2 再犯率・暗数といった二大神話の崩壊
再犯率・暗数に関しては性犯罪の厳罰化を正当化する最大レベル根拠というべきであろう。しかし、この二つはすでに過去にも批判した。
その批判を今一度呼び起こしつつ、改めて付け加えたことを含めて批判することとしよう。
2-1 再犯率神話の崩壊
(1)性犯罪における再犯率は、統計上有意な差があるとは言えない。
令和3年と比較的新しいものを出させてもらおう。これは令和2年度における検挙人員、起訴人員における再犯率なのであるが
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双方ともグラフの数字を見れば一目瞭然ではあるが、性犯罪である強制わいせつ及び強姦罪に関しての再犯率・有前科率については、他の犯罪と比べても突出したものはない。
双方の数字を見ていても、強盗や恐喝は明らかに検挙人員においては突出した再犯率の高さを見せている。また、起訴人員においては、窃盗、暴力行為処罰法、覚醒剤取締法、脅迫、恐喝とあり、売春防止法も有前科率が高いが、この年の数字では性犯罪だから再犯率・有前科率が高いというのは虚偽である。
また、過去の再犯率のデータを見ていても、性犯罪であるがゆえにどの性犯罪も突出して高いという証明はない。各年度を調べていてもその傾向はどこにも存在しないのである。
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同種再犯(性犯罪)を犯した者の比率は,性犯罪では前記のとおり5.1%であるのに対し,窃盗では28.9%,覚せい剤取締法違反では29.1%,傷害・暴行では21.1%,詐欺では11.0%(本節第1項参照)と,他の犯罪に比べて相当低い。
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(2)海外の傾向も同様の意見を示している
国内ではこういう風に判断されているものの、海外ではそうではないと言えないだろうか?という考えもあるだろう。
しかし、海外であっても国内の調査と同様の見解を示しているものが多い。一体どういうことなのか?と思うだろうが、見てもらったほうが早いだろう。
まず挙げられるのは、合計4万6千人の元受刑者を対象とした National Center on Institutions and Alternatives の大規模な調査だが、ここでは再犯率は12.95%となっている。報告書によれば、これは他の犯罪における再犯率と比べてむしろ低い方だという。
性犯罪者全体で見れば、再犯の確率はほかの犯罪より低いのだ。 これは支援や治療抜きでも低い。
・・・23の研究論文を分析した2012年の調査では、 性犯罪者8,000名以上のデータを集計した結果、 5年後の再犯率は4-12%、10年後では6-22%というものだった。
文献をいくつか参照させてもらってはいるものの、海外においても同様の傾向がみられるという報告が多数挙げられており、性犯罪だからこそ再犯率が高いという風に発見することができない。
(3)まだ抵抗する人たち
これだけ数字上で反証が示されているのではあるが、それでもまだまだ抵抗してくる人もいる。自分たちに都合のいい数字があるからこそ、それを都合よく使ってくる「チェリーピッキング」を当たり前のごとくやってくる。下記の情報もその一つだと言えるだろう。
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これを見ればわかるだろうが、痴漢及び盗撮犯というのは性犯罪だけではなく全体を見ても突出して高い。これを根拠に性犯罪は再犯率が高いというようにいって来る者たちもいる。
だが、これについては簡単に反論が可能であり、後にも述べるがそもそもその二つの犯罪は統計当時ですら刑が軽い犯罪だというだけである。
刑事罰が重いものよりも軽いもののほうが比較的に再犯率が高めの傾向が現れるものであり、これらの犯罪もその状況を反映しているに過ぎない。 と簡単に言えてしまうのである。
平成27年のデータにおいてその他の性犯罪の数値が平均よりも低いこともその後押ししており、これを持ってして性犯罪全体の再犯率が高いとするのはかなり無理があるだろう。
ちなみに、この点については相当ひどい偏向報道をかつて批判したので、ここにも紹介しておく。
ABEMAの性犯罪に関する報道が話にならない。|okoo20 (note.com)
(4)比較という名前のない「再犯率は他と比較して高い」という神話
再犯率の数値を見てもらったのではあるが、性犯罪と他の犯罪とを比較検証したという発言については、結論としてその比較を行っていないという点に大きな問題が浮上する。
しかも、「性犯罪は他の犯罪と比較して~~」といったような枕詞があるにもかかわらず、犯罪白書のような代物を見ていないと思われる意見が多い。
国内及び海外の調査においてはっきりと数字に表れているのだが、いったいどのようの数字を見ていたのか?
