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戻らない事と。

2023.11.25 日曜日。

寒い。朝起きたらリビングの床だった。リビングの床で緩い床暖に守られたままそれでも寒さで起きる。冬がきた。
またやってしまった、と思う。化粧も落としていない。

冬場はうだうだとしてしまいリビングで寝落ちが多い。

あーあと思う。ひとしきり後悔した後に無かった事にしようと顔にスチームを当てる。スチームをあてながらスマホを見て丁寧に生きる人のnoteを読んだ。

規則正しい生活、いつそんな生活をできる様になるのか。

スチームを浴びて、いつもより強めのオイルクレンジングを塗ってもみもみする、顔を洗う。顔を触って肩を落とす。ザラザラだ。

お風呂上がりにもう一度スチームをかけてピーリング美容液を塗ってシートマスクをしている。
まだ、肌は戻らないでいる。

戻らない事ってあるんだよ。自分に言う。

昨日、土曜日。帰り道のファミレスで牡蠣フェアに踊らされて牡蠣天丼を食べてしまった。脂っこさに気持ちが悪くなり狼狽する。
狼狽しながらファミレスの階段を降りていたら最後の2段を滑り落ちてしまい、ひさびさに床に転がった。

そんな昨日の出来事を思い出し体の点検する。痛い場所なし。青なじみもなし。今のところよし。
歳をとるごとに異常が出る時間が遅くなっているので、まだまだ信用できないけれど。

運動神経が極端に弱いので、よく転ける。階段からもよく落ちる。駅の階段のてっぺんから下まで落ちた事もあるし、漫画みたいに横向きにゴロゴロと転がり落ちた事もある、2段ぐらいならしょっちゅうなので、だから昨日のは『セーフ』なのだけれど、ひさびさに床に転がったな。と思う。大概は『びたん』とはならない。座り込むぐらいで回避できるのだ。

突然横で『びたん』と転がる嫁(私)にびっくりして棒立ちになり反応しなかった夫を散々に責めた。

「全然助けてくれなかった」
「やさしく無い」
「ゾンビに襲われたら私を餌にして逃げるタイプの男か」
「冴羽獠なら助けてくれたのに」

言いつのる私に
「運動神経の問題だって、俺には無理だよ」と笑ってる夫は私ほどじゃ無いけれど運動神経が無いらしい、大人になって出会ったので走っている姿すら見た事が無いのだけれど。

なるほど、昔の彼を思い出した。大学生の時の彼はサッカーをやっていて、プロに行くか悩んだぐらいには運動神経が良かった(らしかった)。横でよく転ける私を、彼はボールの様に足で支える形でよく助けてくれて、「なんで足なのよひどい。」って言っていたけれど、彼は本当に運動神経が良かったのかもしれない、今更ながら納得した。

「やさしく無い」
「愛が欲しいぜ」
「あーあ、冴羽獠と結婚すれば良かった」

楽しくなって言い続ける私に
「運動神経とか反射神経の問題で、そこに愛は何の関係もない」と笑っている夫は、確かに「何があったの」と呆れ顔で半笑いだったけれど(絶対笑っちゃダメだけど)、ずっと横に居て他人のふりはしなかった。と、件の運動神経抜群の彼に転けた直後他人のふりをされた事を思い出した。

私は愛されているかもしれない。
(私の愛のハードルはだいぶん低い気もする)


先週の土曜日。車で迎えに来てくれた夫と人がまばらのスーパーで昭和感漂うフードコートに行った。(東京で車で寄れる店は限られているのだ)

現在の色々な専門店が軒を連ねてるみたいな形のキラキラしたフードコートじゃなくて、ただ1つの窓口でたこ焼きもラーメンも大判焼きもコーヒーも売ってるタイプのなんだか薄暗い、フードコート。よく考えると買うものはそんなに無いのだけれど、ワクワクは止まらない。

夫が買ってくれたクリームの大判焼き(カスタードクリームが好きだ)はいざ食べようと割ったら餡子だった。
しばしの絶望。
絶望しながらも、諦めて餡子を食べてしまおうか悩んでいると(自分の事だと案外諦めてしまうタイプなのだ)、夫が「間違ってました」と交換に行ってくれた。

先週の夫は私のヒーローだった。

時々、結婚したのが夫で良かったなと思う。運動神経抜群のあの彼でも無くて、少し強引で男らしいあの彼でも無くて、運動神経が少し悪くて、口癖は「どうしたい?」の夫で良かったな。運動神経がいいふりも頼りになる男のふりもしない、ある種潔い夫で。


シートマスクを剥がしても顔はまだざらついたままだった。

戻らなくて悲しい事も、戻らなくて良い事も、世の中にはある。

(夫と冴羽獠ならもちろん冴羽獠と生きていきたい)



夫と公園に寄ったある土曜日を添えて。寒くなってきたので公園は春までお預けだ。

注※冴羽獠はシティーハンターです。

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オクノモト
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