
長期投資家読本 村田製作所(6981)の利益成長力 MLCC編その4
【編集部より】
長期投資について理論と実践を進めている山本潤氏の過去コラムシリーズを再掲載いたします。普遍性の高い内容ですので、色褪せず参考となるものと考えております。
なお、内容は執筆時点(2022/12)のものですので、留意の上ご覧下さい。
ーーーーーーーーーー
===村田製作所(6981)の利益成長力 MLCC編(4回目)===
第3部 情報処理量の増加がMLCC需要拡大の追い風に
=自動運転とMLCC(multi-layer ceramic capacitor)=
自動運転の時代です。
情報処理の量が自動運転になると膨大になるのです。
センサーの数が膨大になり、それを瞬時に処理をしなければなりません。
そしてそれを処理するのが論理回路であり、マイコンチップやゲートアレイなどの演算装置(ロジック半導体)です。ゲートアレイは決まった演算を出力するための回路ですが、センサーからの入力信号はI/Oと呼ばれる端子からデジタル情報に直してから演算装置に入って演算装置がその入力データを計算して出力データを生成していくのです。
たとえば、前方に物体ありという情報がインプットされると速度を落とすとかどの程度ハンドルを切るかという情報へとアウトプットされる。減速するにしても計算通りに減速しているかという情報もフィードバックされる。この情報(インプットとアウトプット)量が膨大になってくるのです。
この自動運転のお話がなぜMLCCの需要に結びつくのか不思議に思われるかもしれません。
情報処理は1ビットと呼ばれるゼロサム状態を基本単位とします。電圧の低い高いで0と1を区別します。高い周波数に載せて必要な情報を電圧の高低で送受信するのです。
ところが、情報だけをピュアに届けることができないのです。他の機器からのノイズや電源のノイズや回路の成分によるノイズが生じます。情報信号は電磁波の影響も受けます。そこで、ノイズを取り除くデカップリング(バイパスともいいます)ためにMLCCは活用されているのです。
それだけではありません。MLCCは半導体への電力供給や電源の安定化という役割があります。半導体は大量の電力を必要とします。その外部電源の電圧は安定しておらず、半導体の間近で電力を途絶えさせない役割をMLCCは持ちます。
さらに、1つのチップ(たとえばCPU)が何種類もの電圧を必要としています(周波数スケーリングといいます)。
また、さらに、ひとつの高性能の演算処理向け半導体(CPU)の場合には数百という出入力ピンを必要とします(CPUの集積度の向上)。
こうした半導体側の要請にMLCCは応えなければならないのです。
=コンデンサの役割の1つはデカップリング=
CPUは半導体パッケージに実装され、半導体パッケージは高密度プリント基板に実装されます。MLCCの役割は基板やパッケージが持つ余分な交流成分を取り除くデカップリング機能という役割があります。CPUに安定した駆動電圧(直流)を供給するためのものです。
CPUパッケージの写真を見た方も多いと思いますが、インテルのチップ向けにはとてつもない数(100個以上)のデカップリングMLCCが実装される場合があります。
フィルターの役割がMLCCにもあるのですが、ひとつのMLCCでは特性の周波数(自己共振)(交流)だけをカットすることになるのですが、コンデンサは並列に設置すれば全体のインピーダンスは下がります。CPUの手前で並列に並んだMLCCがそれぞれ交流成分をグランドに流し込み、残った直流成分だけをCPUに届けるのです。ノイズ混入を防ぐガードマンのような役割がMLCCにはあるわけです。
また、半導体は熱を持ちますので、実装されるMLCCもCPU周りのものは耐熱性や耐久性に優れたものになり、CPU周りを担うMLCCは高価なものになります。
=CPUの周波数スケーリングがMLCC拡大の追い風となった=
野球で完投型のエース投手が下位打線やピンチ以外で9割ぐらいの力で投げて、ピンチのときは全力投球するように、CPUも簡単な演算のときは周波数を落とし(電圧を落とし)最高のパフォーマンスで計算をしなければならないときは周波数を上げて対応するという周波数スケーリングを近年のCPUが採用しています。
CPUには電圧を細かく刻むスケールが存在しています。基準±10%とか±20%とか電圧を変えて周波数をコントロールしています。アイドリング状態では周波数は遅く、高画質の動画を見ながらでは周波数は高くなっているのです。
このように同じCPUでも複数の電圧システムが共存しているのです。