と疑問に思わなくてはならないわけではあるが、数字も出さないというのは日常茶飯事であるだけではなく、反論自体も避けられている傾向が強い。
また、○○は再犯率が高い。という議論において、性犯罪と同じように言われるのはせいぜい薬物関連ではないだろうか。
性犯罪と同様に再犯率が高いという話は、他の犯罪で語られることはほとんどない。
(5) 再犯率の高いことについて傾向は?
再犯率に関しての高低の傾向を見るに、薬物犯罪のような依存的なもので何度も利用してしまうようなものもあれば、強盗や恐喝のような窃盗などといった類似の犯罪から派生するようなものについてや、殺人といった重大犯罪と比べれば刑事罰が軽めのものなど(特に同一罪名有前科にはそういった傾向が強め)、といったものが再犯率に影響していると考えられる。
年度にもよるが、暴行や窃盗、傷害といった罪名も再犯率が高い傾向が確認されるが、性犯罪であるがゆえに突出して高いというべきではなく、別の観点から検討を重ねることが重要だろう。
これに対して、再犯の中でも類似再犯(例えば強制性交なら強制わいせつなどを犯した場合には、同一再犯に含まれないから先ほどの統計に出てこない。)と抵抗してくるものもいるだろう。
だが、それを行うのであれば他の犯罪についても何が類似の犯罪なのかをしっかりと定義し、比較・検証を加えないといけない。この点についても比較というワードが反証者に対して重くのしかかってくるだろう。
再犯率はもはや反証不可能のように思えてくるが、再犯率についてはもう一つの根拠で対抗しようとしてくる。
2-2 暗数神話と崩壊後も残る厄介さ
対抗が不可能に思えてくるような再犯率ではあるが、セットで反論する方法として暗数があげられる。
元々暗数自体も単独で性犯罪が裁かれにくいことや、実態が数字に表れにくいことを示すために用いられてきた。その応用として、再犯率にも暗数を適用すべきという意見に乗せてくることがある。
しかし、この点も過去にすでに指摘済みであるが、暗数も非常に使われ方が雑であり、なおかつ再犯率の議論と同じような問題点を抱えている。
(1)そもそも暗数は使い難い
そもそも論として、暗数そのものの性質が客観性を担保させられない故に、比較資料や統計として使いにくい点が大きな問題となっている。
暗数そのものが「どこまであるのかわからない」という大前提があるものだからこそ、客観的に実態を認知させるのが難しい。
暗数はしょせん推論でやっているものであるから、確実な数字を出すことができない。であるのなら、他人を説得させるだけの根拠としては使えないのではないか?ということを問題として常に抱えている。
無理に推測を並べても、今度は話者の主観がどうしても入り込んでしまうので、客観性を維持するのが難しい。違法性の判断やギリギリ違法になるかのどうかを考えるケース。どこまでは複数回の犯行であり、何処までが一回の犯行の枠内なのかなど。
素人ではとても考え難い項目もあり、とてもではないが正確性を担保することもままならない。
暗数というものは、いざ客観性を考えると非常に厄介なのである。
(2)暗数の落とし穴
また、暗数というものについてまだ落とし穴がある
先に暗数の定義を示した資料を上げさせてもらったのだが、実際に暗数とは何か?暗数には何が含まれるのか?ということを考えると、実は法務省が提示したものは不完全な代物である。
暗数には考えられるパターンがあるのだが
①被害などにあったが、それを申告しなかったケース。
②本人がそもそも被害などにあっていても、それを被害と認識していないケース。
③被害自体があったにもかかわらず、それを認識できていないケース。
といった上記3つのものが考えられるのだが、実際に語られるのは①だけを指しているケースが目立つ。
(3)暗数という定義の誤用か?
