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長期投資の入門 第1回 リスクアセットとしての株式

【編集部より】


 長期投資について理論と実践を進めている山本潤氏の過去コラムシリーズを再掲載いたします。普遍性の高い内容ですので、色褪せず参考となるものと考えております。
 なお、内容は執筆時点(2022/7)のものですので、留意の上ご覧下さい。


【長期投資の入門 第1回 リスクアセットとしての株式】


 一般に資産形成には長い時間がかかります。
 10年というまとまった期間を資産形成に必要な時間と定めてコツコツと資産を積み上げていくことが長期の積み立て投資の基本です。
 長期の資産形成においては預金よりも有利な資産となりうるのが株式投資です。株式投資による資産形成について大切なことは何でしょうか。そもそも株式とは何か。その特徴や長期で観察された事実を述べていきたいと思います。


1.株式とは何か。


 株式という投資対象についての特徴を少し述べてみます。

 株式会社は株主から集めた資本を活用して事業を営む事業主体といえるでしょう。事業からの収益が上がれば株式会社から株主へ投資に対する見返りである配当が支払われます。
 株式投資の際立った特徴は定期的な配当収益が期待できることです。
 ゴールドや原油などの商品投資にはこのような利益分配の手段である配当がありません。

 配当による収益をインカムゲインと呼びます。
 インカムゲインは基本的に毎年、あるいは半期ごとに支払われます。
 累計すれば配当額は積み上がっていきます。
 ただし、インカムゲインは年間数%に過ぎず、一方で株価の値動きは年間数十%に達することがあります。

 投資家の多くは配当よりも株価に関心があります。
 株価の値上がり益はキャピタルゲインと呼ばれます。
 もちろん、キャピタルゲインも大事なのですが、長期の保有になればなるほど、インカムゲインの重要性は増していきます。配当が累積していくからです。
 毎年のインカムゲインの積み上げが資産形成には着実に効いてくるのです。


 短期の株式投資家は配当よりも株価のことを気にしますが、残念なことに株価の値上がり益であるキャピタルゲイン、つまり株価値上がり益の予測はとても難しいものです。株価は法則性なく日々動いてしまいます。

 株式投資は、預金とは違い元本は保証されません。
 キャピタルゲインがどうなるかは相場の環境にも左右されます。
 インカムゲインについては、株価ではなく事業の環境に左右されます。
 景気動向や競合状況の変化に業績が影響を受けてしまいます。
 当然、不景気には収益が上がりにくくなります。そのため、業績が悪化すれば配当を支払う余力が減少してしまうのです。
 配当は約束されたものではありません。収益が運よく出ればその範囲で配当を得られるという類のものです。企業の中には恒常的に事業が赤字の企業も存在します。そうした「万年赤字」の企業では配当を期待することはできません。


2.上場企業の配当


 日経平均などの代表的な日本株インデックスの配当は10年20年という長期で見れば右肩上がりなのです。
 例外的に不景気には配当が下がることもあります。
 さすがにリーマンショックやコロナショックのときに配当は一時的に下がりました。配当は業績が下がると下がってしまう場合が多いのです。
 しかし過去をみると、インデックスの配当がゼロにまで落ち込むことはありませんでした。個別株では業績によっては無配に転落するものもあります。
 ポートフォリオを組むことで無配転落のリスクを大方回避することができるのではないでしょうか。


3.受取配当を再投資していく


 資産形成を長期で考えるとき、受け取り配当の累計額が初回の投資額を超えるときがいつかやってくることが予想されます。
 ただし、ポートフォリオ企業群の配当が長期的に存在することが前提となります。

 仮に2%の利回りであっても、再投資によって株数が複利で増えます。
 今後35年間の利回りが2%とすれば、1.02の35乗を計算するとおよそ2倍になります(税金・再投資コスト等は一切考慮していません。以下同じ)
 初回に100を投資して1年後に2が配当として入ってくる。
 そこでこの2の配当を再投資することによって株数が増えます。
 株価が横ばいならば100に2を足した102が資産額になります。
 102に対して翌年配当利回りが再度2%とすれば、102の2%ですから2.04の配当(2.00ではない!)が入ってきます。
 この配当で買える分だけ再投資により保有株数が増えます。

