見出し画像

四度目のスペイン(12)アビラ

12番目の町はアビラです。12世紀に建造されたという、高さ10メートル以上の城壁に囲まれた要塞都市で、外観はRPGゲームに登場する城市そのまま。てか「元」がこっちなんでしょうけど。

サラマンカ→アビラ

8月8日 火曜日
 11時過ぎにチェックアウト。2泊で70ユーロ。安し。クレカ支払い。荷物を預かってもらい、市内散策へ。「地球の歩き方」には載っていないサラマンカの教会や学校を見学する。
 アールヌーボー&アールデコ美術館。4ユーロ。ここは素晴らしかった。ラリックのガラス彫刻とか、ガレのキノコスタンドとか。建物自体、天井がステンドグラスになっている、とってもシャレオツなもの。ここは婦女子必見のスポットであろう。
 美術品や宝飾品、絵画に加えて、フランス人形、ドイツ人形のコレクションがおそらく数百体あり、見事かつ恐ろしい。他にも当時の土産物とかおもちゃとか、少女古写真も含めての絵葉書とか、充実の展示だった。
 特別展示が「戦争の悲惨」。ゴヤの例の版画シリーズと、現代の戦争(シリアとか)の写真を併せた展示。意図は分かるが、「ここ」にはふさわしくないような。ここは、今は亡き大戦間のベル・エポック…まさに美しい時代の夢に遊ばせてくれる場所なのだ。と、少女まんが家じみたことを書いてしまった。
 たっぷり時間を使って、13時半過ぎにプラサ・マジョールへ戻ってくる。「ドンペペ」のカウンターで最後のカフェ。カフェコンレチェ1.30ユーロ。
 パコと握手してアディオス。
 しっかし、オステル・プラサ・マジョールはいい宿だった。ここと「ドンペペ」の組み合わせが特に。ドンペペじゃ何回飲み食いした? 2泊3日でメヌデルディア2回。セルベッサ2回。カフェ1回。ほとんど「常連」じゃんかよ。1年ぐらい後にもっぺん行ったら覚えてくれてるかな?
 相変わらずの方向音痴で、プラサ・マジョール内をプチ迷走。市バスのバス停へ。6分待って4番バス到着。乗る際に「アラエスタシオンデアウトブス?」(バスターミナル行き?)と運ちゃんにちゃんと確認する。シー! 1.10払って5お釣りの、1.05ユーロ。バスはそこそこの混み具合だった。で、数えてた通り6番目で下車。avanzaの窓口でチケットを買う。15時半発アビラ経由マドリッド行き。6.60ユーロ。1号車の8番座席。号車がついてるってことは、繁忙期には複数バスを連ねるのであろうと推察。
 バスは例によって村々を回って、17時ちょい過ぎにアビラ到着。ところがタクシーがいない。しょうがないので、スーツケース引いてつるつる歩いていく。幸い道は分かりやすくて、ほぼ一直線で到着。予約も通ってて無事チェックイン。1泊50ユーロを2泊。部屋もよろしいんだが、ちょっと夜うるさいかもしれんね。まあ、ロリータパブが無ければ大丈夫っしょ(笑)
 聞いたら、タクシーは電話で呼ぶんだそうだ。田舎だねえ。でもそのスキルも得ておきたいところ。
 窓を開けたら向かいは城壁。パンイチシエスタを決め込んだ途端、城壁の上を歩いてたおっさん目撃。丸見えじゃんよ! カーテンを引く。
 オテル併設のレスタウランテがゆかしげなので、21時に予約する。ちと「ちゃんとしたカッコ」で行ってやろうかな。
 何はともあれ、まずセルベッサひっかけに行くニダよ。
 帰オテルして19時半。漠然と歩いてみるが、通り表示があまりないので、プラノが役に立たない。もっとも、ガッチリと城壁に囲まれた町で、さほどの大きさでもないので、迷ってもたかが知れてる。修学旅行っぽいこどもらが複数グループいたが、町に泊まるわけではなさそうだ。
 最後にオテル向かいのバー?でウナカーニャ。オリーブと乾き物がつく。それはいいのだが、勘定の3ユーロは高いよ。いや、フツー? 立ち飲みばっかしてると金銭感覚が狂うのかもしんない。