今一度、法務省があげた定義を見ることとするが
(1)警察等の公的機関に認知された犯罪件数を集計する方法と,(2)一般国民を対象としたアンケート調査等により,警察等に認知されていない犯罪の件数(暗数)を含め,どのような犯罪が,実際どのくらい発生しているかという実態を調べる方法(暗数調査)があります。
この説明文を見るとどうみても②③は入っていない。①ももちろん暗数の一部であるというのは言うまでもない。
しかし、暗数をしっかりと考えるのであれば②③も入れる必要があるのだが、おそらくはそこまで考えると数字としては示すことができないとわかっていたのだろう。
本当なら申告率と表現したほうが、実態には合致している。
しかし、法務省レベルでも暗数についてこのような出し方をしてしまっているので(どこまで意図しているかどうかはわからないが)、多くの人が抱く認識に誤解を与えているのではないか?と考えられる。
(4)もちろん、比較という概念が示されているわけがない
ここまで考えたうえで、暗数に関してもほかの犯罪と比べて暗数が多いものと判断してくるわけなのだが、ここでも比較というのが碌にされていない。
他の犯罪の暗数はどれくらい考えられるのか?いや、そもそも暗数自体が客観的に比較できないものなのだから、比較をすること自体が無理ではないか?
という当然の疑問もここにはなかなかでてこない。
だが、ある程度は仕方がないことなのだ。例えば知らない間に自分の敷地に他人が入ってきたからと言って、それを認識できないしそもそも処罰できる範囲かどうかというほどの違法性(微罪処分などを参照)があるかどうかも言い出せない。
盗みを働いたからと言って、すべて認識するには相当困難である。盗まれているけど気が付いていないものや、自分の勘違いだと思って放置している人の分はわからない。
薬物犯罪なら何度使ったかのなんて使用者ですら覚えていないだろう。使っている回数ごとにカウントするとなれば、もうどれだけ暗数がある犯罪かわからない。
逆に性犯罪は先の②③という風に考えるのは、盗撮や準強制性交ならいざ知らずその他のものではなかなか暗数を考えにくいだろう。
そう考えると暗数そのものを本気で考えることを躊躇するのもわからなくない。数値も見えなければ比較してみて低く見積もられるかもしれない。そう考えても無理もないし、より比較が難しくなるからここまで踏み込めない。
だが、そうだったとしてもそれを知ったうえで暗数は比較に適さないというべきではないだろうか?だがそうしないで
「性犯罪の暗数はとてもひどいものだ」
「申告しないから、暗数が多い」
という声は今でも普通に話に出してくるわけである。
2-3 双方とも根拠はない。だが・・・。
双方とも根本的な部分から検討、検証がされていないのであり、本来ならだれもが根拠として成り立ちようがないと判断する材料が至る所に発見できるにもかかわらず、いまだに間違った知識が世間一般に流布していることがこの問題を厄介にしている。
間違っているだけならいい。
だが、明らかに間違っている部分も気が付かないか知ったうえで話を進めるようなこともあれば、間違ったまま話が進むこともある。
しかも、碌な検証がされないまま更に事実であるかのように流布されることもあれば、修正しようにも修正することすらままならないことも多く出てくる。例えそれが既存のルールに反していたとしても、重大なルール違反だったとしてもかまわず浸食される。
一事が万事と言わんばかりなほど、二大根拠を見ただけでもでてくる誤りがほかのところでも見受けられるものであり、これから語られる具体的な制度や事実などについての基礎としても、間違い方まで同じように根付いている。
そして、その流れによって様々な事象が特別なことであることやより罰則や特別視することの再強化として利用され、負のスパイラルとして形成されるのでもはや止めようがなくなっていく。