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四度目のスペイン(8)ア・コルーニャ

8番目の町はア・コルーニャ。スペインの北西、ガリシア州の港町です。オビエドの曇天雨天でプチ鬱になり、「ビーチリゾート!」と思い込んで、次なる目的地にしたのですが…。

オビエド→ア・コルーニャ

 8月1日 日曜日
 さて7時。まずは飯だな。トマト1個丸食い。昨日買ったパンの残りに羊ケソ挟んだボカディージョ。それに水道水。オビエドも水道水は旨い。十分飲める。これまで渡ってきた町で、水が美味しくなかったのはセゴビアのみ。それも飲めんほどじゃなかった。スペインは水道水が飲める国である。さらに旨い。日本よりも。

外は雨。ふと「スペインの雨は主に平地に降る」という英語の早口言葉を思いだしました。
「The rain in Spain stays mainly in the plain.」
「マイ・フェア・レディ」ですね。オードリー・ヘプバーンの。
アストゥリアスはオビエドにも雨が降るのです。

 バスは始発でも無かったようで、すでに相当量の荷物を積んでいる。そこにあれこれ工夫してスーツケースを詰め込んで、何とか出発の9時10分頃。雨のオビエドとお別れである。
 バス旅はスーツケースが荷物室なのと、乗る時に運ちゃんが行き先をチェックしてくれるので、ある意味楽だし安心。鉄道は列車間違えてても指摘してくんないからな。

以下、道中に記したメモからの抜粋です。

 暗い曇天の下、炎を吹く煙突。ちとシュールな風景である。そして海へ。9時38分、港町アビレス停車。おねいちゃん二人乗車。
 雨と霧にけぶる山の中を走ってく。森、牧草地と牛、別荘、川、また森。フランスかドイツの田舎みたい。と、右手に海が見えた10時08分。湾もある。
 右手に海を望みつつ走っていく。古いアーチ橋、なんちゃらマリスコスの看板。
 10時40分。雨が上がって雲間より青空が見え始めた。
 11時16分。また山越え。霧の中を走っていく。霧の中、白いポールが見える。風力発電の風車だった。道のすぐそばにそびえたち、ぐるぐると羽根を回すたくましさ。スペインの電力の4割を風力がまかなってるんだっけ。風さまの力はありがたい。
 峠を過ぎてひたすら下り。あと1時間くらい。
 11時55分。白い雲に青い空の快晴。ア・コルーニャまで51km。

無事にア・コルーニャバスターミナルに到着。外に出て市内バスに乗リ継ぎます。1.3ユーロ。海岸の公園沿いを走っていきます。でも、どこで降りたらいいか分からない。ヨットハーバーみたいなところで降りたら結果オケーで、市役所のあるプラサ・デ・マリアピタのすぐ近くでした。

 インフォでオテルリストと地図を貰う。この町も入り組み路地町。通りの名前が出てなかったりして、ちと困ったり。でもまあ、何とか辿って、星2つのオテル・ソルへ。60ナンボ。十分。2泊したかったのだが、今日時点では塞がってるとこと。明日朝訊けばキャンセル出てる可能性大、というので期待したい。
 町は海と太陽でいっぱいである。キリギリスが元気を取り戻すに十分。再度、バミューダ&サンダルスタイルに戻って、町を探索しよう、の14時半である。スーペルメルカドらしきものも道中発見したので、その確認も。いざ!
 オテルを出て、まずはソル通りそのまんまに太陽目指してプラジャ・デ・オラソンに出てみる。水着の善男善女がマグロ状態である。続いて旧市街をうろつきまわってみる。坂道が多いくらいで「新」に対してさほど「旧」っぽくない。落書きが多い。オテルの周辺なんざ酷いもんである。で、声かけてくる怪しい黒い兄貴や、何も持たずにふらふらしている白い兄貴がいたりする。今までの町より治安レベルがちと低いようで、暗くなっての外出は控えたい。

ここで気がついたのが、宣伝も含めて、町中の表示の多くがガジェゴ、すなわちガリシア語であること。ガジェゴはガリシア州の「方言」というよりは有力な地方語で、ポルトガル語に近い独特の言葉です。なまじスペイン語(カスティジャーノ)が分かってるだけに、違和感が満点。違う国に来てしまったように思いました。

