御堂筋事件がきっかけはデマか? 後篇 情報の源泉と広がった原因、懸念について


 前回、女性専用車両の作成に直接かかわった者、および論文や御堂筋事件に触れいているもの(2017年よりも前のもの)の大半に触れることになったが、御堂筋事件と女性専用車両制定と御堂筋事件との関係性を示すものですら、ごく一部を除きなかったこと、といったところを見たわけである。
 今回はその続きとして、他に調べられた点について紹介したい。早速だが記事を進めることとする。


1 間接的な影響はないのか?

 直接的なものとしては、資料が不存在、もしくはきっかけとして否定的な資料を見つけたわけではあるが、御堂筋事件との関係はどこから出てきたのだろうかということは考えなくてはならない。
 まったく無根拠であるというのであれば、そもそもこんな話出てくる余地はない。だが、実際には十年以上たってから存在を主張する者が現れたわけであり、その者も何らかの理由があって発言したと考えられるものだ。
 根拠を探るために、事件と女性専用車両との二つを結び付けているような主張をしているものを探るわけだが、ほんのわずかであるが主張していた勢力がある。それが、前篇でも少し触れた性暴力を許さない女の会という団体である。

(1) 性暴力を許さない女の会の主張に関して

 インターネット上にも残っている資料としては、以下のものがあげられる。

「地下鉄御堂筋事件」について
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/1418/00049258/kyozai_vol.6_p.41(A4).pdf

 情報源は、(人権学習シリーズvol.6『同じをこえて-差別と平等-』)というところが出典である。内容にはとしては、性暴力を許さない女の会が行った事件発生後の活動報告や、経過が中心に報告されている。事件後に関西の鉄道会社に要望をしたようだが、内容としては以下のとおりである。


「1.性暴力をなくすよう、車内広告やアナウンスなどで積極的なPR活動をする、 2.性暴力を誘発するようなポスターなどを掲示しない、3.駅員(できれば女性)を増員し、女性の性 暴力被害を防ぐと共に、被害があった場合は迅速な対応を行う

 とのことである。この時点で、女性専用車両の話は何ら出ていない。活動当初の鉄道会社の動きは鈍いようであり、見回り強化や自衛の強化というような回答が得られるだけという状況が続いたようである。

 その後、93年には他団体とともに「STOP痴漢アンケート」を実施し、鉄道会社に働きかけをしたようであるが、その後に具体的な活動をしたような形は示されていない。

 前回、紹介したように災害や大規模事件の影響から被害者対策をしていくことが重要視されてから、本格的に動きが見えるようになったというわけであり(1996年以降)、団体の活動がどこまで影響しているのかは、この時点ですらかなり大きいのか疑問を感じる内容となっている。
 その後、ポスターの掲示や女性専用車両の導入があったことは報告されているが、この団体がかかわったような記載はされていない。

 元々の記事を善意的に解釈したとしても、件の団体の活動は間接的に影響があったのだろうというレベルだろうが、どの程度影響があったのかはこの資料からではわからない。

(2)他にも、御堂筋事件について見受けられるものもあるが・・・。

 御堂筋事件で、資料がまだどこかに残っていないだろうか?と探ってみたわけではあるが、ごく少数ではあるが魚拓となるものを何とか発見できた。
 古い資料であるが、大阪市人権協会というところが記載したもののようだ。2005年ごろに魚拓がとられたもので、2003年くらいにはあったものらしい。

https://web.archive.org/web/20050210140728/http://www.ochra.or.jp/hp/hp15/05.html

 ここにも御堂筋事件について書かれているのであるが、不思議なことに似たような記載をここで見ることになる。

この事件をきっかけに地下鉄利用者等から結成された「性暴力を許さない女の会」らの努力もあり、痴漢防止を訴える車内広告やアナウンス等が鉄道各社で次第に導入され、今日の女性専用車両設置に発展していった。

 先ほどの資料も直接的な記述ではなく、あくまでせいぜい間接的に影響を受けたのではないだろうか?という記載ではあったが、この資料も同じような構成になっている。

 この文章はだれが書いたのだろうか?先ほどから書いている団体や記事を調べていると、どうも大阪というキーワードが出てくる。

人権学習シリーズvol.6『同じをこえて-差別と平等-』という冊子の発行をしているのは、大阪府人権協会、先ほどの魚拓大阪市人権協会と同じ大阪からである。性暴力を許さない女の会に関しても、大阪に本拠がある団体である。大阪という点において、奇妙なまでに一致している。

 その他の資料を見ていても、事件に触れているものが全くと言っていいほど見当たらないことを考えると、どうも両人権協会で書かれた内容から察するに、この会もしくは周辺で協力していた人が、女性専用車両との関連性を書いていただけなのではないか?
 