撮影してきたレスタウランテのメニューを、辞書引き引き翻訳します。

Chuletónチュレトンはアビラ名物のでかい牛ステーキ。24ユーロ。アラパッリジャは網焼き。
コチニージョアサドは子豚の丸焼き。20ユーロ。オーブン焼き。
チュレティジャスというのは多分乳呑子羊のスペアリブ。20ユーロ。網焼き。
乳呑子羊の脚か肩肉の焼いたの。23ユーロ。
牛のソロミジョはヒレ肉。23ユーロ。
牛のエントレコはバラ肉。21ユーロ。
ペルディスはトレドで食った野ウズラ。19エウロス。
イベリコ豚のソロミジョ=ヒレ肉は16ユーロ。
ロボデトロは牛テールシチュー。19ユーロ。
マグレデパトは多分鴨の赤身。16ユーロ。

 ここは「食いきれないリスク」をあえて犯してチュレトンである。1ポンドくらいなら何とか食えると思うし、たとえ残しても、爺のすることと勘弁してもらおう。その前にミックスサラダ。野菜部分を主に食って、半分を目標にしよう。酒はセルベッサは止めて、食前から白ビノ。2杯目は赤ビノ。
 今日は朝はトマト、パン、ケソのみだし、昼は食ってない。18時過ぎにセルベッサ1杯と、自室で赤ビノとケソをほんのちょっと。ならばこそ、逸脱も許されよう。
 それとマドリッド再攻略についても、明日のうちに展望を定めておこう。自分の目論見としては、グランビア辺りの安宿に1泊飛び込んで、次の2泊はゴンサロのオテルカタロニアに取ろうか。明日メールすれば多分取れると思うのだ。その際に、土曜に一緒に軽く食わん?てなことも記しとく。
 21時過ぎにレスタウランテに降りていく。カマレラのねいちゃんが「こっちです」と案内してくれたのが、向かいのバーのさらに奥の奥のテラサ席。3人がけテーブルを薦められたが、遠慮して2人がけにする。これで正解。人気店らしく、たちまち満席になった。
 エンサラーダミクスタは、要は生野菜てんこ盛り。レタス、トマト、アスパラガス、青ピーマン、玉ねぎ、それにオリーブと茹で玉子。ビネガー、塩、油の3点がついてて、好きなように味付けて食え、ということ。油は忌避して、酢と塩を適当に振りかけて食う。半分強で降参。馬でもアメ公でも無いんだから、そんなに生野菜バリボリ食えんよ。酒は白ビノ。
 で、本命のチュレトン登場。ポコエチョ(レア)にしてもらった。分厚く馬鹿でかい骨付きリブステーキである。圧倒されるとともに勝機が見えた。骨と筋と脂肪除いた「実質」は、家でこどもらに食わせてるのの倍くらいでしかないじゃん。
 ナイフがりがりで可食部分を切り出す。適当に刻んで食っていく。味付けはごくシンプルに塩胡椒のみ。旨い! いや、バスタンテ旨い! 久びさに旨い牛肉をがっつり食えた。多幸感に捕らわれてぼーっとしてしまう。酒は赤ビノ。
 そのせいで、普段は食わないソルベ(これがまた旨かった。カバが入ってた)にカフェソロまで追加して、勘定書きを上乗せしてしまったわけで(笑) 並の宿1泊より高い45.20ユーロ。
 …ついさっきまで、そこそこ騒がしく、窓しっかり閉めてても人声その他の物音が聞こえてたのだが、しん、と静まり返ってしまった0時半前。ロリータバルの類は営業不可なのだ。少なくとも「城内」では。ちなみに自分は、赤ビノ、ウオトカ水割りと切り替えつつ、いつも通りの軟着陸を試みているところ。今日はシエスタ無しだったので、明日は9時10時までだらだら寝過ごしてもいいかな。これもまた「2泊」の利点。

