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元プロ野球選手、里崎智也さんから学ぶ。貯蓄、投資、ライフプランの考え方 - 前編

 1998年ドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団した里崎智也さん。
 4年目からレギュラーに定着し、キャッチャーとして活躍。
 2006年のワールド・ベースボール・クラシックでは正捕手として日本代表を初代王者に導きました。
 16年間の現役生活を終え、2014年に引退。
 その後は野球解説者、千葉ロッテスペシャルアドバイザー、タレント、YouTuberとマルチに活躍する一方で、個人投資家として「お金」にまつわる
自身の取り組みを積極的に発信されています。

 今回はそんな里崎さんに、前編ではコロナ禍の市場をあっさり渡りきった個人投資家としての歩みについて、後編ではお金に対する考え方、資産の捉え方についてうかがいました。


【対談者プロフィール】

里崎智也(さとざき・ともや)

 野球解説者/千葉ロッテマリーンズ スペシャルアドバイザー

 1976年徳島県生まれ。鳴門工業高校、帝京大学を経て1998年に千葉ロッテマリーンズからドラフト2位指名を受けて入団。
 2005年チーム日本一に貢献、2006年のWBCでは正捕手として日本を世界一に導き、ベストナインに選出された。
 2014年の現役引退後は解説者として多くのテレビやラジオに出演。
 2019年に開設したYouTube「里崎チャンネル」は、毎週全試合チェックという独自のコンテンツで人気を博している。
 チャンネル登録者数は74.7万人(2024/05/20現在)。
 現在は野球解説にとどまらず多方面に活躍の場を広げている。


小屋 洋一(聞き手)

 株式会社マネーライフプランニング 代表取締役

 1977年宮崎県生まれ、東京育ち。2001年慶應義塾大学経済学部を卒業し、総合リース会社に入社。中小企業融資を担当した後、2004年不動産流通業を行うベンチャー企業に転職。営業、営業企画等を経験し、2008年に退職。同年にAFPを取得後、独立し、個人富裕層のアドバイスに特化した株式会社マネーライフプランニングを設立。
 2010年にCFPRを取得し、現在に至る。


●“文句”を言えるようになりたい、から始めた株式投資


小屋:里崎さんが株式投資を始められたのは、最近のことだと聞きました。きっかけはどういったことだったんですか?

里崎智也さん(以下、里崎):僕が初めて株を買ったのは、2018年の12月ぐらいからですね。きっかけは、文句を言えるようになりたかったからなんです。

小屋:文句、ですか?

里崎:僕は、世の中のあらゆることに文句を言いたい人なんです。でも、自分でやったことがないことに文句を言っても説得力がないですよね。
 例えば、投票に行ってもいない人が選挙や政治に噛みついても「おまえ、何言ってるんだ」となるでしょう。
 自分でやってみたうえで、「ここがおかしくないか?」「こんな不満がある」「この問題はなんで放ったらかしになっているの?」と言いたいんですよ。
 投資や資産運用も同じで、文句を言える立場になるために勉強しながらやってみようと。

小屋:なるほど。独特の発想ですね。独学で始めたんですか?

里崎:僕は証券会社の担当者をいい意味で、使い倒しています。小さな事でもわからないことは遠慮せず聞きまくります。
 紹介してくれた銘柄について、自分では買うつもりがなくても「いくらを超えたらプラスになるの?」「目安になる数字はあるの?」と素人的な質問をぶつけていくと懇切丁寧に教えてくれますから。

小屋:最近は「手数料の高い対面型の証券会社よりも、ネット証券を選ぼう」というアドバイスも多く耳にしますが、里崎さんはどう思われます?