 「ボカデロボ(狼の口)」(今レシート見たら「A Boca do Lobo」とガジェゴ表記だった)という店がいい匂いしてたので、周囲を2周したあとで入る。メニューみたらイカスミパスタっぽいのがあったのでそれにする。酒は小瓶のセルベッサ。旨かった。勘定は10.50ユーロ。
 オテルでシエスタ後、シャワーを浴びて、散歩に出立。町の全体像をつかむべく歩いてみる。海岸の公園沿いに本屋の露天が並んでいる。これがちゃんとしてて(つまり、ジプシーのテキ屋とは違って)、何らかの公的プロジェクトを背景に感じる。人気らしく、けっこうな人出である。本屋の標識はすべてガジェゴ。で、覗いてみるとカスティジャーノじゃない本がたくさん並んでいる。ガジェゴなのか、ポルトガル語なのか、自分には区別がつかんが。カタラン(カタロニア語)を看板にした書店も1軒見つけた。
 町はタベルナやらレスタウランテやらバルやらたくさんあって、観光客がひしめいている。人気の観光地でハイシーズンであると分かる。飛び込みでよく泊まれたもんだ。それがスペインの余裕のあるところなのか。
 そろそろ21時だし、自分もどっかで食おうかと思ったのだが、中々ままならない。立ち食い出来るピンチョス屋は満員。店先にテラス席出して営業している「マリスコス」店のテーブルを覗いたが、チョピトスフリトス(小イカフライ)とか、小魚のフリトスとか、ガリダコ+パタタてんこ盛りとか、量はガッツリだが、正直あまり旨そうじゃない。最後にソル通りの中華屋覗いたが、誰も入ってない。
 この時点で「部屋食い」と決める。昼行ったスーペルメルカドで、前から気になってたムール貝缶、太アスパラガス瓶、鶏ハム切り落とし、リンゴ1個、それにセルベッサ2缶買う。計6.91ユーロ。安かないが、明日の朝食、昼酒分もあるわけで。
 カモメが翔んでる。鳴いてる。これも風情があって良いね。ギタッラ弾いてる奴がいる。何か遠くで歌ってる親父がいる。クルマの音もする。全体に、人間がいっぱいいて、それぞれに楽しい気持ちになってる町、という感じ。こんな町で、ほんわかと酔って眠りたい。
 オビエドも悪い町じゃないが、天気が悪かった。雨で寒い。その寒さをシードラとファバーダでしのぎ、お腹いっぱいになった体験は、それはそれで一生忘れんだろうから良かった。

ア・コルーニャ2日目

 8月2日 水曜日
 多少の騒音は「しょうがないこと」だが、昨夜はちと度を越してた。自分が寝つきそうになった1時頃から、オテルの真ん前でただならぬ騒ぎが始まった。最初は店が終わって帰ろうとする客らが最後に挨拶かなんかしてるのかと思ったら逆で、深夜に開店の店が大繁盛して、店内に入れない客が外まで溢れて飲んでいるのだ。オテルの真向かいの「ロリータバー」という意味不明な屋号。若者に超人気店のようだ。うるさくてもなんでも寝ちまったのだが、4時過ぎまで盛り上がっていたようだ。
 こらちとたまらん。宿を替えることにする。8時半前にオテルを出て、旧市街とは反対の「都心」方向へ歩く。地図でオテルを確認して回ってみる。何軒かまわって、「オテルマイカル」が、38ユーロで今すぐ部屋に入れるというので、そこにした。カード支払い。エレベータはヨーロッパの古いオテルによくある、手動で扉を開閉するタイプだった。
 オテルソルをチェックアウト。フロントのおばちゃんが「何か問題あったんか?」的なことを訊いてきたようだが、よく分からんかったので「?」て顔してたら「いや、なんでもない」と引っ込めた。要は、2泊したいと言って、キャンセル待ちと認識してた自分が1泊で出るというので、疑問に思ったのだろう。勘定は65ユーロ。アビアウンポコルイードエスタティエンダ(あそこの店がちょっとうるさくてさ)、と言ったら「ああ、夏場は若い連中が部屋に居られないんで外で騒ぐのよねー」てなことを言ってた。

海岸沿いの歩道を歩いて「ヘラクレスの塔」を目指します。もともとは2世紀のローマ時代に建てられた灯台なのですが、今の塔は18世紀のもの。失礼ながら、そんなにおもしろいものじゃありません。見渡す限り、チノ(アジア人)は自分一人だけ。バグパイプ吹いてた爺がいて、ケルトな感じ満点だったので、1ユーロ献金しました。

昼食は、あれこれ迷い歩いた末に、昨日と同じ「ボカデロボ」。バカリャオ(タラ)を食ったのですが、火の通りが甘く、芯が生を通り越して凍ってました。ダメですねえ。

 地元の人気店なのだと思う。自分がほぼ口開けだったが、どんどん予約が入ってて席確保してたし。味も悪くなかった。でも、看板料理のツメが甘いというのは、レスタウランテとしては失格である。「町の小料理屋」の限界なのかもしれない。
 たっぷり2時間のシエスタ。旅日記をしたためて17時過ぎ。さて、再出立だ。ろくに「観光」してないア・コルーニャだが、いちおうの「名所」は押さえておこう。
 オテルを出て、サン・アントン城を目指す。海岸通りは日光がキツいので一本北に入ったルートで。ヘラクレスの塔ほどじゃないが、そこそこの距離がある。いい運動になる。なんたってこの旅は、食う、寝る、歩くだから、歩かないと太って死んじゃうよ。あるいは痛風で。
「城」に到着。入場料2ユーロ。石器時代から近代まで雑多な展示。逆に何が入っているのか分からない、福袋的な面白さ。いきなり地下に池があったり。
 続いてサンティアゴ教会へ。入場無料。メインの祭壇にも周囲のカピジャ(礼拝室)にも、アジサイの生花が供えられている。カテドラルや教会で生花見たのはこれが初めてのように思う。お寺や仏壇の仏花と同じ。生きている信仰を感じる。
 メンデス・ヌニェス公園の本の露天街。昨日同様の人出。内側の公園じゃカーニバル。メリーゴーラウンド、超脚長自転車。
 一度オテルに戻って小荷物入れ直してから再出立。オテル・ソル近くのスーペルメルカドまで行って買い出し。セルベッサ缶、イワシのオリーブ油漬け缶、アスパラガス瓶詰め。4.72ユーロ。オテルに戻る。

で、シャワー後、「部屋飯」を楽しみつつ、旅日記を綴ります。昨日今日観た海は大西洋で、つまりユーラシア大陸の西の端っこにいるのです。思えば東の端っこのそのまた先の島国から、遠路はるばる来たものであるなあ、としばし感慨にふけります。

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