 そう考えると、前篇でそもそも関りが見つからなかったことと合致するのではある。直接の関りがないのにも関わらず、なぜ、女性専用の件についてこの団体(の周辺)のみが、関りがあるかのような主張しているのだろうか? 10年以上もたってなぜ言い出したのだろうか?


2 御堂筋事件でかかわった人たちのごく一部の人間が望んでいたのではないか?


(1)女性専用車両要望の新聞投書
 
 実は、先の疑問について大きな資料になるのではないかという魚拓が存在している。それが下記のものだ。
 
さようなら「恐怖の時間」 女性専用車
https://web.archive.org/web/20070604145651/http://www.asahi.com:80/kansai/sumai/ensen/OSK200705260001.html


 女性の社会進出とともに痴漢被害が深刻に。しかし「御堂筋線事件」後も鉄道会社の動きは鈍かった。
 奈良市の主婦酒井孝江さん(44)は91年1月、朝日新聞に投書した。通勤電車の中で、見ず知らずの女性同士が自然に集まって「自衛」する状況を紹介し、「痴漢対策としての女性専用車」の実現を訴えた。
 当時の鉄道会社の反応は「現状では無理」。

 この記事には、御堂筋事件があったことをもとに、一人の主婦が事件のあった少し後に朝日新聞の投書にて女性専用車両を要望するという話を記事にしたものである。記事の内容も、鉄道会社からの動きも痴漢全体の対策を含めて当時の動きは鈍いとの記述がほかの資料と一致している。

 ところで、この新聞記事の魚拓に酒井孝江という方が出てくる。記事を発見したときには、一般の主婦の方のようであり、おそらく調べても何もわからないだろうと思いつつ、何気なく調べてみると実は結構かかわりの深い人物ではないか? ということが判明した。

(2)酒井孝江という人物について

 酒井孝江という人物を検索してみると、奈良県議会議員をやっている人で同姓同名の人物が確認された。HPなどを確認すると、所属政党はなく、2017年に3期目とのこと。護憲派でフェミニズム関連にも明るく、奈良には30年以上住んでいるそうだ。

 この方の経歴を調べていくと、下記の細かい経歴が書かれているものを発見するに至った。

http://www1.kcn.ne.jp/~takae-sa/profile.html
予備


 生まれは大阪ではあるが、小学校のころに奈良に移り住んでおり、出身地も奈良県に長く住んでいることと一致している。1982年に短大を卒業したあたりからは、父の事務所を手伝ったり、テレビに出たり、占い師をやっているなどいろいろな経歴を持っているようだが、この時期の経歴の中に女性心理の関連を調べていくことによって、女性運動にのめりこむようになったことが書かれている。
 女性団体の会合にも多数出席しているとの記述があり、おおよそ、はやくて1980年代中盤もしくは1991年に大学に入りなおす前付近のように書かれているので、おそらく御堂筋事件の時期とほぼ一致するタイミングで活動をし始めていたと思われる。

 また、先の朝日新聞の記事の魚拓は2007年7月に最初にとられたものであり、記事そのものは2007年5月26日に掲載されたものである(wiki 日本の女性専用車両 より)。氏は1962年9月24日に生まれており、新聞記事の年齢はちょうど44歳。記事が書かれた時期と年齢も一致する。

 関西方面で、女性団体の活動に御堂筋事件があった時期に、フェミニズム運動をやっており、御堂筋事件をもとに専用車両の投書までしている。出身地、年齢、活動内容も一致しているのを見ると、この人でまず間違いないようだ。

 総合的に判断するに、彼女は女性団体の会合にて活動していた時に、痴漢がらみの件で活動していたものと考えられる。もちろん、彼女だけではなく、ほかにも何名か同様の意見を持っていた人がいたのではないか。


(3)なぜ、当時は忌避されたのか?

