お香屋さんで働くことになりました、まずは体験香席に参加してみた!
こんにちは! 先日より香雅堂で働き始めました、新入社員のおおのです。少し自己紹介をさせていただくと、香雅堂入社前は、アパレルやコーヒー関連の仕事を主にしてきました。その中で、コスメや海外のオーガニック素材から出来たインセンスやサシェ、またはコーヒーや紅茶、ハーブの香りに関わる機会が多くありました。
香りや匂いの違いで気分も印象も変わりますし、また、食べ物も香り次第で味わい深くなりますよね。それらの香りは、美容や健康、または様々な食べ物の美味しさを増す効果に紐づけられていることが多く、香雅堂のような伝統的香りの専門店とは違うところもありそうです。
ずっと香りっておもしろい!と感じていたので、少し不安もありますが、和の香りという未知の世界への好奇心でドキドキしています。
日本の伝統文化には華道や茶道など「道」がつくものがありますが、和の香りの世界のなかにも「香道」が存在します。これまで名前くらいしか香道について知らなかったので、入門書を読んでみると、香りを「聞く」と表現すること、香炉に乗せている小さな木片「香木」は化石のようなものであるらしいことなど、少しずつ情報を拾うことができました。
しかし、具体的に「香木」はどんな香りなのか。香道のお稽古では何をどのように楽しんでいるのか。まだまだイメージが湧きません。そこで、香雅堂が主催している和の香りの体験企画のひとつを体験してみました!
体験香席~香道の入口を覗く~
さて、当日。緊張しながらお稽古場の香雅堂2階に向かうと、香席や茶道のお稽古をする和室と、明るい洋室があります。
まずは洋室でお稽古前に「体験香席のしおり」を見ながら、本物の香木を囲んで、香雅堂社長より香道について歴史などのお話を伺います。
他の参加者のみなさんと共に、緊張の面持ちで、真剣に、聞き逃さないように、と構えていましたが、「詳しいことなどは、後ほどしおりを読んで頂いたり、ご質問もいつでもお受けしますので、メモも取らなくて全然オッケーですよ~、今日はまず楽しんでいただければ一番です~」との声掛けに一気に肩の力が抜けました。
……そうか、今日はまずは楽しんでいいんですね! そういえば、しおりが配られるのも遠足みたいです。何だか足取り軽く、楽しくなってきました。
それから、本日の香元をご担当なさるスタッフ方から今日の組香「菖蒲香(あやめこう)」についての説明と楽しみ方を解説していただきました。アヤメはこの時期の季節の花、ショウブやカキツバタにとてもよく似ており、一見見分けが難しいのだそうです。そのことと関連する源頼政の和歌、「五月雨に 池のまこもの水まして いづれ菖蒲と引きぞわづらふ」が本日の組香の主題です。
これは源頼政が一目惚れし、長い間想いを寄せる鳥羽院の女房、菖蒲御前をめぐり鳥羽院に出題された難問に困り果てた頼政が詠んだ一句。その難問とは、暖簾越しに菖蒲御前と同じ装いをさせた女性5人の後ろ姿から、本当の菖蒲御前を当ててみよ。というもの。答えに詰まった頼政ですが、先ほどの一句を詠んだことで、後鳥羽院に気に入られることとなり、菖蒲御前との関係を認められたそうです。
この和歌の内容を改めて知り、頼政のように恋愛成就のここぞという場面でよい和歌を詠む才能があると乗り切れるのかもと思ったり、あれ、ところで菖蒲御前の気持ちはどうなるの?頼政と鳥羽院がふたりで進めてしまっているけれどそれでいいの?とちょっと菖蒲御前に聞いてみたくなったり……。
古典の和歌は現代とは時間の流れも暮らしも大きく違う時代の貴族が詠むもので、現代の日常生活とはかけ離れている世界の出来事という感覚がありましたが、背景や意味を少し知ると親近感を感じる部分もあり、おもしろいものですね。
組香のテーマであるアヤメはこんなお花
本日の組香についての解説を聞いた後、いよいよ聞香体験の始まりです。
和室に移動し、香炉の持ち方、香りの聞き方など実際の手順を教えて頂きます。基本は正座ですが、「ご安座」の声掛けの後は、足を崩してもよいとのことです。正座用座椅子も用意されているので、足が痺れる心配や正座が苦手な方も安心です。
正解サンプルの香りを最初に聞き、これを覚えておき、続けて別の香り5回を聞きました。最終的に最初のサンプルと同じ香りを聞き当てるという流れですが、初めて聞く、香木の香りは思っていたよりも微かな香り。とても細かい香りの粒子が鼻腔のとても奥まで届くと、3呼吸目くらいに、おや、これはあの時のあの場所……? という感じで記憶の破片に香りが引っかかってくる感じがしました。
その浮かんだ光景に気を取られて眺めていると、割合にすぐ次の香炉が周ってくるので、静かにあたふたしました。途中から、香りを覚えることは半分諦めて気味でした……。でも意識は集中はしているけれど、香りのおかげでこころは静かになり、気持ちが安らいでいる状態がとても新鮮でした。何となく、ヨガや瞑想のような身体感覚に近いのかもしれません。
最後の香炉が聞き終わり、小筆で回答を記して、成績を発表して頂きます。私は正解出来なかったのですが、正解してもしなくても、記憶と香りと静かに遊ぶ香席は、とても素敵な時間のつくりかただなあ、と感じました。
初めてのお稽古が終了し、やっと他の参加者の方ともお話できる時間になると、みなさん初対面にも関わらず、香りについて感想をなごやかに共有したり、なんだかとてもふんわりとしたいい空気に包まれている感じでした。同じ香りと時間を過ごしたおかげでしょうか。
参加者同士、最初の自己紹介などもしないので、人見知りの私はほっとしたのですが、香席後に感想などをお話する中で、また次回お会いできたらいいですね、と自然にゆるりと交流できる雰囲気も素敵でした。
今回は、香道の入口をほんの少し覗いて、計り知れない芳醇な世界が広がっていることを垣間見ることができた時間がひたすら楽しかったです。これからも未知の香りへ時間をかけてゆっくりと旅を続けていきたいな、と思っています。
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