アビラ2日目

 8月9日 水曜日
 まずは鉄道駅まで歩く。寒いので長ズボンにウォーキングシューズで。迷うこともなく駅到着。自動券売機で明日のチケットを買う。11時55分アビラ発、13時39分マドリッド・チャマルティン着の、指定席12.25ユーロ。
 市バスのバス停を確認しつつ戻る。サン・ビセンテ門近くのインフォでプラノ入手。紙が薄くて頼りない感じ。サン・ビセンテ教会を覗くがミサ中で入れず。
 オテル近くの入り口から城壁に登る。5ユーロのところを「フビラド」(退職者)で3.5。高い怖い。2パートに別れてる、短い方だけ歩いてやめにする。城壁からは、なるほどオテルの自室が丸見えだ。爺がパンイチで転がってるところを目撃したショックで城壁から墜落する奴がいなくて幸いだった。
 展望スポットである「四本柱」を目指す。途中、バケット買う。80くらい。囓りながら歩く。旨し。旧市街をまっすぐ北上。アダハ川に向かって下っていく。旧市街の北側はフツーの住宅地。つっても中世以来の、であるが。北詰の城門を出て、アダハ川を渡って対岸へ。「柱」まではそこからさらに歩く。
 「柱」は大きな駐車場付きだった。みんなクルマで来るのな。そうだよな。町の全景を撮影。光は午後の方がいい。夕刻もっぺん行くか。
 適当に戻る。細長い町だから、道が分かりやすい。
 カテドラルへ。5ユーロ。これは綺麗なカテドラルだった。今まで見た中じゃ一番かもしれない。赤い斑の入った石で出来ていて、それがとても美しい。
 で「にしても寒い」になる。寒いんでオテルに戻ることにする。メルカドでトマト二個と缶セルベッサ購入。トマト1.18にセルベッサ2弱で、3ユーロ弱。
 帰オテルして、晩のレスタウランテを予約する。昨日同様21時。
 2時間ちょい寝て17時に起床。下を通る人声がうるさいが、逆にそれが睡眠導入になってたかもしれない。もちっと寝てていいな。
 17時半過ぎ再出立。裸足サンダルだと足裏が楽。午後なってちと暖かくなったが、それでも寒い。日向を拾って歩くほど。サン・ビセンテ門まで歩く。市バス1番の駅方面行きのバス停を発見。ここが「最寄り」である。明日はここに10時半かな。となると、チェックアウトは10時過ぎだ。あまり早く出過ぎないようにしたい。
 サン・ビセンテ教会を再度覗くが、ちょうどミサ始まるところで入れず。こことはご縁が無かったのだろう、とあきらめる。
 城壁の外側を時計回りに回ってみる。車道との間にけっこうな高低差があり、並行する遊歩道に何やら露天が並ぶ準備をしている。ラストロ門から城内に入り、サンタ・テレサ修道院へ。2ユーロ。こんなことを書くとバチかぶりそうだが、ひたすら上目遣いで白目剥いてるお姿が怖い。イエスの「エッセホモ」が見えたり、イエスその人から食べ物を貰ったりと、様々な神秘体験をしたひとらしい(絵や彫像から察する)が、とことん信仰を極めれば「そんなこと」もあるのだろう、と妙に納得させられる。18時38分に退出したのだが、出る時は、もう閉門していた。
 城内を北へ下っていく。北詰の門を出て、朝と同じルートで「四本柱」を目指す。午後の日差しを浴びた町がいい感じである。何枚か撮影。後、朝は気づかなかった遊歩道を歩いて川を渡り、城壁の外側に広がる原っぱを時計回りに歩いてみる。これがなかなかいい感じの散歩であった。そもそも小高い丘の上に、元々あった岩を上手く利用して縄張りを引いたことが分かる。モロ(ムスリム)の砦があったのを、それも取り込んだのであろう。
 こんだけの城壁で囲ってしまえば、モロとしてもちと攻める気が起きまい。「隊長、これちょっと無理っす」だろう。敵に攻める気を無くさせてこその、城塞都市なのだろう。究極の専守防衛である。でもまあ、実際の戦争ともなれば、何かヶ月、いや何年も包囲され、兵糧攻めにされた上、投擲機で腐った動物や人間の死体を放り込まれたりして、悲惨なことになったのであろう。「ここ」がそうだったとは限らんが。平和な時代になり、観光客が集まってお金を落としていく。それこそがありがたいことであろう。
 カルメン門から城内に戻る。一度帰ホテルしてシャワー。レスタウランテへ。
 旨かった。「ソパ デ フィデオス」(スープ麺)6.00はパスタというより、柔らかく茹でたにゅうめんみたいなの。身体温まった。量もメチャ多じゃなかったし。コチニージョアサド(子豚丸焼き)20.00は尻尾付きの左後足。皮パリパリで北京ダックみたい。骨と尻尾と足の先だけ残し完食。特に皮は徹底的に食う。酒はセルベッサ3.00、赤ビノ。デザートは無しでカフェソロ2.50。それにパン1.60がついて勘定は33.10ユーロ。
 ソパでお腹温めてから、コチニージョがっつりという構成も良かった、と自画自賛。十二分に満足。
 だがしかし寒かった。後から入ってきた夫婦はジャンパーに襟巻までして、冬かよ、てなスタイルだった。そうなんだ、アビラは寒いんだ。