 彼女が関わっていた可能性はほぼ間違いないだろう。しかし、性暴力を許さない女の会は、この考えを取らなかった。性暴力を許さない女の会が出した資料が示しているものだけではなく、先の朝日新聞の記事にも下記のような記載がある。

  酒井さんは「当時は『ゆがんだ考え方だ』とたたかれた。少し遅かったけど、声なき女性たちの思いが実ったと思います」と話す。

 ゆがんだ考え方と出ているが、現在においてはさしたる疑問もなく正しい考えだと、お偉い学者さんですら思っているような状況であり、導入した時期のアンケートなどを見ても、1990年代当時は本当に歪んでいたのか?と思うくらいである。
 ただ、この時期というのは非常に重要なことが海外であったことを忘れてはならない。アパルトヘイトのことである。おおよそ1980年代から、アパルトヘイト撤廃の動きが出始めており、1989年にはフレデリック・ウィレム・デクラークにより、撤廃に向けての改革を進展させ、1990年にはネルソン・マンデラを釈放、1991年には国会開会演説でアパルトヘイト政策の廃止を宣言といったことが行われるほど、劇的に変化していっている時期である。
 完全に撤廃されるまでは1994年までかかるわけではあるが、人種などを分離するという考え方に非難されるような状況の中で、逆行するかのごとく性別を分けるという方法は、非難される可能性が非常に高かっただろう。
 そう考えると、当時の感覚としては、きっかけというよりはむしろ忌避されるものであったといえるのだ。

(4)主張しなかったことに未練があったのではないか?

 だが、事件が起こってから10年以上たって、専用車両ができてしまったのはご存じのとおりである。大半の人にとっては事件のことは忘れ去られた存在として残っているだけであり、関連性を考えることはなかった。
 にもかかわらず、細々とではあるが、何か関係があったりしたような記述を、ほぼ件の団体かその周辺のみで語っているのは、当時主張してこなかった事情を知っているがゆえに、何か未練でもあったのではないかと思われる。
 それがなんからの形で受け継がれ、山本(山口)紀子、および千田有紀といった者たちが10年以上もたってから出してきたというものではないだろうか?
(特に山本氏は、先に紹介した資料において、 >筆者はこの運動を展開した当事者の一人として と書かれていたのだが、酒井氏の記事の件も併せて考えるに、山本氏は当時主張はしたものの、蹴られた経験を根に持っているのではないか?という記述が見受けられる。)


(5)結局は、この事件は機運すら高めてはいない。

 ほぼ制定に関わってもいないごく少数の人を除き、多くの人々にとって特に意識もされていないものであり、作られた時には事件の名すら出てないものが、きっかけとして呼ぶにふさわしいものなのだろうか?さらに当時の事情を考えると、分離的な手段を用いるのはできないものではないかと考えたと思われる。

 忘れ去られた事件であり、事件を機に専用車両を作ることが難しい事情が存在していたことを考えると、きっかけや機運を高めたものと呼ぶにふさわしくない。
 いや、むしろ本当なら利用を否定したものととらえられるのである。

3 なぜ、資料もないものが広まってしまったのか?

 御堂筋事件と女性専用車両に関する資料らしい資料はほとんど残っておらず、私がなるべく多くを探った結果、御堂筋事件において、事件からかかわっている人のごく一部の人間が欲していたのだろうということ以外に判断することはかなわなかった。
 直接、間接問わず資料が不存在にもかかわらず、なぜここまで広まってしまったのか?ヒントとして社会心理学におけるデマの広がりやすいものの要件が参考になる。

要件としてまとめると

①重要な事項であること
②不安をあおるような内容であること
③あいまいなこと

である。

 震災時におけるデマといったものが典型だが、外国人の犯罪や動物園から動物が逃げ出したといったようなもの、放射能関連といったものなど、上記3つの事項に当てはまると思われる事例において、実際に多くのデマが流れたもの記憶に新しいだろう。

 本件についてこの3要件を簡単にあてはめてみるわけだが、事件自体が凄惨な内容であることや、性犯罪という側面を考えると①②は容易に満たすことができるだろう。③についても、しっかりとした情報が提供されてないのはすでに紹介したとおりである。

