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身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ(『宮本武蔵はこう戦った』より)

「こだわりを捨てよ」

武蔵は、 自分に言い聞かせた。

大地と一体化するのだ。

自然の声を聴くのだ。

運命は、すでに定まっている。

全てに身をゆだねるのだ。

降り注ぐ陽の光が、語り掛ける。

雲の流れる音がする。

波のささやきが、手に取るようにわかる。

見よ。

海面は、我が意のままになっているのではないか。

いや、そうではない。

分かるのだ。

どんなに小さい海面の動きも、把握できる。

今なら、鳥のように自由に空を飛び回ることも出来そうだ。


武蔵は、全てを受け入れることによって、自然の中に溶け込むことが出来た。

運命にも、身をゆだねることが出来たのだ。

「今だ」

用意していた紙を固くねじって作ったの襷を肉が食い込むほどに締め、頭が割れんばかりに鉢巻を締め上げた。

小舟に乗り込むと、真ん中に作られた、粗末な敷物が敷かれた席に腰を据えた。

清々しい気分に武蔵は、包まれていた。


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大河内健志
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