出産後に嬰児を遺棄・殺害時に出てくる「男の責任」論と新しい責任論
※有料ですが全文読めるようにしておきます。
何度目の話だと思うくらいだが、母親が出産後に嬰児を遺棄・死傷する事件が起きるたびに、「男はどうした」「男は責任を取れ」と大きな声で叫んでくる人たちが出てきては、「女性の責任は取らせるべきではなく、保護をするべき」と言い出すわけである。
聞いているだけでばかばかしい限りであり、やったことくらいの責任はちゃんと取れと言いたいのだが、こういった議論は知識があるものですら思考を捻じ曲げるようなことが起こっているもので。
学者クラスでも臆面もなく父親側を罰しよう、母親側を罰するのは控えようもしくはしてはいけないと言い出すのである。
はっきり言うが、こうなる前に母親側にだってやれることはたくさんあっただろうし、出産前に相談機関に自ら行くことや相手男性に自分から責任を取ってほしいと要求するなど。
いくらでも手段はあっただろうにもかかわらず、こんな手段をとったこと自体どうなるかなんてわかっているのだから、責任をとるのは当然だろう。
と思っているのだが、どうしても不満らしい。
じゃあどうしてほしいのか?
と思うわけではあるが、相手方の言いたいことをまとめた結論としては
「男性は元々妊娠にも出産にも責任を負うべきものなのだから、出産後に女性が嬰児を遺棄・死傷させたことについても責任を取るのは当然である。」
という家父長制丸出しで、女性に責任能力はないか軽減しろという大変ばかげた論理でしかないのだ。
1 刑事責任はとることはまず不可能
検討する余地はないのだが、責任を取らせようと言っている者たちが考えそうなものとして、いの一番に取り上げられるだろうモノと言えば刑事責任だろう。
だが、こんなものは本来検討にすら値しない。
当たり前なのだが、男性は構成要件に何ら該当する行為をしていることがほぼほぼないので、通常は刑事罰に該当するわけがない。
遺棄、死傷といった行為をしているのは母親であり父親ではない。
父親が知らん間に母親が子供を遺棄、死傷したからといって、父親が裁かれることはないのは当然だろう。
この時点でそもそも男性に責任を取らせようというのが主張自体失当であり、共犯関係などでも立証されない限りは議論にすらならない。
2 他にどうやって責任追及をする気なのか?
刑事罰は不可能だというのはいいとしても、ほかにどう責任追及するつもりなのだろうか?
養育費用だとか認知だとか、この辺りは別に普通のことだろう。ただ、相手がわかっていない話の場合にはそもそも追及は相当困難である。
それに知っていたところでかつ、男性にいろいろなものを請求できたとしても、今後の生活に変化が出ることは言うまでもないだろう。
こういった事情があることから、男性側は責任から遠ざけられており、何らかの責任をもっととるべきだという言説がネット上では数多くある。
そんなところに、つい数週間前に一部で話題になっている本がある。それが「射精責任」というアメリカから販売された書籍なのだ。
書籍については、男性の精子が妊娠させやすい力を持っていることや、男性避妊のしやすさ、女性の人生への変化など。複数の男性が妊娠させてしまった際の責任などについて書かれている。
こういった書籍こそが、男性に対してもっと普及されるべきであり、女性に不幸がないように男性が管理し、望まない妊娠はすべて男性の責任であるということを啓蒙する内容となっている。
・・・のだが、はっきり言うがこんなものは前提を理解していない戯言である。何もわかっていないからありがたがっているのだろうが、この本はある一つの考え方を前提にしているからこそ出てきた話であり、日本で同じような前提で話ができる代物ではない。
3 射精責任には「産む権利」という土壌がある
射精責任ということがに関して、なぜアメリカでこんな本が出てきたのかと言えば、そもそも「産む権利」というワードがアメリカでは日本よりも明らかに強いからだ。
それを証拠にアメリカでは女性主体の避妊方法の数字が出てきやすい。
女性の産む権利があるからこその矛盾がこの本が生まれた背景ではあるのだが、以前別のnoteで書いた内容を今一度書き起こすとする。
(1)産む権利と自己決定権
そもそも、産む権利というのは自己決定権から発生したものであり、産むか産まないかは女性側が自ら判断を下すものである。
自己決定権の定義についても確認するが、「他者からの干渉を受けることなく自らの事について決定を下すことができる権利」である。
この定義を基に忠実に解釈をしていくときに問題が発生するのであるが、それは「男性の責任を問うことが難しくなる」ということだ。
女性のみで他人の意思の介在が及ばないと判断するのなら、男性がいくら個人の見解を主張しようが、出産などについての権限は何もない。
女性が翻意しない限りは男性と意見が食い違った際には何もできないだろう。
これらの前提があるうえで、なぜ男性は何ら決定権を有していないにもかかわらず、責任を負わせることが出来るのだろうか?という疑問が出てくる。
何の権利もないのに義務が発生はしない。なのになぜ他人がやったことで責任が発生するのか?