里崎:僕らアスリートはもともと経済や金融の勉強をしてきたわけではないですよね。それはきっと他の職業の人も大きくは変わらないと思います。
 だったら、はじめは専門的な知識を持った人のサポートを受けながら経験を積んだほうがベターじゃないですか。
 もちろん、個々の担当者で差はあるかもしれませんが、僕についてくれた人はこちらが納得いくまで問答に付き合ってくれます。
 あちらは僕に商品を売りたいわけだから、顧客の問いには持っている知識や情報の範囲でひとつひとつ答えてくれる。
 そういう形で学んでいって、ある程度、売買の経験を積んで独り立ちできる状態になれたときには、ネット証券を使って自分の判断で売買を行えばいい。
 そのほうが間違いないかなと思います。
 まとめると、自分でできる人は自分でやればいいし、そうでないなら証券会社の手数料はサービスへの対価だと考える。手数料を払ってもプラスになるなら勝ちだし、手数料が低くてもマイナスになるなら負け。自分に合った選択をした方がいいという話です。


●証券会社の担当者と二人三脚で、コロナ禍でも損切りの経験なし


小屋:初めて買ったのは担当者が薦めてきた銘柄ですか?

里崎:そうです。現役時代から付き合いがあるメインバンク系の証券会社の担当者から、「ソフトバンクが上場するので投資をしてみませんか」と何度か勧誘を受けていたんですね。僕も株式投資をやってみようと思ったタイミングでしたし、親会社はプロ野球チームも持っていて身近に感じる会社だし、倒産する可能性も低くそうだ……と思って買うことにしました。
 だけど、初値が公募価格を下回って、初日は15%安と急落して。こちらは初めての投資だったし不安もあって、いったん利益を確定したくて「手数料を引いた上で、どこまでいけばプラスになりますか」と担当者に売り時を相談したのを覚えています。

小屋:なるほど。

里崎:結果的にはしばらく保有して、株価が購入時の1,500円を超えたタイミングで売却しました。ソフトバンクの株式は配当もあって数十万円のプラスになりましたが、「株式投資、思ったより利益率は低いな」というのが感想でしたね。そんなスタートでしたが、次に提案されたのがアメリカ株式です。何社か候補があった中で、選んだのがAmazon.com。僕も日々サービスを使っているし、ありかな、と。

小屋:2020年の春にはコロナショックが起きて、世界的に株価は下がりましたよね。

里崎:それが、Amazonはコロナ禍の影響で一時急落したんですが、そこからビビるぐらい一気に株価が上がっていったんですよ。
 その後、担当者から「大統領選挙(2020年11月)の結果次第では、変動するかもしれません」と電話がかかってきて、下がり始める前に売り切り、こちらはかなりの利益になりました。
 成果が出ると担当者への信頼も増していきますよね。次はどうしようかなと思っていたとき、「今は下がっていますけど」と提案されたのがAlphabet(アルファベット、Googleの持ち株会社)です。僕自身、2019年からYouTubeをやっていてGoogleにはなじみがありましたから、思い切って買ったんですが、これも結果的には成功しました。

小屋:株式投資を始めてから一度も損切りしていない?

里崎:そうなんです。ソフトバンクも、Amazonも、Alphabetも担当者の提案ではありましたが、どれも自分の生活に身近な会社。
 だから業績の変化が肌感覚でわかりますよね。あとはプロの話をちゃんと聞くことです。
 巷ではよく「証券会社の言いなりになるな」「手数料が高い。もったいない」なんて言われますけど、あれは?じゃないかな。
 初心者が丸腰で突っ込んだら負けますよ。さっきも言いましたが、手数料を払ってでもいろいろと教わって、1円でもプラスになるならいいじゃないですか。授業料です。
 例えば、僕はAlphabetを売却した後、担当者から「里崎さんの生活スタイルを考えたら、長期運用できるインデックスファンドのほうが合っているのでは?」と、アドバイスをもらいました。
 たしかに、プロ野球解説や講演の仕事をしていると売買の提案の電話にリアルタイムで応対できませんから、買い時と売り時のタイミングを逃しがちだったんです。
 このアドバイスは一理あると思ったし、自分もその方が面倒じゃなくていいなと考えて、今は投資信託を運用しています。
 ほかにも長期運用という意味では、銀行や証券会社が実施しているキャンペーンも活用しながら、国債や社債なども買っています。


●「資産運用は、なくなってもいいお金で始める」


小屋:私たちのクライアントさんでも投資を始めようかどうか迷っている人は少なくありません。こうした方々に向けて、40代で株式投資を始めた里崎さんから何かアドバイスをいただけますか?

