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天本英世のスペイン
天本英世という俳優がいます。わたし世代にとっては何と言っても「仮面ライダーの死神博士」。長身と独特の風貌で多くの映画や舞台で活躍した人です。
この天本さんは、筋金入りのスペイン好きでした。生涯にスペインを20回以上訪問しました。1979年には7か月間もの長期間に渡ってスペイン全土を旅しました。その旅の記録が「スペイン巡礼」と「スペイン回想」の2冊のエッセイにまとめられています。フランコ独裁時代の後、民主化して間もないスペインの、それも田舎を、日本人の目で見て歩いた記録として貴重なものではないかと思います。
わたしは7年前にスペイン語学習を始めて数か月経った頃に、この2冊を読みました。以下は当時の「感想」です。
地道な旅行記だが、7か月という長期間に及ぶものであること、また「死神博士」の手になるものだから、非常に面白く読めた。そこかしこで舞台に上がってロルカの詩を朗読したり、行く先々の町のプラサ・マジョールでこどもたちに囲まれ、腕にカタカナで名前を書いてやったり、「日本人に見えない」てんでホテルで「満室おことわり」されたり、素晴らしすぎる。後半、毎日のようにパエジャを食っているのも共感。そうだよな、スペインって米が食えるのが、日本人にとっては有り難いところなのだ。「フランコ時代の方が良かった」と言う人間が少なからずいたという記述にも注目しておきたい。
先に読んだ「スペイン巡礼」とペアの本で、スペイン愛に溢れている。団体ツアー主催したくだりも面白い。けっこう素で怒りや嫌悪を開陳するひとなのだ。で、「巡礼」頼りにスペイン旅行した人が少なからずいたらしい。分かる分かる。「先達はあらまほしきこと」で自分もやりそうだから。
「こんな旅が自分にもできたら」と心底思いました。それを実現しようと試みたのが「四度目のスペイン」でした。
と、今amazonを見てみたら、「スペイン巡礼」の古書が最安値で4799円でした。わたしが7年前に買った時は送料合わせて1000円そこそこだったのに。
図書館は?と「カーリル」で検索したら、東京じゃ調布市中央図書館1館だけ。国会図書館にも無いとは。「タレント本」扱いで長くは蔵書されなかったのでしょうか。
しかし復刊は難しいでしょうねえ。40年以上も昔の本で、ガイドブック的な実用性は皆無だし。