
【対談】アルファ・ファイナンシャル・アドバイザーズ合同会社代表社員CEOアン・マリー・レイリーさんと語る、独立系アドバイザーという仕事
今回の対談ゲストは、アン・マリー・レイリーさん。
アメリカで、2002年から個人投資家に向けて資産のポートフォリオ管理および財務計画サービスを提供してきたAlpha Financial
Advisors, LLC(アルファ・ファイナンシャル・アドバイザーズ)のエグゼクティブディレクター、CEOを務めています。
独立系登録投資顧問会社(RIA)である同社は、今年、東京にオフィスを開設し日本に進出しました。
アンさんとは旧知の小屋が、海外駐在員の顧客と日本の個人投資家にサービスを提供する独立したアドバイザリー・プラットフォームの構築を進めていくという同社の狙いや、日米での投資環境やアドバイザービジネスの違いなどについて語り合いました。
対談者プロフィール
Ann Marie Reilley(アン・マリー・レイリー)
アルファ・ファイナンシャル・アドバイザーズ合同会社
代表社員 CEO
CFPR公認ファイナンシャルプランナー
米国公認会計士
ヴィラノバ大学で会計学と日本語の学位を取得後、ニューヨークのデロイト・アンド・トウシュでキャリアをスタート。
その後、東京を拠点とするベアー・スターンズのアジア地域コントローラーを務めた。このときの経験からアジアでのビジネス展開の支援に関心を抱くようになった。
アメリカ帰国後はタックス・プランニングとパーソナル・ファイナンスに興味を持ち、CFPRの資格を取得。2010年にアルファに入社。現在はアルファ・チームの指導に情熱を注ぎ、メンバーの育成を楽しんでいる。
●日本とアメリカをつなぐ架け橋として
小屋「僕がアンさんと初めてお会いしたのはもう10年近く前のことですよね?」
アン・マリー・ライリーさん(以下、アン)「そうですね。小屋さんをはじめ、数人の日本のファイナンシャルプランナー(以下、FP)がアメリカのNAPFA(全米パーソナル・ファイナンシャル・アドバイザー協会)が主催するカンファレンスにアドバイザリー・ビジネスの実情を学びたいと視察に来てくれました。私はそのとき、すでにアルファ・ファイナンシャル・アドバイザーズで仕事をしていて、独立系のアドバイザーとして少しお話をしたと思います。」
小屋「その後も僕は仲間たちと毎年アメリカ視察を続けていて、そのたびに見学可能なFP事務所を紹介していただいたり、お世話になっています。なによりアンさんは日本語ができるので心強かったです。」
アン「少しですけどね。そもそも私が日本と関わることになったきっかけは、大学生の時の留学体験でした。当時、富山県にホームステイをして、日本文化に触れ、深く感動したのを覚えています。帰国後も日本語を学び、将来は日本とアメリカの架け橋になれるような仕事ができたら……と考えていたので、小屋さんたちとのつながりは私にとっても楽しい出来事でした。」
小屋「僕たちと知り合う前、アンさんは東京でも仕事をされていたんですよね?」
アン「大学卒業後、デロイト・トウシュ・トーマツ(Deloitte
Touche Tohmatsu)に入社して、会計士としてニューヨークオフィスの日本部門で働き始めました。その後、デロイトの東京オフィスに異動しました。金融機関の監査を経験したのちに東京を拠点とするベアスターンズに転職して、徐々にパーソナル・ファイナンスに関心を持つようになっていきました。アメリカに帰国してからCFPR資格を取得して2011年にアルファ・ファイナンシャル・アドバイザーズに入社し、個人の方々の資産形成に貢献する仕事を始めました。」
小屋「今回、なぜアンさんは、日本でビジネスを進める判断をされたんですか?」
アン「アルファ・ファイナンシャル・アドバイザーズで経験を重ねる中で、日本の個人投資家の方々にも、独立系アドバイザーによるファイナンシャルプランニングの機会を提供したいと考えるようになったからです。実は、この思いは小屋さんたち日本で活動するFPの皆さんとの出会いが大きなきっかけとなっています。私たちは毎年、日本のFPの方々をアメリカの会議やオフィスに招いて、フィー・オンリー(報酬型)(※)のビジネスモデルについて学んでいただく機会を設けてきました。その過程で、日本にも同様のニーズがあること、そして、私たちが進出することでそのニーズを満たすことができる可能性があると確信していったのです。」
※フィー・オンリー(報酬型)
金融商品の販売手数料ではなく、アドバイスの対価としての報酬のみを受け取るビジネスモデル。アドバイスの中立性や透明性を確保しやすい特徴がある。
●アドバイザーはクライアントのクォーターバックのような存在
小屋「アメリカでの報酬型のアドバイス業務の状況について聞かせください。」
アン「当然ながらアメリカにもフィー・オンリーではなくコミッションをもらうアドバイザーや、金融商品を販売するために助言を行うセールスマンもいます。そして、一般的なアメリカ人は大手銀行や証券会社を窓口にすることに慣れていて、独立した報酬型のアドバイザーと彼らとの違いを理解していません。その点は日本の現状と変わらない部分もあると思います。ただ、アメリカには20年以上前からフィー・オンリーのアドバイザーが活躍してきた歴史があり、多くのクライアントが専門家のアドバイスを受けることの意義と価値を理解し、報酬を支払っているのです。事実、2011年には3,800万ドルだった私たちの管理資産は2024年8月現在、4億9,800万ドルに増加しています。」
