投資に結び付ける。一般的には、申し分のないアナリスト像かもしれない。
だが、投資判断は、そもそも、それほどの短い時間で下せるものなのだろうか。朝早く出社し、ロンドンやニューヨークやシカゴ、株や債券や商品、様々な情報をかき集める。この数分でどのセクターが下がった、どの要因が大きかったかを24時間リアルタイムのシステムが示す。人工知能が過去の株価パターンを解析し投資アイデアを数秒ごとに作成していく。
果たして、これは投資だろうか。
こうした数々の疑問に答えを用意したい。
若いアナリストは、「短期の株価のあてっこゲーム」が運用だと思い込んでいるかもしれない。そうだとすれば、彼らの折角の優れた才能が無駄になる。
■2■比べてはいけないものを比べて
運用とは、多くの候補の中からいくつかを「選ぶ」作業である。
つまり、何千社ある上場企業の中から、特定の投資指標を一律に作用させて、投資先を選ぶ。それが投資プロセスである、とされている。
何千社という上場企業を母集団として、網羅性のあるユニバースを設定し、それぞれの業績を同時進行的に一律評価し、そのユニバース内のメンバー間に順序をつける。
大まかにいって、ほとんどの機関投資家はこのようなプロセスで運用している。
だが、何千社を同時に順序付けができる尺度が存在するという考えの愚かさに気が付いてほしい。そんな便利な指標が世の中にあるはずがない。
■3■対象(企業)を固定して、その株価とその「理論株価」とを比べる
比べるのは、会社の株価とその会社の「理論株価」である。
トヨタの株価は東証で成立している現在値である。
トヨタの理論株価は、彼らの将来の業績といまの財務内容などで決まる。
理論株価を算出するためには、永続するキャッシュフローを推定しなければならない。そのためには、どれだけの前提が必要となるだろうか。大変な作業であることは間違いない。
その膨大な作業を通して、ようやく、トヨタの現在の株価とトヨタのあるべき理論株価とを比べることができる。
理論株価が実際の株価より高いのであれば、「買い」の候補となるだろう。
つまり、ユニバースの中で、違う銘柄間で割安か割高かを議論するのではなく、企業ごとに理論株価を算定すればよいのだ。
単年度の収益で割安度合を論じるのではなく、包括的に将来のキャッシュフローを想像しつつPERではなく理論株価を論じるべきなのだ。
(つづく)
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
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