 デマが流れるような条件とぴったりと一致しているわけである。

 また、インターネットが発展している現代において、情報拡大もものすごいスピードでされる。情報が正しく分析されないままに広がってしまえば、真実かのごとく拡散されてしまいやすい。情報の是正があればいいのだが、そういったことを発信してくれる人がほとんどいなかったのも、広まってしまった原因だろう。
 本件のそういった事情があるからこそ、引き起こされたものといえるのではないか?といえる。

4 特定事件をきっかけにしたときのもう一つの問題点

 御堂筋事件という特定の事件を基に、女性専用車両のようなものができたとするにはもう一つ大きな問題点がある。アパルトヘイトの件を先に述べたことから何となく察しがつくだろうが、特定事件の発生によって隔離措置を設けるということそのものが、典型的な差別事例のきっかけだからだ。
 
 個別事例に関しては、あえて例にはあげない。過去のnote記事や国内・海外判例、特定の事件などを各自思い浮かべることとしてほしい。
 当然、特定の属性を隔離するという手段は(とくに犯罪目的や迷惑行為目的、差別目的を中心にする行為に関しては)、禁止されるべきであると考えるのが自然だろう。にもかかわらず、防犯目的や女性を守るためだからなどという理由を並べるだけ並べて、そういった論理の積み重ねを土台から壊してしまったわけである。

 これが日本の現実である。

5 まとめ

 御堂筋事件に関して全般的に検討をした結果、きっかけと呼べるようなレベルにほぼ達していないとするのが本件の結論である。

まとめると

① 女性専用車両について直接的にかかわった団体などからはそれらしい資料はない。
② 2017年以前の別資料を調べても、女性専用車両と御堂筋事件との関連性を書いてあるものすら乏しい。
③ 数少ないものでも、痴漢を許さない女性の会という団体が、間接的に影響があったような記載があるだけで、団体そのものがかかわった経緯や影響度は確認できず、更には団体もしくは団体の周辺にいた人の一部が、女性専用車両の導入に願望を持っていた程度で、当時は忌避していた可能性が極めて高い。

 関連性をしっかりと示すような論理的裏付けもなく、資料も碌にない故、あまりに弱すぎる根拠しか存在しない。きっかけになった、機運を高めたと呼ぼうと思ったとしても、まるで大海に塩を少し混ぜて、海の塩分濃度を濃くしたことに貢献をしたといわれるような違和感である。
 女性専用車両の設置を主張しただろうものが当時何人かいたとしても、その時には拒絶しただろうと見受けられる事情も考慮すれば、とてもじゃないがこの車両の設置を進めたとは言えないし、言ってはいけない。

 従来なら歯牙にもかからないだろうが、弁護士ドットコムなどのようなかなり信頼性のあるサイトにまでのってしまうなど、研究としてあるまじき状況が起こっていることに大きな懸念を表明する。
 また、従来の差別論やデマに対する注意喚起的な面でも、それに反するような状況を生み出してしまったことに関しても、同様に懸念を表明させていただきたい。

 くどいようだが、もし真実として客観的にきっかけと呼べるような資料があるのであれば、是非とも私のもとに資料を提示していただきたい。出来ないというのであれば、このような曖昧な情報を提供した教授らは辞職をするべきとまでは言わない。この件について一度でいいので訂正をしていただきたい。謝罪もできないならなしでいい。本件での私の願いは真実が明るみになること、間違いを正していただくことである。後は、記事を読んでいただいた皆様に、少しでもよいのでこの記事を拡散していただけないだろうか?

(12月12日追記)


 

 上記記事が弁護士ドットコムにて、性暴力を許さない女の会のメンバーの赤坂浩子氏と周藤由美子氏のインタビュー記事があったので追記として記述する。

 この記事において、痴漢の実態などを調査するためにアンケート調査を実施し、大阪鉄道警察や鉄道会社に報告したこと、ポスターの設置に関しての経緯が書かれている。

 女性専用車両の投書があったことについても記述があり、前述の酒井氏のインタビューと一致する点はあるが、この記事でも特にこの団体が専用車を推進したかのような記述は存在しない。また、

 105ページにわたるアンケート報告集の中には、鉄道会社からの返答もまとめられている。

 と書かれているが、酒井氏の記事でもでてきたように、鉄道会社の意見がこの返答の中に入っていたものだろうと考えられる。

 新規性のある情報が多いわけではないが、私が集めた資料の補強にはなるのでここに記事の内容を読んで検討できたものを記述する。

(2020年1月18日追記)