小屋「クライアントとアドバイザーの関係はどのようなものですか?」
アン「私たちの役割は、いわばアメリカンフットボールでいうクォーターバックのような存在です。私たちのアドバイスは投資に関することだけにとどまりません。例えばクライアントの多くは、モーゲージブローカー、相続専門の弁護士、税理士、銀行家、保険代理店など、複数の専門家と関わりを持っています。私たちは時に、そうした専門家とクライアントの間の調整役として、クライアントの価値観や目標に沿って、すべての要素を適切に整理していく役割も担うのです。また、突発的な出来事への対応も重要な仕事の1つです。あるクライアントが相続に関する重要な署名を残さないまま危篤状態になったことがありました。私はすぐに病院に駆けつけて彼の意志を確認し、書類を適切に処理しました。その場に居合わせた彼の兄は私たちの関係性の深さを目の当たりにして、その後、ご自身もクライアントになってくれたのです。彼は"アドバイザーとして私を本当に気にかけ、必要な時に支え、最善を尽くしてくれる関係を築けると感じた"と言ってくれました。これは私にとって忘れられない経験でした。このように単なる投資アドバイザーとクライアントというを枠組みを超えて、相手の人生に寄り添う関係を築けることが、この仕事の醍醐味だと思います。」
●現在の日本は、約30年前のアメリカの状況によく似ている
アン「アドバイザーはクライアントの人生の目標に沿って、統合的なアドバイスを提供する必要があります。そこで、クライアントに"もし病気の診断を受け、残りの人生があと3年だとわかったら、あなたは何を変えますか?"といった質問を投げかけることもあります。そうすることで、その人が本当に大切にしているものが見えてくるからです。」
小屋「たしかに、私たちのような独立系アドバイザーの強みは、アドバイスの価値にありますね。実際にうまくいったアドバイスの事例を教えていただけますか?」
アン「2020年のコロナショックが印象に残っています。アメリカに限らず、世界中の多くの人が市場の下落を受けてパニックになる中、私たちはこれを逆に買い増しの機会ととらえ、税務戦略も組み合わせてクライアントの皆さんにアドバイスをしました。市場が再び上がる時期はわかりませんが、必ず上がることはわかっていたからです。"なぜ買うのですか?こんなひどい状況なのに"と誰もが感情的になる局面においてこそ、冷静な視点でサポートするのが私たちの重要な役割です。アメリカでは、このようなアドバイザリーモデルが広く受け入れられていますが、日本ではまだこれからという段階です。私は日本市場に大きな可能性を感じています。現在の日本は30年前のアメリカの状況に似ているところがあり、これから独立系アドバイザーの価値が広く認識されていく過渡期だと見ています。」
小屋「その通りですね。日本でも少しずつ、私たちのような独立系アドバイザーの存在価値が認知され始めていますし、まだまだ発展の余地は大きいと感じています。」
●資産運用の未来を拓くフィデューシャリー・モデルへの挑戦
小屋「アンさんをはじめとした、アルファ・ファイナンシャル・アドバイザーズが大事にしていることを教えてください。」
アン・マリー・ライリーさん(以下、アン)「私たちの成長を支えてきたのは、クライアントとの信頼関係の構築を大切にするという価値観です。私たちは新規のクライアントとの関係構築において、必ず、包括的な財務計画の策定から始めます。クライアントと一緒に目指すゴールは、単に豊かなリタイアメントではありません。転職、起業、旅行、結婚、子どもの教育、親の介護など、お金が関わるあらゆる目標について、まるで白紙のキャンバスに描くように夢を語っていただき、私たちはそれに耳を傾けます。クライアントの人生には本当に多くのピースがあります。私たちは彼らの考えと目標、描いている夢を深く理解し、それらのピースを整理する手助けをしていくのです。」
小屋「お金のことだけではなく、クライアントのライフプランニングのお手伝いをするという意識は僕も大切にしています。」
アン「それは本当に大事なことです。同時に私たちは資産についても定期的なミーティングを行い、5つの重要な分野をカバーしていきます。それは、キャッシュフローと貯蓄、保険による資産の保護、投資とポートフォリオの管理、税務戦略、そして相続計画です。クライアントとの関係が始まった初期の段階では特に頻繁にミーティングの場を設け、それぞれの分野について深く掘り下げていきます。」
小屋「そうしたアメリカでの経験は、日本でも活かせるとお考えですか?」
アン「もちろんです。実は、日本市場への参入を決意したのも、私たちのビジネスモデルが日本の個人投資家の方々に大きな価値を提供できると確信したからです。アメリカでの経験から、独立系アドバイザーの市場シェアが増加すると、結果として個人投資家の選択肢が広がり、より良質なサービスを受けられるようになることがわかっています。特に日本では、従来の金融商品仲介業とは異なる、フィデューシャリーとしてのアプローチが重要だと考えています。商品販売ではなくクライアントの利益を第一に考えた継続的なアドバイスを提供していくこと。この考え方は、金融庁が推進するフィデューシャリー・デューティー(※)の方針とも合致しています。とはいえ、これは一朝一夕に実現できることだとは考えていません。アメリカでも、独立系アドバイザーの価値が広く認知されるまでには30年近くかかりました。その分、非常にやりがいのある挑戦だと感じています。」
※フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)
顧客の利益を最優先に考え、忠実に行動する義務のこと。金融商品の販売手数料ではなく、アドバイス報酬を主な収入源とすることで、利益相反を防ぎ、より中立的な立場でアドバイスを提供することが可能になる。
●日本人の投資環境の課題と可能性
小屋「日本の投資環境については、どのような印象をお持ちですか?」
アン「日本の金融市場の最大の課題は、多くの方が現金保有に偏重していることです。先進国の中で、日本ほど現金比率が高い国はありません。これが1980年代のバブル崩壊の影響なのか、あるいは日本人の保守的な傾向によるものなのか、正確な理由はわかりませんが、今後変えていく必要があると感じています。特に現在はインフレが上昇傾向にあり、現金保有は実質的にマイナスのリターンを生んでいます。それでもこの状況を変えるためには、慎重なアプローチが必要です。いきなりリスクの高い投資を勧めるのではなく、まずは保守的な投資から始めることが重要だと考えています。」
小屋「確かに、資産のほとんどを預貯金で持っている日本人の多くが、今も投資に対して不安を感じています。」
アン「そうですね。だからこそ、アドバイザーの役割が重要になってきます。例えば、新NISA(※)のような制度は、投資を始めるきっかけとして非常に良い機会だと思います。”投資して利益が出れば、そのすべてがあなたのものになる”というのは、とてもわかりやすいメッセージですよね。また、最近ではETFなど、低コストで分散投資ができる良質な商品も増えています。日本の個人投資家の方々が、企業や政府に依存するのではなく、”自分の将来は自分で守る”という意識を持つことが重要だと思います。」
※新NISA(2024年~)
2024年にスタートした少額投資非課税制度の新制度。個人一人につき年間最大360万円、生涯1,800万円までが配当や売却益が非課税になる。投資初心者でも利用しやすい制度設計となっている。
小屋「実務面での課題はありますか?」
アン「はい。米国では様々なテクノロジーツールを活用して効率的なサービス提供を行っています。例えば、複数の金融機関の口座情報を一元管理したり、ポートフォリオの自動リバランスを行ったりするツールがあります。夫婦で6、7つの口座を持っているケースもめずらしくなく、401k(※)やIRA、教育資金口座、医療費積立口座など、様々な口座を包括的に管理する必要があるからです。このような複雑な資産管理を効率的に行うためには、テクノロジーの活用が不可欠です。」
※401(k)プラン
米国の確定拠出型年金制度。日本のiDeCoに相当する。雇用主が提供する退職給付制度の一つで、加入者が自己責任で運用を行う。
小屋「日本でも、そういったプラットフォームの整備が課題ですね。」
アン「その通りです。現在、日本の多くのアドバイザーは、効率的なツールがないために、本来やらなくてもよい作業に多くの時間を費やしていると聞いています。米国には『MoneyGuidePro』のような優れたソフトウェアがありますが、まだ日本向けには対応していません。裏を返せば、この分野は今後の大きな事業機会になる可能性があると思います。」
小屋「アルファ・ファイナンシャル・アドバイザーズの日本での今後の展望についてお聞かせください。」
アン「私の夢は、10年後に振り返ったときに、『日本は本当に変わったね』と言えるような変化を生み出すことです。時間はかかるかもしれませんが、日本の多くの方々が、独立系アドバイザーを通じて適切な資産運用の恩恵を受けられるようになることを願っています。そのためには2つの大きな課題を解決する必要があります。1つは参入コストの問題です。現在の日本の金融界に海外の事業者が参入しようとした場合、登録費用や法的対応のコストが高く、小規模な事業者にとって大きな負担となっています。もう1つは、取引に関する規制の見直しです。アメリカでは、資格を持ったアドバイザーが直接、資産運用の取引を執行できますが、日本ではまだその体制が整っていません。」
小屋「制度面での改善は確かに重要ですね。」
アン「規制の問題もありますが、より本質的なのはアドバイスの価値を理解してもらうことです。日本では、アドバイスに対して適切な報酬を支払うという考え方がまだ浸透していませんが、長期的に見れば、アドバイザーによる適切なアドバイスによって節約できる金額や、得られるリターンは支払う報酬を上回ることが多いのです。そして、私たちの仕事の最大の魅力は、クライアントの人生をより良くできることです。投資リターンを上げることは重要ですが、それ以上に、その人の人生の重要な場面に寄り添い、より良い選択をサポートできることが、このアドバイザー業務の醍醐味だと思います。道のりは簡単ではありませんが、日本にもこの新しいビジネスモデルを根付かせていきたいですね。」
(了)
株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一
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