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"この人ならば!"と見込んだ方が大活躍してくれて

 組織に所属する以上、辞めるときは、「立つ鳥、跡を濁さず」。迷惑をかけないようにと心掛けてきた。組織を離れるときは、「この人ならばやってくれるだろう」と意中の人を口説き、引き継いでもらう。


 DFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・サービス)役員のOさんとわたしが2018年から始めたのが月額課金のポートフォリオ提供サービスであった。構想に半年以上をかけたプロジェクトだった。

 発足当時60人でスタートし、21年には300人近くになっていた。毎月、着実に会員が増えていった。ニーズはあった。たとえば1億円の資産がある方がアクティブ・ファンドに1%の運用報酬を払えば年間100万円のコストになる。DFRなら年間12万円なのでお得になると考えたお客様が多かった。
 ただし、提案されたポートフォリオを構築するために、証券会社に自分の口座で顧客自らが発注しなければならない。わたしにとってもモデルポートフォリオによる助言は初めての試みであったので試行錯誤の連続であった。

 DFRの宣言のために、当時、週に1度、ダイヤモンドオンラインなどでコラムを執筆した。「その時々に話題になっている株を取り上げてくれ」という編集部の意向があった。
 コラムに書いたものはモデルポートフォリオには組み入れていないものが多かった。元日産のゴーン会長が逮捕されたときは日産を取り上げたりした。あるいはIPOで話題になっていた通信子会社のソフトバックを取り上げたものだ(わたしは様々な理由からIPOをポートフォリオには採用しない)。

 DFRではわたしのモデルポートフォリオは3年でTOPIXを二けた以上、上回ったし、COVID騒ぎのときには追加の提案「東京2020一か八かファンド」を設定して2020年の暴落でお客様と共に底値で銘柄を発掘してポートフォリオをこしらえた。いまとなっては、とてもよい思い出だ。
 そのポートフォリオはすぐに結果が出て短期で数割上がり、お客様は喜んでくれた。
 10年で10倍を目指したのだが、20年で10倍のペースに終わったのが心残りであった。ただ、最低限の仕事はできたと思っている。


 残念なことに、途中でサービスを他者に託すことになった。
 2021年10月にわたしはファンドマネジャーとしてセゾン投信に移籍することになったからだ。当時の中野セゾン投信会長の熱い想いに心を動かされてしまったのだ。
 断腸の思いでDFRサービスを止めることになった。
 辞めるときに、今後10年ぐらい持ち続けられる上場株とはどこか?をお客様と議論したことも今となっては懐かしい思い出だ。


 そのときのお客様の中で、実名で責任をもってFBで発言できる方に限って、無料のコミュニティをつくった。その実名コミュニティで投資の勉強が続けられる場としたかったのだ。DFR退職後も勉強の場は1年以上、続けてきた。日々わたしが感じたことを書いてきた。たとえ辞めてもDFR会員のアフターフォローはしっかりとしなければならないと思ったからだ。

 有難いことに、DFR顧客の多くがセゾン共創日本ファンドを定期積立していただくことになり感謝している。ただし、セゾン投信のお客様はDFR会員のように個別株の投資家とは違う。ファンド受益者全員を平等に扱わなければならないとの判断から、このコミュニティから先日、わたしは脱会させていただきました。コミュニティ自体は未だ続いていて、会員同士のよき対話の場になっていると親しい方々から聞いている。


 DFRの定額運用サービスの火は消してはならないと思っていた。
 「この人に後を託したい」という想いで古い友達の太田忠先生に会食をお誘いし、定額サービスの重要性を訴えた。太田先生は日本を代表する中小型株の専門家であって、個人投資家のニーズを満たしてくださるだろうと思ったのだ。
 また、バリューにもグロースにも精通していて、理論も独自の循環論をしっかりとお持ちになっている素晴らしい運用者だ。

 やはり太田先生は見込んだ通り素晴らしい成績をたたき出しているという。
 DFRサービス「勝者のポートフォリオ」を開設。素晴らしい人に後を継いでいただいた。


 託した人が大活躍。本当にうれしい。


 まだ、わたしが知らない超優秀な長期運用者はどこかにいらっしゃるだろう。
 運用者が優秀かどうかの見極め方は簡単で、「しっかりと長期の業績予想をしていること」がポイントであろう。


 「どうしてそのような業績になるか」。

 ビジネスモデルを理解していなければ業績予想できない。業績を予想しているということはビジネスモデルを理解しているということでもある。双方向のコミュニティで互いに意見をぶつければ、互いに理解が進み、共に成長できるのだ。
 運用者とは仮説を作る人。その仮説には多くの前提条件や思い込みが反映しているのでそれを正すためにどうしても他者の眼が必要になる。
 業績予想をすること。他者の眼を通すことで、絶えずPDCAサイクルを回すことができる。
 予想は外れる。しかし、なぜ外れたかを検証することで、取材が上手くなっていく。そして予想のための仮説の立て方も上手くなっていく。
 業績予想をすることで運用者は成長できるのだ。

 顧客と運用者が共に成長するというのがこれからの運用業界のひとつの理想像ではないか。顧客は自らの経験則から運用者の仮説を評価すればよい。

 運用サービスを盲目的に信じるのではなく、「共によいものを作る」という気概を持つ。金融リテラシーの本質はここにあるのではないか。
 DFRのサービスはまさにそのような双方向性を具現化したものだ。
 太田先生には末永くこのサービスを継続していただきたいと願っている。


 わたしは組織を去るとき、守ってきたことが2つある。

 一つは、辞めるからといって余った有給休暇を何日も連続して消化しないことだ。自分の権利だから2か月後に辞めるが1か月は有休を全部使い切るようなことをしていてはお客様へのサービスに空白の1か月が出来てしまう。
 お客様がいる以上、そのような休みはとれない。

 守ってきたもうひとつのことは必ず自分よりも優秀な「後釜」後継者を紹介してからやめることだ。

 私自身は大した人間ではない。
 だから、わたしより優れた適任者は無数にいる。
 こうした無数の適任者の中から、高い職業倫理を持った人を選ぶようにしている。プロ意識がない人に後を託すとお客様に迷惑がかかってしまう。

(本コラムは特定のサービスを推奨するものではない。また、有給は働くものの権利であって、それを否定するものではない。)


(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)


(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。また、内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織/団体の見解ではありません。)

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