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おくれカメラ05
去年、中古のフィルムカメラを購入した。
とくにこれといった趣味がないので、ひとつくらい何かないかと思っての事だった。
旅行の時にだけ「写ルンです」を買っていたので、この際カメラを買ってみようと、オモチャがわりに安いカメラを探し、何の知識もないまま、見た目と値段で選んだのが「YASHICA 」の「L AF DATE」というカメラだった。
最初は気合いを入れてNikonとかCONTAXを探していたのに、全く知らなかったメーカーの、このチャゲ&と付けたくなる響きも妙に気に入って、YASHICAを買った。
20代の時にも「LOMO SMENA 8M」通称“スメハチ”を買って持っていた。20代の自分が持ち歩きたいような、首からぶら下げたエビアンみたいに、アクセサリー気分で手にした、最初のカメラだった。
見た目もかわいいと購入したけれど、すぐにシャッターが切れなくなり、フィルム1本すら現像せぬまま、修理もせず、そのままオブジェにしてしまったのだった。
今回のYASHICAは、デザインも昭和な未来感があって、重いしデカいけど、何か、自分にはちょうどいいなと思った。
カメラが届いてすぐにビックカメラへ電池とフィルムを買いに行き、試しにどんなものかと、その場でシャッターをおしたが、様子が何だかおかしい。シャッターがおりない。黒いボディにまん丸な、赤くて「これぞボタン」と言わんばかりのシャッターがおりない。おかしい。店員さんと相談して原因をさぐるも、古いカメラで、もう修理の部品もないかも?と、1枚も写真を撮れないまま、故障品をつかまされたのでは?という話になった。
「だからカメラはちゃんとお店で買わないとね〜」「よくあるんですよ、オークションとかアレとかねえ〜」と店員さんが、YASHICAを黒い布に入れて、調べつつ不憫そうに言った。
え、こわい。またオブジェに。ヤシカ、ナシか。えー、、、
新しい電池とフィルムをいれたばかりのYASHICAをしぶしぶご臨終です、と、渡された気分で、諦めてとぼとぼと歩きながら、レンズ横のレンズカバーを開閉するスイッチを、ガチャガチャ上下させながらシャッターをおしたら
「カッシャーん!」と、YASHICAが突然目を覚ましたように、シャッターが切れた。
長い眠りから息を吹き返したような、オンギャーと叫ぶようなシャッター音だった。
うわ!っと驚き、嬉しくて、さっきまで付き合ってくれた、店員さんのところへ足早に戻って
「いけました!いけました、このレンズカバーが、壊れてて半開きになるみたいで、カバースイッチのところを手で押さえながら押せばシャッター切れました!」と、
うれしさあまって店員さんを、
ほら「パシャーん」「パシャーん」ね!
と、2枚も撮影してしまった。
お陰さまで、壊れかけのYASHICA、たまに悲鳴のような音をたてて、いきなりフィルムまだあるのに巻いたりするし、シャッター切れたり、きれなかったり、私の意思ではなく、YASHICAの気分が写真になっているような、不思議な出来栄えの写真が撮れて、じゃじゃ馬YASHICA、すっかり愛しちゃっている。
記念すべきYASHICA、甦りの1枚目。
カメラが古すぎて西暦では日付が設定できず「令和」で「04」の日付になりました。
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高校時代は写真部だった。
入学してすぐ、希望する部活を用紙に記入する際、第一希望に「写真部」と書いた。
備考欄に「HIROMIXみたいになりたい」ときらきらゆめゆめコメントを書いて提出。
第二、第三はそもそも入りたい部活はなかったので、書かなかったように思う。
若い教師から「写真部はないけど、過去にあったから、申請すれば部活として活動できる。このHIROMIX?は何だかよくわからんけど。」と、いう話が舞い込み、やったね!と周りの友人達も集まって、晴れて一年生女子の友達だけの写真部が誕生したのだった。
