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熱効率改善が見込まれる内燃機関

 国の研究機関によると2040年の世界自動車保有台数の89%は内燃機関が搭載されると予測されており、現在より内燃機関搭載台数は増加する見通し。

 モーターが搭載されない従来のガソリンまたはディーゼルエンジン車両は2025年に向けて微増しピークアウト、2030年は2020年レベルに微減する予測となっている。
 天然ガスエンジンは伸びず、燃料電池車も拡大する存在は薄く、HEV、特にPHV車輛が2060年に向けて大きく伸びるとしている。そのため2060年時点でのエンジン搭載車輛は73%を占めるとし、非搭載の純EV車両は27%未満(燃料電池車両が僅か含まれる)と予想されている。

 固体含めこれだけリチウムイオン電池の開発が盛んであり27%の比率は低く見える。しかし保有台数の比率から、車輛寿命を考えれば新車販売に占めるEV比率はもう少し高い比率だろう。
 とはいってもエンジンがまだ相当長い期間に渡って温存されると予測されており、相当な革新的技術が導入されて行く見通しである。排ガス規制、そして2000年以降は燃費規制が加わり地球温暖化を避けるためにCO2規制が内外燃機関とも強化されエンジンの熱効率向上が図られている。

 だが一段と向上させる取り組みが国を挙げてなされている。
 マツダがスカイアクティブというネーミングで新技術を投入し、最近では部分的に自然着火を実現させた様に、今後各社から新技術搭載のエンジンが投入されて行くことであろう。

 科学技術振興機構の発表している内容を見て行きましょう。


 熱効率向上には動力に変換されず捨てられる廃熱(温度エネルギー)や機械損失(摩擦)を低減させる新しい燃焼コンセプトが必要となる。
 そのため熱の移動、流体の挙動、物質の移動、化学反応とこれら相互作用によりエンジン内で高速に進行する燃焼現象を解明することが重要であると記述されている。
 またエネルギー損失低減で高速に動く機構の摩擦により失われるエネルギーの低減、排気で放出されるエネルギーによる過給または熱発電の技術開発が必要であり、これらを統合・複合的な技術開発を目指すとし、エンジン工学、燃焼科学、伝熱科学、反応化学、流体力学、トライボロジー、高分子化学、計算科学など多分野に渡り大学・公的研究機関の研究者が結集して研究開発にあたっているという。

 この産学連携によりガソリンエンジンでは51.5%、ディーゼルエンジンでは50.1%の正味最高熱効率を達成済みとある。

 ガソリンエンジンでは超希薄燃焼を狙い熱効率の向上を目指すが、従来型の点火方式では着火し難く、昇圧させても消炎し燃焼が不安定となり、燃焼し難い環境となる訳だ。
 このため吸気工程で現状より強力な縦渦のタンブル流を導入。高乱流・希薄燃焼の現象を解明し、安定着火を可能とする点火技術を開発。エネルギー損失の低い低温燃焼となる超希薄燃焼を実現し、熱効率向上の実証に成功したとされる。

 ディーゼルエンジンは燃焼壁近辺での火炎の滞留や後燃えによってエネルギー損失(冷却損失)が生じ、燃焼エネルギーの動力への変換効率が低下する。
 高速空間燃焼をコンセプトと燃料噴霧の発達、燃料濃度分布の解析により、燃料噴射の在り方と火炎形成の関係を解明、後燃えの要因を特定。燃料噴射と空気の最適分散となる燃料噴射技術を開発。火炎が壁から離れて配置され、後燃えを低減する高速空間燃焼を実現し、熱効率向上の実証に成功した。

 また両エンジンとも固体潤滑剤と軟質金属から構成される高耐久の低摩擦層と表面改質技術の開発などによりエンジンの摺動表面に低摩擦機能を付与し、機械摩擦損失の55.5%低減を実証。ターボチャージャーによる過給では市販ターボ過給の効率を10ポイント以上上回る、最大69%程度の効率値を実証とかなりの効果を上げている様だ。

 この研究には国の機関の他、得意分野を持つ国公立、私立大学約40校、企業が参加している。


 約4年前に投入された4代目50系のトヨタプリウスは3代目の30系と同様の1.8リッターのアトキンソンエンジン2ZR-FXEエンジンだが、改良が施され最大熱効率は30系の38.5%から40.0%に向上し、世界で初めて40%に達したガソリンエンジンである。小さい改良を進めたとするが、新たに追加したのはフローティングバルブとウオータージャケットスペーサー。

 何やら聞いたことがありそうな部品ですね。そう八丁堀の上場企業で良く耳にする部品です。燃焼時のシリンダーは燃焼室近辺の上部と下部では温度差があって、上部に合わせて冷却すると下部では冷え過ぎる。


 二輪車の話になりますが、1980年に投入されたヤマハの2ストローク水冷エンジン搭載のRZ250は、6,000回転を超えてから非常にピーキーなエンジンで圧倒的な人気を誇りました(ブレーキが弱かったが)。
 しかし冬場になると冷え過ぎでカブってしまう。そこで寒くなるとラジエーターコアの一部にガムテープを張って冷え過ぎを防いでいた頃が懐かしい。
 億近編集長の松田理事長はもっと革新的なRZ乗りでしたが、理事長のコメントも欲しいところ。シリンダー温度分布が一定でなければ熱膨張も異なってしまいますからね。


 50系プリウスは一部モデルで40Km/L。一方、新型のヤリスハイブリッドは1.5リッターエンジンで35.8Km。プリウスは旧来のJC08モードに対してヤリスはWLTCモードなので低い数値になる。
 一般にJC08モードでリッター当たり10キロならWLTCでは約8キロと2割方低くなると言われており、単純計算すると新型のヤリスHEVの燃費はJC08なら45Km近辺になる計算でして、実は驚異的な燃費を実現させています。
 当然システム全般の効率アップが図られていますが、新たに開発投入されたM15Aエンジンは4気筒2リッターのM20Aエンジンを3気筒にしたエンジンです。ピストン直径80.5mmに対し、ストロークが97.6mmとかなりロングストローク型。最大熱効率は40%超との記載も。ベースとなった2リッターエンジンは既に41%を実現しています。


 モーターマガジン社WEBによると1990年頃の熱効率は概ね30%程度。2017年のトヨタA25A-FXS型で41%、2019年マツダのスカイアクティブ-Xが43%と、この20~30年でエンジン出力が高まりながら燃費も大きく改善されており、一般的な火力発電の効率と同等まで到達しています。
 しかし更に10%の引上げ目標ですからエンジンは当分使われそうです。


 今後は素材や形状変更含め部品企業のシェア変動が予想され、効率アップに寄与する銘柄探しに励みたいものです。


(あすなろ産業調査部)


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