 次の年も2%の再投資利回りとすれば、そして株価が再び100だと仮定すれば2.08円の配当(2.04ではない!)となります。

 再投資時点の株価にもよりますが2円を単純に累積していくよりも株数の増え方が大きいのです。
 2の配当であれば初期の100の投資を回収するのは50年かかります。
 しかし再投資によって実際にはもう少し短い期間で株数を倍にできます。
 初期投資の株数が2倍になる目安は50年ではなく35年程度です。

(再投資期間は株価が低い方がよいが株価が高い期間をあえて避けると複利効果が犠牲になる。定期的な積み立てで株価の高い低いに関わらず再投資で資産形成するのが長期投資家の基本戦略。)

 1.02を35回かけることを1.02^35と書くことにします。

 1.02^35=2.00

 執筆時点、2022年7月のように日経平均で2.5%の利回りがあると同じ期間ではどうなるでしょうか。
 1.025^35=2.37倍ですね。
 配当利回りが高いと株数が増えやすいのです。
 このとき注意が必要です。初期投資の時点の利回りを2.5%としていましたが、再評価時の利回りが同様であることが前提です。再投資時点の利回りは想定できないのです。もしかしたら利回りは大きく低下しているかもしれません。その場合はおそらく、低い利回りに見合った高い株価となっているでしょう。高い利回りが持続していれば再投資では有利になりますが株価は下がってしまっているかもしれません。

 このように利回りと株価の関係は反比例ですので、インカムゲインとキャピタルゲインを総合的にとらえるのがトータルリターンには必要なことです。


 株価の高い安いに一喜一憂するのではなく、株価が安いときには将来の利回り的に有利だと考え、株価が高いときには株が上がってよい状態だなと考えるのが長期投資家の好ましい態度だと個人的にわたしは思います。
 株価の判断は誰にとっても簡単ではなく、簿価と単に比較して株価が高いから株式を売ってしまってはインカムゲインが入らなくなります。高い株価と思って売ってもますます株価が高くなるかもしれません。株価のその時々の状況に左右されずにコツコツとインカムゲインを再投資し、余裕資金を定期的に追加投資していくことが資産形成の王道だとわたしは考えています。

 過去15年、日経平均の配当利回りは1.5%から2.5%のレンジに入っています。1990年代は1%よりも低い利回りが続いた時期もありました。現状の利回り2.5%はかなり高い部類に入ります。

 株価が動けばこの配当利回りは動きます。
 また急に不景気になれば企業の業績が落ち、配当も下がってしまうかもしれません。配当は約束されたものではありません。
 配当は企業の業績に応じて株主に支払われるものです。
 業績が拡大すれば配当も拡大する余地が大きくなります。
 逆に業績が悪化すれば配当は減ってしまうこともあります。

 そうはいっても、日本株の代表的な指数である日経平均では概ね2%程度の利回りが期待できることを先ほど、確認しました。さらに配当がまるで出なくなるような事態には過去はありませんでした。
 この2つの観察結果(いつもインデックスに意味がある高さの利回りが存在することと無配にならないこと)は重要だとわたしは考えています。この事実をまずはしっかりと認識してもらいたいと思うのです。
 さらに、3つ目の重要な観察結果として、配当は時間を経るにつれて成長する、という事実です。前述「日経平均 配当推移」のグラフによれば1993年日経平均の配当は100円程度でした。それから30年弱経過した2022
年3月現在、625円の配当水準になっています。

 無論、リーマンショックのような景気悪化局面では配当が減少することもあります。増配や減配を繰り返しつつも、長期では配当が数倍規模に成長していることを事実として認識をしていただきたいのです。


過去データより日経平均の3つの重要な観察

1)直近15年配当利回りは2%プラスマイナス0.5%で推移
2)日経平均の配当は無配になることはなかった
3)配当は30年で6倍になった。(年率の配当成長率に換算して6%程度)


 これら3つの観察結果について、わたしの感想を来週以降、また述べていきます。


(山本潤)


(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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