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温故知新 back to the future

[要旨]

 40年前、投信の回転売買率は100%程度であった。
 現在は、それを大きく上回る。
 どうして日本で低売買回転率の良質な投信が育たなかったのか?
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==古きを温ねて、新しきを知る==

 このコーナーは、古き良き時代の証券レポートを紹介し、現在の証券業界への警鐘を鳴らします。

==1978年 財団法人日本証券経済研究所 証研レポートより==

▼証研レポート 971号 昭和53.7.3

::::: タイトル:==「回転売買」について by むく :::::

 ニューヨークやイギリス、フランクフルト、パリなどの欧米の取引所に比べて東京の売買回転率は非常に高い。
 東証1部49%に対してニューヨークは22%。フランクフルトは9%。
 イギリスは3%。パリは14%。

 主因は日本の投資信託と個人の売買回転率が非常に高いため。
 昭和50年度においては日本においては個人の売買回転率が70%、銀行が2%、生保が2%、投信が73%と投信が個人より高い。
 昭和51年度においては、個人70%に対して、投信は172%と極めて高い。
 一方で、事業法人や銀行や生保は持ち合いだから極めて低い。
 二極化しているのである。

【個人の高い回転率】

 個人の回転率が高くなるのは、外人が買いそうな銘柄、法人が買いそうな銘柄というように、「他者追随型」になっているからである。
 自己の基準ではなく、他者に追随して投資する場合にはどうしても回転率は高くならざるをえない。
 なぜならば外人や法人がいつ買うのをやめるか、いつ売るか、個人にはわからないのだから、長期間持続しているわけにはいかないからだ。

【投信の高い回転率 - 毎日投資決定主義】

 たとえば、昭和52年については投信は1兆5709億円買って、1兆4084億円売り、差引き1625億円の買い越し。
 1625億円の株式を買越すためにその10倍近い株式を買っているのである。

 一体、投信はなぜこれほど売買回転率を高くしなければならないのだろうか。

 ここでアメリカの場合と比較してみよう。
 アメリカでは日本と同様に投信の回転率がもっとも高いがそれでも1970年以降50%を越えたことはない。
 アメリカの機関投資家の投資行動として「投資決定一回主義」ということがいわれた。

 アメリカの機関投資家は買い方針を一回決定すると、あとは買い上がっていく一方で、値ごろをみて売ったり、買ったりするということはなかった。
 ニフティ・フィフティといわれるのような少数の銘柄に投資を集中し。成長性が高いと思う銘柄は徹底的に買い上がっていくというやり方である。

 日本の投信は「毎日投資決定主義」ともいうべきものであろう。組み入れ株式をひんぱんに入れかえ、同じ銘柄でも値ごろによって売ったり買ったりしながら値ざやを稼ぐというやり方である。

 一体なぜこのようなことをしなければならないのか。
 アメリカのように投資決定一回主義を日本で行えば自らの買いで株価が急騰してしまうし、自らの売りで株価が急落してしまうことがわかっているからであろう。

 株式の供給不足の中では投信のひとり相撲になる危険性がある。
 そこで短期の値ざや稼ぎを繰り返していく以外にないのである。
 もっともこの場合、投信の売りに個人が買い回れば、ひとり相撲にはならない。しかし個人は他者追従だから投信が売ったら個人も売るのである。

【成長株投資から回転売買へ】

 個人は他者追随。投信は短期値ざや取り。
 昭和30年代には「利回り革命」による成長株投資が一般的であった。(株式は成長株でも利回りがよかったのだ。)
 そのころは増資が事実上の増配であった。

 しかし、時価発行増資が一般的になるについて成長株の論理は崩れた。
 昭和40年証券不況による共同証券、保有組合による株式凍結を契機に供給不足による需給相場の様相を濃くしていった。
 その後も、回転売買を中心にした需給だけによる相場になってしまった。

::::以上、証研レポート 1978年 むくさんのコラムでした:::

【本質をついた証研レポート、投信の毎日投資決定主義】

 back to year 2017!!

 現在に戻ります!!

 むくさんネーミングは鋭い。
 個人投資家を「他者追随型」と呼び、さらに投信を「毎日投資決定主義」と断じました。

 本質をついています。

 残念ながら、40年後の今もなお、投信は、「毎日投資決定主義」です。
 ニューヨークが、などとファンドマネジャーが話しているのを聞くと、とても残念な気持ちになります。
 機関投資家って、いまでも、日経新聞を毎日読んで、毎朝運用会議を開くという習慣なんです。

 彼らの行動がすでに本質的じゃないのです。

 いま、一番良心的な部類といわれている、直販のH投信でも売買回転率は高い。
 毎年100%を超えています。

【回転率と投信のパフォーマンス】

 一般に、売買回転率が高ければ高いほど、売買手数料が高くなるため、パフォーマンスは悪化します。

 0.1%程度売買手数料を証券会社に払っているとすれば売買回転率200%でファンド内の年間手数料は0.2%程度悪化します。

0.2%??

 なんだ、大したことないと感じた人はいませんか??

 そうではないんですよ。

 株式市場は、売値と買値の差、スプレッドがあり、「板」とか「バイカイ」と呼ばれていますが、99円買い100円ヤリなどと呼ばれるものがあります。
 そのとき、売りたい方は100円では売れず、99円で売れる。
 買う人は99円では買えず100円なら買える。
 この場合のスプレッドは1円です。つまり1%も開いている。
 これは投資家は知ることができないコスト。

 しかし、実際に発生している売買「コスト」なんです。

 このスプレッドの部分が結構大きいのですよ。
 特に投信のような大きな注文を出す場合はスプレッドは拡大します。

 ざっと0.2-0.3%程度はインパクトがあります。
 これで、手数料と売買スプレッドコストでトータルすれば0.4%程度の悪化になります。

 これが「わずか」であるとはいえないのは、0.4%の年率のコストは40年で16%になるからです。

 回転率という側面だけを取り上げるのはフェアではないかもしれませんが、ひふみ投信は日本でナンバーワンの投信のひとつです。

 彼らでさえ、100%を超えてしまう回転売買なのです。

【理想のポートフォリオ】

 理想は、長期成長株を選び切る眼力。
 そして、30~40銘柄に絞り込む力量です。

 わたしは機関投資家としてリスクを抑えつつ、過去20年間でTOPIXを400%アウトパフォームするポートフォリオを構築してきました。

 銘柄数は最大でも40銘柄にして、売買回転率は年によっては50%以下です。

【超高速超頻度投信の登場で運用者は投資哲学を失った】

 近年、驚愕すべき投信が現れました。
 東証が2010年に売買システム「アローヘッド」を導入。

 売買処理能力を1秒間に1000回もの注文を処理できるようにしたためです。

 それを活用した超高速・超頻度の投信が登場。
 いまこの超高速・超頻度の売買が東証の6割を占めています。

 こうした悪種の投信はゆくゆくは規制されると思います。
 なぜならば、一秒間に1000回も注文を出したりキャンセルしたりすることは、最終投資家のお金で投機をしていることになります。

 こうした投機に社会的な付加価値があるとは認めがたいからです。

 このような投信は、儲かればそれでよい、後は知らん、という運用業界の貧困な思想が見え隠れします。

 運用者は投資哲学を失ったのではないか。そう思われても仕方ありません。

 むく氏のレポートから約40年。

 売買回転率の観点からは、現状は昔よりもずっとひどい。

 どうして日本には良質の投信が育たなかったのでしょうか??
 金融業界の怠慢でしょうか??

 むくさんや先人に対して、金融業界人の一人として、申し訳なく思います。

Slow Investment
山本 潤

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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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