 小川たまか氏が、御堂筋事件との関連性を否定しているので、こちらに追加する。


また、番組内では1988年の「地下鉄御堂筋線事件」で気運が高まり、2000年以降の「女性専用車両導入につながった」と紹介されていました。
 「地下鉄御堂筋線事件」については以前記事を書いたことがありますが、この事件がきっかけで女性専用車両が導入されたとは聞いたことがありません。
 1988年の事件をきっかけに12年後の2000年の導入につながったというのは、いくら性被害の対応が遅い国といっても無理がありませんか。「気運が高まり」という表現は曖昧なので大まかな意味で言えば合っているのかもしれませんが、雑だなと感じました。

(2020年2月3日 追記)

牧野雅子氏の記事から更なる否定的意見を掲載、


ツイッター上で、女性専用車両は地下鉄御堂筋線事件が「きっかけ」で導入されたと言っている人が目に付く。わたしはこれに全く同意できない。「きっかけ」というからには、時間的接着性があるはずだ。(中略)

2018年に、地下鉄御堂筋線事件を機に発足した「性暴力を許さない女の会」の方たちにお話を伺った時のこと。女性専用車両は御堂筋線事件がきっかけだったと言っている人がいるんですよ、と言ったなら、一笑に付された。時期が違う、と。そりゃそうだ。事件から干支が一回り以上(古い言い方でごめんなさいよ)たってからの導入を、事件がきっかけだったというのはあまりにも杜撰だ。

 氏や件の会の中の人からも否定的な意見が出るくらいには、身に覚えのないことのようだ。


(2020年8月19日 追加)

 別の話題で論文を読み返していたら、ちょっとだけ件の会のことが乗っていた論文があったので、ここに乗せる。(論文の質としてはかなり悪いものであり、それなりに女性専用車両の問題に触れている人なら、突っ込みどころが多すぎるだろう。)しかし、中国の関係の話だから、関係ないだろうと思っていたが、これは盲点だった。

日本の「性暴力を許さない女の会」も、当初は「『女性専用車両』ではチカンの根絶にはならないし、女性に自衛を強いることにつながるのではないか」という理由で、「会の中でも反対意見の方が強かった」という。しかし、1993 年には、「私たちは多くの被害のケースに関わり、男性の性暴力の『体質』は当面変わらないこと、声を上げた女性に対するセカンド・インジュアリー(……)の構造が強固であることを実感し」たという理由から、「女性専用車両の実現」を主張するようになる(56)。ただし、その後も、「会として女性用車両の導入を直接鉄道会社に要求したことはない」という[居永ほか 2008:95]。

 何か矛盾じみたことが書いてあるのだが、やはり会の構成員の一部には、女性専用車両について意見があったらしい。こちらが今まで探ったことと一致しているし、痴漢を許さない女の会が意見を要求していないというのも、この部分でも間違っていないというわけである。

引用先は  (56)洋子「チカン排除キャンペーンで『女性専用車両』を実現しよう!」『ファイト・バック』14(1993 年)。

 とのことではあるが、ここではどこの誰がどれだけ主張したのか?と言うのが不明確である。だが、会自体が主張してないというのであれば、普通は主流派になり得なかったとするのが自然であろう。この論文があるからと言って、私の結論が変わるようなものではないが、貴重な資料ではある。

 後は、論文内容としてはかなり結論ありきで語られている面が大きいが(例としては、専用車両は保守的な勢力が導入をしているのが各国共通と言うが、日本では公明党のように党としては中道と言い、政策的には平和主義や福祉系の公約が多いなどリベラル的な面があれば、フェミニズム、リベラルの支持派も多く、逆に反対勢力は保守的であるという認識を持たれていることもあることを認知していない。また、男性差別という批判を時代遅れとしているが、なぜそう言われるのかの本質部分{分離主義、犯罪対策における隔離の違法性、任意性と強制的な側面など}に触れておらず、各国{と言っても極東アジアだが}の一部のフェミニズムの意見を都合良く取り入れているだけで、他の勢力の意見は参照せず、なおかつ時代遅れにしてしまってはまずい普遍的な面を指摘できていない。など)、そのおかげで、かえって自説に都合のいい話題をうまく集めてくれている分、逆にある程度の信用性があると言える。

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