当然、電圧をコントロールする新規の機能が必要になり、デカップリングコンデンサの需要も増加することになります。
=CPUのマルチコア化が特にMLCC需要拡大の追い風となった=
CPUは複数コアの並列処理で消費電力を下げることができます。マルチコアといって、CPUのコアを分割して必要なコアだけを動かすという流れがあります。
CPUの電源が多数必要になる背景には低消費電力化があります。
マルチコアといって、演算装置を小分けにして、計算の負荷が低いときは少ない部分で演算をして、計算の負荷が大きいときには大部分が計算を手伝う。4つのコアにわけると、4つの電源が必要になり、先ほどの周波数スケーリングによってひとつのコアにも複数の電圧が必要なのです。
こうしたトレンド(マルチコア化や周波数スケーリング)がMLCCを急激に増加させた要因です。
これらの追い風(マルチコア化や周波数スケーリング)はDC-DCコンバーターなどの電源管理パワーICが複雑化高機能化していることを意味します。
=電源管理IC向けMLCCは大量に必要となっている=
演算処理の半導体に電源を供給するための半導体が存在し、それらがパワー半導体と呼ばれるのですが、DC/DCコンバータ(降圧レギュレータ)もそのひとつです。DC-DC回路ではMLCCの基本的な役割は以下の4つとなります。
・出力コンデンサ(増加中)
出力電圧を安定化するためのもの。大容量が求められる。
・入力コンデンサ(増加中)
入力電圧を安定させるためのもの。大容量が求められる。
・バイパスコンデンサ(増加中)
ノイズをカットするためにノイズをグランドに流すもの。スイッチング動作で生じるノイズや、他の回路から伝わってくるノイズを吸収する。少容量。
・補償用コンデンサ
帰還ループの位相余裕を確保し、発振を防止するためのもの。ICで内製化ができる。
=車載向けでこれから3倍になるMLCCの需要=
村田製作所のIR資料によれば自動運転がレベル0からレベル3になればMLCCの搭載個数は3倍になるといわれています(村田製作所IRデイ2020年資料24ページ)。
急増するMLCC需要の見通しですが、もう少し詳しくご紹介いたします。
村田製作所によればADASの実現には3000-5000のMLCCが必要。
(Advanced Driver-Assistance Systems,
先進運転支援システム)
さらにSafetyの実現で300-1000のMLCCが必要(衝突防止機能など)。
車内ディスプレイの高精細化と大型化によりさらに500-2500のMLCCが必要。
その他もろもろ(搭載モーターの増加など)でさらに500~2500のMLCCが必要。
EV化(パワートレイン等向け)により2500のMLCCが必要。
上記は積み上げで必要になりますので、一台あたり数千個のMLCCが追加で必要になるのです。さらに自動車向けMLCCはスマホ向けと比べると温度特性や耐久性が求められるため、高単価なのです。数量が数倍になり単価が上がると増収はすさまじいものになるでしょう。
酸化チタンやジルコン酸カルシウム系の誘電体材料を使います。これらは高誘電率を誇るチタン酸バリウムのような高い分極性を示さないので誘電率は比較的低いのです。
温度特性を高めるためには、誘電率を犠牲にすることから、静電容量を上げることは難しく、MLCCのサイズは大きくなります。従って高単価なものになります。
22μFのMLCCで150度の温度補償となると、2.5mm角の大きさになります。
温度特性が不要ということでは、同じ22μFでも0.8mm角の大きさになります。
[情報量とMLCCの関係のまとめ]
自動運転には多くの情報が必要になり、搭載される半導体が増加する。
そのため電源の役割をするMLCCも多くなる。
半導体の回路の集積度が上がりI/Oピン数が多くなりそれにともないMLCCも多くなる。
半導体の低消費電力に寄与するマルチコアはコアの数に比例してMLCCが必要になる。
車載向けは温度特性が求められるため高誘電材料が使えないため単価が高くなる。
数が増えて単価が上がることから増収が見込まれる。増収以上に増益となることから高い利益成長が期待できる。
長期ではわたしの資産では車載向けMLCCは数量が3倍で単価は2-3倍で6-9倍程度の増収になるでしょうか。単価上昇は高耐圧・高温度に適合した高品質なものが必要になるからです。
(つづく)
(山本潤)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)