しかも、自己決定権を軸にしている理論であるがゆえに、ここで男性の責任を認めると産む権利の根幹から矛盾するのである。
(2)男性の責任追及が難しいための補完理論
産む権利というのはまさに男性が責任追及を逃れるための方法論として、逆に作用するという点がある。
そして、女性側にこそ避妊の主体性が偏っているからその補完をするために、「射精責任」という言葉が出ざるをえなかったのだろう。
妊娠させる能力は男性のほうが高いものであり、それを分かったうえで行為を行ったのだから、その認識がある故に責任も取れる能力があるだろうと。
男性の責任が軽視されている事情が生まれてしまったからこそ、アメリカで男性の責任論を再構築する必要があった。
4 日本は言うまでもなく男性偏重の責任論が強い
射精責任の前提について、アメリカにおける議論を前提にしたわけではあるが、結論から言えば日本にそんな前提は存在しない。
日本は男性に対して、妊娠・出産の責任が重い国であり、女性が主体的にっ避妊などをするという土壌ではないからだ。
避妊方法も男性が主体的なものばかりであり、なおかつ妊娠や出産の管理について主体的に取り組むべきものは男性が多いという傾向がかなり強い国である。
そもそも、「産む権利」などと言って女性が管理する慣習自体が乏しい。数字がそれを証明している。
こんな状況下の国において、射精責任なるものをそもそも求めること自体がよくて「余計なお世話」というレベルである。
男性が最初から責任を取る前提なのだから、はなっから周回遅れの議論であり、「私は日本の事情を分かっていません。」と自白しているようなものである。
他にもこちらのnoteにて、男性の責任論について書かれているものや、なぜピルの普及がしなかったのかという点が多くあるので、参照してもらえるといいだろう。ついでに言うと、ピルに関する普及についてもフェミに女性もそこまで望んでいなかったこともここに書かれている。
日本の環境であるがゆえに、産む権利について男性に対する責任追及の強さも相まって、日本ではピルそのものまでフェミニストから拒否された理由の一つだと言える。
早い話、男性に主体的に動いてもらうことを捨てないで、責任も取ってもらい続けようとしている環境があったからこそ、女性がいざ主体的に否認しようとする環境が整わなかった一因である。
そしてこれだけの数字があるにもかかわらず、男性がやってきたことを不可視化してきたのである。
5 そのうえで何を求めているのか?
射精責任なる土壌すら違う議論を持ってきては、何か新しい風ができたかのように話を進めているわけではあるが、こんなことをして何がしたいのだろうか?
まあ、結論については先ほど書いた通り
「男性は元々妊娠にも出産にも責任を負うべきものなのだから、出産後に女性が嬰児を遺棄・死傷させたことについても責任を取るのは当然である。」
と言いたいだけなのだ。
知ってか知らずか男性の責任論が強い我が国家にて、更に責任を強化しようというようなことは、ますます男性が責任を取らされることにしかならない。
下手すれば何らかの刑事罰でも求めてくるかもしれないが(まあ、そんなところまではいかないだろうが)、DNA検査だとか言い出す人も観測しているので、何か監視でも求めてくるかもしれないだろう。
とりあえず何か男性が責任を取れば大変満足はするはずである。
そして女性はかわいそうな被害者だからという風にして、とにかく減刑をしてほしいと願うのだろう。こんな感じで。
だが、彼女たちが望まなかったというが、そこに至る過程とて自分で選んでいくべきであるにもかからわず、断れなかっただとか相手に避妊をゆだねただとか主体性も何もないようなことで受け入れていただけであろう。
そういったことをしていればどうなるかくらいわかるだろうにもかかわらず(特に大人になればなるほど)、妊娠するかもしれないリスクを放置していたのだ。
それを何かにつけて仕方ないだの、責任を取るのはおかしいだの言われても少しは自分で何か主体的に動こうとしなかったのだろうか?
しかも、こんなことを言い出す人が同じ口で、自己責任論むき出しである産む権利(自己決定権)などを振り回しながら、やれピルだのやれ一人でも中絶できる権利だの言うのだから片腹痛いというしかない。
責任を取りたいのか取りたくないのかはっきりしろと言いたいくらい、言っていることがめちゃくちゃなことすらも自覚がないのだろう。
そのうえで、男性が責任を取る環境にいるからこそ、男性に何かを求めることは当然であるともはや無意識レベルで反応している。
冒頭で
といったことを書いているのは、日本では何となくそういうものだという流れがあるからこそ、かような反応をしているだけなのだ。
端から見ればめちゃくちゃなのだが、
「責任は男性、保護は女性」
といった考えがしっかりと意識したわけでもなく、どこか感覚的に理解している面があるからこそ、ここまで見た結果である。
まるで家父長制のようなものを前面に出しつつ、女性にはわがまま放題し放題というおまま事にすぎないのだが、本人たちはその自覚はないだろう。
6 というわけなのでやることはですね
ここまで書いてやることはですね。
とりあえず男が男が言う前に、一遍くらい女に「ちゃんとせい」というたらどうなんや?というべきでしょう。
うだうだ悩んでいないで、最初から本人たちに避妊をちゃんとしろというなり、もっとひどくなる前に福祉関連に来いというなり、もっと避妊にアクセスしやすいようにフェミはしっかりしろというなりできなかっただろうか?いや、できたはずなんだから、これくらいやってくれって言うべきでは?
そのうえで、こういった事件を他山の石にしたいなら、つなげるところにつなげとけと。そうしてから逃げた男だとかの責任を法的にでも取ってもらえ。ちゃんとした機関なら弁護士などにもつなげてくれるだろう。
そこまでつなぐのにそっちで勝手に探すのもいいが、本人達にもいくらかやってもらわないと救済なんてできるわけがなかろう。言わなきゃ見つからないかもしれないんだから。そして本人達がなんかやらかしたら、責任もちゃんと取らせろ。
本当に理不尽なのは生まれてからすぐ亡くなった子供なのだから。
※ 相談場所など。
全国のにんしんSOS相談窓口 | 一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク (zenninnet-sos.org)
未婚で妊娠。慰謝料・養育費を請求できるか?【弁護士が解説】 | 離婚の相談はデイライト法律事務所 (daylight-law.jp)
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