里崎:1つ確実に言えるのは、「なくなってもいいお金」で始めるのがベストだということです。
 「もしこのお金がゼロになっても、自分の生活基盤は1ミリも揺るがない」というお金ですね。
 僕はそうやってスタートしているので、ゲーム感覚で投資に取り組むことができました。

小屋:持っている資産の一部から、最悪なくなってもいいお金で、というのは大切なポイントですね。

里崎:最初から大きなお金を用意しなくてもいいと思います。月々2万円から始めて、積み立てるのも1つの方法ですし、今なら新NISAを活用するのもお勧めです。税金がかからないというのは、大きいですから。
 逆に、なくなったら困るお金を投資するのはメンタル的にもつらいですよね。
 仮に10万円が2年間で20万円になったとしても、「もし下がったら……」と心配し続けるなら、増えた10万円はそのストレスに見合うだけの価値があったのか。それだったら副業で週1回のアルバイトをしたほうが、確実に2年で10万円以上稼げるわけですから。

小屋:そういう里崎さんのお金に対するマインドは、現役時代から変わっていないんですか?

里崎:僕はプロ野球選手の中では変わり者だと思います。プロ入りしてすぐ、普段使いの口座とは分けて10万円を天引きで定期預金にする口座を作りました。
 そしてこの10万円は最初からないものとして生活していく。すると1年で120万円、仮に5年で引退になったとしても、600万円貯まります。
 それだけあれば、次のキャリアに向けてもう1回大学に通い直すこともできるし、次の仕事を探すための生活費にも充てられるし、何か資格を取るための資金にもなるかもしれない。多様な選択肢を持てるわけです。

小屋:なるほど。

里崎:22歳の僕にとってこれは危機管理として当たり前という感覚でしたが、周りの選手で似たようなことをやっている人はいませんでしたね。
 結局、僕は現役16年、2,000万円ぐらい貯まったところで引退しました。プロ野球選手は個人事業主ですから、前年分の年俸の税金を翌年申告します。だから引退して収入がガクンと減ったときに現役時代と同等額を納税しなければいけなくなる。僕は天引きで貯めていたお金をその税金に充てようと考えていました。
 幸いにも、年俸1億円を超えたシーズンも何度かあったので、税金は他のお金で賄うことができて、積み立てた2,000万円は「なくなってもいいお金」として、そのまま残ったわけです。ちなみに、10万円の天引き貯金は引退後も止めずに、今も継続中です。

小屋:リスク管理への意識の高さが現れているエピソードですね。

里崎:多くの人は給料が入ったら、使って余った分を貯金しようと考えますよね。でも、その考え方が僕はダメだと思うんですよ。
 余ったら貯金?余りませんって!決めた貯金額を収入から差し引いた中で生活をしていく。これが大事です。
 僕は年俸が800万円台まで下がったことがありますから、年間120万円の天引きがキツい年もありました。
 でも、お金を増やす方法は基本的に2つしかありませんよね。自分が働いて稼ぎ、貯めるか。貯めたお金に働いてもらって増やすか。
 現役時代は目の前の一戦、一戦の勝負に打ち込み、結果を出すことに集中していました。投資はせず、いくつか保険商品を買っただけです。でも、引退後はいつ何が起こるか分かりません。突然、仕事がなくなることもあるでしょう。だからこそ、お金を増やす手段として投資をしておきたい。僕は常に人生のリスクを想定し、対処したいと考えています。根底には、お金に困る人生を歩みたくないという思いがあるからです。


【後編に続く】


株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一


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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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