知ったかぶりカトリック美術論

いろんなカテドラルや教会の博物館で、様々な絵画や彫像を見て思ったこと。古い時代のもの…13世紀くらいまで…は、イエスや聖者たちの容貌を描写するにおいて、素朴かつ抽象的なタッチで、仏像を連想させるようなものもある。時代が新しくなるにつれて、どんどん「リアル」になっていく。要するに「スペインづら」だ。十字架にかけられたイエスがスペイン兄貴なら、処女マリアはスペインおねいさん。銀皿に盛られた洗礼者ヨハネの生首(断面リアル)もスペインづらだ。もちろん、騎乗して大剣を振るい、モロの首を百と三つ叩き落とすサンティアゴもスペイン人。

これは自分の「カトリック美術=ハリウッド製CG映画」論?を裏打ちする。「300」のレオニダス王以下、スパルタ海パン軍団が、金髪碧眼でも黒人でもないってだけで、「アメリカ海兵隊の腕っぷし自慢」にしか見えないのと同じ。

で、やっぱカトリック美術の表現は、過剰であり異様であり悪趣味である。教祖を処刑した道具である十字架を信仰のシンボルとするのは、まだ分かる。そこに断末魔のリアル教祖像を貼り付けるのは異常だ。日本の例を考えてみよう。神像というのはあまり一般的じゃないが、仮に制作するとして、イザナミ像は、股間焼けただれ、全身にウジがわいた姿か? 有りえんよね。織田信長が炎上する本能寺で腹切ってる像も有り得ない。太田道灌が風呂場で斬り殺されてる像も。坂本竜馬は維新の英傑だが、その最後は斬殺死だ。だからといって、高知桂浜の竜馬像が、頭を斬られて脳味噌はみ出した断末魔の姿か? 武市半平太像が、切腹して腸ぶちまけてる姿か? いっかに土佐と言えどもやらんだろ。仏陀の場合は「涅槃仏」という表現があるが、タイのは巨大な金ぴかで、英語題が「リクライニング・ブッダ」だぜ。

イエスに倣い、聖人さんたちも残虐表現のオンパレードだ。銀皿生首の洗礼者ヨハネ。矢刺さりまくりの聖セバスチャン。今日カテドラルで見た聖なんちゃら像は、槍2本が身体にX字形に貫通してた。

残虐なシーンをこそ描きたい、それを見たい、という欲望があるのかもしれない。ヘロデ王による嬰児殺しとか。これもスペイン語に専門用語があると知って蒙を啓かれた。

殉教図が個々の聖人を区別する「印」ちうことなのかもしれない。殉教に限らない。槍で竜を殺す聖ジョージとか、こどもキリストを背に乗っけた巨人・聖クリストフォロスとか。

クリストフォロスは芥川龍之介が「きりしとほろ上人伝」として翻案してる。あの神経症の心の琴線に触れるところがあったのだろう。日本でもオオクニヌシとスクナヒコナという大小コンビがいる。「絵」になるのだろうな。

ああそうか。「鉄人28号」なんてのもそのバリエーションなんだ。「キングコングと美女」にしても、美女がコングの頭に乗っかって「薙ぎ払え!」とか命令すれば、同じモチーフ。と、これはクシャナと巨神兵か。とにもかくにも「巨人」はかっこいい。でかくて強くて、同時に「悲劇性」を内包している。いつか大地に倒れる日を予感しているから。

翌日はマドリッドに戻りますが、旅はまだまだ続きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?