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長期投資家読本 村田製作所(6981)の利益成長力 MLCC編その5

【編集部より】


 長期投資について理論と実践を進めている山本潤氏の過去コラムシリーズを再掲載いたします。普遍性の高い内容ですので、色褪せず参考となるものと考えております。
 なお、内容は執筆時点(2022/12)のものですので、留意の上ご覧下さい。

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===村田製作所(6981)の利益成長力 MLCC編(5回目)===


=他のコンデンサを置き換えるMLCC=



 MLCCは製品として「ドライ」であり、アルミ電解のように液を使わないので寿命が長く信頼性が高いという特徴があります。一方で大容量には向かないという欠点がありました。

 この数十年はMLCCがタンタルコンデンサやアルミ電解の小容量分野を切り崩してきた歴史があります。2007年のIR資料には村田製作所見解として、1000μFまでのMLCCの大容量化は可能とのことです。

 100μFを超える領域では、高分子コンデンサの一部を置き換えることが可能になります。

 タンタルコンデンサや一部の有機高分子アルミ電解コンデンサなどの領域です。2010年の村田製作所のIR資料によれば年間500億円相当の置き換えが生じているとされました。

 技術的課題として1mFまでの高容量化は可能ということでしたので、そうなれば電気二重層コンデンサの領域を侵食できることになります。

 一方で、半導体でキャパシタは作れるということもあって、半導体の内作化の対象になるのがMLCCです。受動部品は半導体をサポートする役割がありますが、同時に削減対象にもなっているのです。
 しかしながら、半導体は電圧を与えないと作動しないことや、前述のようなデカップリング用途の急増やCPUマルチコア化や半導体駆動電圧のスケーリング化や半導体市場拡大を受けてMLCCの成長性は高いものになっています。


=おわりに 経営トレンドセットやシステムへの挑戦=


=村田製作所の強み 設計力=


 村田製作所は製造装置や材料を内作化することでノウハウの流出を防ぎ、参入障壁を築いてきました。能力の増強をすればするほどスケールメリットが利くので競合に対して優位性を保つことができました。

 村田製作所が内作できるもの(上記より筆者が推察するもの)

・PAアンプ(パワー半導体)
・インダクタ(コイル含む)
・MLCC
・導電性アルミ電解コンデンサ
・フィルムコンデンサ
・LCフィルター
・ノイズ対策フィルター
・SAWフィルター
・水晶振動子等の発振装置
・各種センサー(電流、超音波、ジャイロ、CO2など)
・メトロサーク(低誘電率フレキシブルプリント基板)
・LTCC(セラミック基板で受動部品を内部に搭載できる)
・リチウムイオン二次電池

 要するに、メモリーやロジック半導体以外は村田製作所が手掛けることができるのです。この総合力を武器に、セットメーカーやシステムインテグレーターの研究開発部門といち早く協議をして必要なスペックをあらかじめ知ることで、村田製作所の研究開発の費用対効果が高いものになっているのです。

 MCLLだけではなくSAWフィルターやLCフィルター、あるいは、各種センサーやRFパワー半導体を内作できるのも強みです。多層基板や小型電池まで内作できるため、回路全体の提案ができる設計力が備わってきました。設計力が備わったために、自社のコンポーネントを指定できるようになってきました。

 さらに回路全体を提供できるようになったために、部品ではなく、トータルシステムの提案やプラットフォームの提案ができるようになりつつあります。まずはニッチな分野ですが、ヘルメットから情報を総合的に管理して作業者の体調を守るための作業者安全モニタリングシステムなどを提案しています。

 上部のシステム志向が長期での経営の方向性となっています。
 村田製作所の長期ビジョンで表明されている通りコンポーネントからモジュールへ。モジュールからシステムへ。システムからソルーションへという流れをつくりたいと村田製作所の経営は考えているのではないかと思います。


参考 もう少し勉強したい人のために


=コンデンサではポインティングベクトルが働く=


 コンデンサの理解でわたしが面白い特性だと思うところは、他にもあります。
 電磁気学の基礎は案外、わかりにくく、「わかった」という実感が沸かない分野のひとつですが、その理由は主に電磁気学が電場と磁場で記述されているからです。

 場というものは場所と時間によって異なる値を取るため、同じ場所でも時間によって値は変化し、同じ時間でも場所が違うと値は違うものになり、特別な場合を除き、大局的な視点で記述することが難しいのです。大学で計算するのは静電場や静磁場の非常に簡単なケースのみです。各地点、各時間によって異なる値となるマクスウェル方程式を大局的につなぎ合わせるとグローバルでの視野が持てるのですが、そうやって初めて電磁気学が実学に生きてきます。

 また、電場と磁場で物事を見ないで、それらの大本(微分される前のポテンシャルや高さ関数)で見ることではじめて「わかった」という腹落ちが得られるものが電磁気学だとわたしは思います。

(電場はあるスカラ場◎の微分。E=▽Φと書きます。このスカラ場◎を見る努力をすると電磁気学の意味がわかる。わたしたちは◎のことをラージファイ(Φ)ということが多いです。磁場は微分作用素▽と場□の外積。
 わたしたちはこの□のことをベクトルポテンシャルAと呼びます。ΦとAに着目すると電磁気学がはっきりと理解できるはずです。ちなみに▽はナブラnabraと呼びます。B=▽×Aです。AやΦで記述するとBやEが消えて
いても、AやΦレベルでは消えていないものが見えるからわかりやすくなるのです)


 また、磁場と電場があればその外積であるポインティングベクトル(わたしたちはSと呼びます)が算出できて、電磁場の向かう方向性がわかるのです。そのポインティングベクトルSはコンデンサに向かって突き進む場であり、電磁波エネルギーが遥か遠くの宇宙からやってくる。

 コンデンサのエネルギーは電極からくるわけではないというのが面白い現象と思います。
 ちなみに、ポインティングベクトルは電磁波の方向を指すpointingではなく人物名Poynting(英国の物理学者)さんのことです。

 機会があれば、村田製作所のドル箱ともいえるLCフィルターについて解説もしなければなりませんが、インダクタも重要な受動部品で、LCフィルターは無線分野に必須のものであり、ノイズ対策としても重要な機能を担います。


(つづく)


(山本潤)


(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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