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温故知新 back to the future その2 伝説のレポート ~山一證券経済研究所の月報より~

伝説のレポート ~山一證券経済研究所の月報より~
 個別株、個別産業の研究

[要旨]

 1984年山一證券経済研究所のアナリストT.Iさんは月報に超純水製造装置について執筆した。
 T.Iさんは、33年前にすでに半導体向け超純水製造装置への深い洞察を行った。
 当時、栗田工業の株価はいまの10分の1であった。

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==古きを温ねて、新しきを知る==

 このコーナーは、古き良き時代の証券レポートを紹介し、現在の証券業界への警鐘を鳴らします。

==▼山一證券 伝説のレポート YRI 山一證券経済研究所発行の証券月報 1984年8月月報より==

::::YRI 山一證券経済研究所アナリストT.Iさんの超純水製造装置業界の調査レポート::::

【調査】

 需要急拡大の超純水製造装置。

 超純水は、原水をさらに高度に処理し、理論純水に近づけた水である。
 濁度1度以下(井戸の10分の1)、電導率10MΩcm以上(井戸の50分の1)、微粒子200個/cm3以下(井戸は数千個/cm3)、生菌5個/cm3以下(井戸 個数は数え切れない)

 顧客は半導体産業と薬品産業。

 ここでは半導体向けに限って話を進める。

 半導体製造に際しては、洗浄水として大量の水を使う。
 しかし、その水は微粒子さえも含んでいない超純水が要求される。
 ちなみに、超純水を使用する主な工程は、ウェハー処理工程の
「酸化 → フォトレジ処理 → マスク合わせ → 露光 → 現像 → エッディング → 拡散」を繰り返し、100~200工程にも及ぶ。

 超純水が要求されるのは、水質が半導体製品の歩留まりを左右するからである。

 超純水製造装置は、このようなニーズに合った「貴重な水」を造る装置であり、最近はその性能向上が著しい。
 技術的には、膜分離技術の進歩が多分に寄与している。
(粒子の大きさと分離技術の表)
(表では電気透析、逆浸透、限外ろ過、精密フィルターなどの分離機構と粒子の大きさを対比。)

 すなわち、高機能の逆浸透膜(RO)法で、限外ろ過膜(UF)法などの導入が進んだことにより、1000分の1ミクロン位の微粒子も除去することが可能になった。

 さらに、最近では、LSI → 超LSIと素子の集積化の進展につれ、要求水質は一段と高まる方向にある。
(表で16Kビットから256Kビットまでの集積度に対する要求水準を記載している)

 256Kビットの段階では、比抵抗でみる限りはもはや理論純水と大差ないほどの水質である。

 このような要求水準の高まりに、超純水装置関連の各企業は、イオン交換法、逆浸透法、限外ろ過法などいくつかの処理法を組み合わせシステム化することによって対応している。

 12図がシステムの概略図である。まず原水を凝集剤、濾過器で前処理する。
 次に、前処理で完全に除去できなかった不純物を取り除く。
 ここでは、逆浸透膜装置、イオン交換装置により、より小さなゴミやイオンを除き超純水を製造するわけだ。
 さらに、高純度の超純水にするためサブシテムを通し、半導体の洗浄工程へ配水する仕組みである。
 なお、このシステムは、1メガビット級の超LSIにも対応できるともいわれている。

 前置きが長くなったが、これからが本論である。
 この超純水製造装置の市場は、半導体産業の活況により、急拡大している。

 同装置の市場規模は、業界筋の推計によると55年45億円、56年63億円、57年90億円、58年130億円とみられ、この間の年平均成長率は40%超のペースである。

 ところで超純水製造装置の需要は、半導体産業の設備投資どうこうに左右されることはいうまでもないが、一般的に同産業の設備投資額の3%程度が超水製造装置(システム)にあたるといわれている。

 とすれば、59年(1984年)度の同装置の市場規模は、半導体設備投資額6310億円の3%で189億円と推算される。
 その後の設備投資増額修正の動きからみれば、ほぼ200億円に達する見通しである。

 では、60年度以降の中期見通しはどうだろうか。

 結論からいえば、半導体産業の設備投資は年率2ケタ増ペースで推移することが見込まれており、引き続き超純水製造装置の市場拡大は続く見通しである。

 ここで、半導体産業の動向にについて若干触れると、その設備投資は集積度が高まるにつれ階段状に増加する性質をもつ。
 58年度、59年度の設備投資の増加はLSIの主流が16Kビットから64Kビットへの移行する局面でも新規増産投資であったわけだ。
 64Kビットは現在すでに最盛期にあることからすると、60年度、61年度は設備投資の端境期にあたり、伸び率がスローダウンする公算もある。

 ただ、その後は、62年度から1メガビットが立ち上がり、
 本格的な超LSI時代を迎えるとみられるため、65年度※にかけて再び設備投資急増場面の到来が予想されている。
(※この時点で山一證券は6年先まで二桁成長を予想していることに注意してください by 議長)

 そこで、結論に戻るわけだが、こうした半導体産業の設備投資動向から、業界筋では先行きの超純水装置の需要をならしてみれば年平均23%増のペースで拡大すると予測している。
 5年後の64年度の同装置市場規模は500億円超となる計算だ。
 同装置の関連企業として、オルガノ、栗田工業が市場をほぼ二分している状況。

 超純水製造装置は半導体の生産収率に決定的影響を与えるだけに、ユーザー企業も導入装置の選定に当たっては神経質とならざるをえない。
 その場合にユーザー企業が最重要視するのは、同装置のみならず相手企業の技術力への信頼度、並びにその裏付けとなる実績である。
 要するに、この分野への新規参入はなかなか難しく、ここ当分、オルガノ、栗田工業の二社による寡占状況が続きそうである。
 また、医薬品、食品業界など他産業でも膜分離技術を利用した純水装置のニーズが高まっていることを付け加えておきたい。

(1984年7月執筆 山一證券経済研究所のT.Iさん)

:::::以上YRIの證券月報の「調査」より:::::

Back to Year 2017!!

現代に戻ります!!

 月報はほとんどが市場全体、マクロ俯瞰であり、たまに調査として産業全般の見通しが書かれている。
 テキストベースでは紹介できないのが残念だが、図や絵や表をたくさん載せているので非常にわかりやすい。

 さて、昭和59年(1984年)の栗田工業の売上は685億円。
 純利益は12億円で22%増益であった。
 配当は6円であった。
 株価は500円で時価総額は450億円であった。

 現状の時価総額は3560億円。株価は3000円代。
 その間の配当、分割も考慮すれば1.4株に増えているから株価は10倍。
 その間の配当だけで購入コストを大きく超える。

【YRIのT.Iアナリストの調査の目】

【長期成長株のポイントその1】

 最低でも6年先まで二桁成長である、と言い切る自信

【長期成長株のポイントその2】

 業界は独占、あるいは寡占状態である、と言い切る自信

【長期成長株のポイントその3】
 製品そのものへの分析を行っている真摯な姿勢

 数量成長するのにライバルが少ない。
 だから長期で保有できるというわけです。

 昔のレポートを読んでいると、ちゃんと成長製品を選びきっている。
 わたしたちも負けずに将来の大化け企業を発掘したいものです。

Slow Investment
山本 潤

【山本 潤のプロフィール】

 株式投資で勝率8割の外資系投資顧問の元日本株式ファンドマネジャー。
 1997-2003年年金運用の時代は1000億円の運用でフランク・ラッセル社調べ上位1%の成績を達成しました。
 その後、2004年から2017年6先月までの14年間、日本株ロング・ショート戦略ファンドマネジャー。
 結局、過去20年間で負けた年は4年のみ。
 1997年~2017年ライフタイムの日本株投資成績はロングのフル投資換算でTOPIXを400%を大きく上回る成績を残しました。
 過去20年超の運用戦績は17勝4敗の勝率8割超。
 また、コロンビア大学大学院修了。
 哲学・工学・理学の3つの修士号を持っています。

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