当時、我々と近い世代のHIROMIXが女の子フォトグラファーとして人気があり、ファッション誌や音楽誌のアーティストとの写真など、どれもこれもカッコよくて、お洒落で、私も分厚い写真集を持っていた。
女子達の写真部入部の動機は簡単、単に「写ルンです」を買うお金や現像代が、これで浮くぞという、輝かしいほど単純な野望が叶って、友達と万々歳だった。
過去にはあったらしい写真部には、きちんと部室、錆びた現像器具、手作りの暗室などがボロボロながら一式揃っていた。
数学のS先生が顧問になり、先生私物の一眼レフ達を生徒に貸出してくれた。当時は表情の少ないおじさんと思っていたけれど、案外、現在の私よりも若い先生だったのかもしれない。
最初はモノクロフィルムを、手巻きで作る作業からだった。生温い暗室に充満した鼻をツンと刺すような薬剤の匂いには驚いた。
手巻きでフィルム作り、暗室での地道な現像作業方法や一眼レフの使い方を、さわり程度にちゃっちゃと覚えて、もう撮りたい撮りたいと、一眼レフの使い方もしっかり学ばぬまま、
当時追っかけるようにライブに行っていた、
福岡のナンバーガールやパニックスマイルのライブを撮っては現像して、頑固な油汚れのような10代のアイデンティティを、ひとりせっせと磨いていた。
高校1年生の終わりあたりから、私は家庭での色々な事がきっかけとなり、思春期も満開で学生として腐りはじめていた。
学校をサボりがちになり、2年生の頃には、クラスでも学校に姿を見せないヤンキーよりも成績が下の、出席日数もギリギリの、けれどヤンキーでもない、気弱な地べたを這う幽霊のような存在になっていった。
入学時にキラキラとHIROMIXになりたいと入った写真部も、だんだん部室どころか、学校へ行かないので、こちらでも幽霊部員になった。
最初は面白がって現像していたけれど、手作りフィルム、気長で面倒な現像作業に一緒に入部したギャル達はだいたい飽きてしまい、2年生の頃には、授業が終われば一目散に黒崎の街へ行き、プリクラを撮ったりデートに忙しく、皆、いつの間にか暗い写真部の部室から足が遠のいて、自然消滅してしまっていた。
ある日、午後にいやいや登校して、写真部の部室へ寄り、ひとりで写真を現像していたら、
顧問のS先生がたまたま入ってきて、二人きりで雑談していた。
久々に会ったS先生は、私が学校に来ない事を叱ったり注意したりはせず、心配している口調で静かに、チダは数学テストが2点だけど、頭は悪くないよ。とか、たくさん撮った人物ばかりの私の写真を眺めて、これ面白い写真だねとか、何と返事すれば良いのか分からない、何故だか泣きそうになるような、そんな言葉をかけてくれた。こそばゆいようで、とても静かで、あの薄暗い写真部での、唯一の思い出。
担任から「おまえの将来を思っていーよんぞ!こんちくしょー!社会はもっと厳しんぞバカやろー!」と熱血に何度吠えられても、全く動かずに凍きっていた私の心が、S先生との会話で、みるみると氷が溶けていくように、とてもあたたかで安心できた事を覚えている。
3年生の文化祭の時、暇でふらふらしていたら、写真部の写真を展示している教室があった。
え、写真部の?全然知らなかった。
あまり交流のなかった同級生の部員たちが撮った風景写真や、体育祭の写真がたくさん。
どれもちゃんと雰囲気があって、ちゃんとしていて、作品だった。
何かの写真コンテストで賞をもらったらしい写真も、大きいサイズで飾られていた。
完全な幽霊部員だから、もちろんなのだけれど、写真部のこんな企画があっただなんて。
知らなかった。
HIROMIXごっこにすぐに飽きて部活へ行くのを辞めた、我々のグループとは違う別のグループの真面目な同級生の部員数名は、コツコツと3年間、写真部としてS先生と共に、ちゃんと活動していたのだった。
全く知らなかった。
結局、私はカメラの使い方も、写真とは、を全く学ばないまま、好き放題に記念撮影ばかりしているだけの部員、と呼ぶにもおこがましい、ただの写真部の幽霊だった。
文化祭で、ずらっと並ぶモノクロ写真の作品たちを眺めて、いつの間に取り残されたような、S先生と真面目な部員たちとの、別世界の写真部を見たような、真面目で素直な人たちへの嫉妬心でもあり、心から羨ましかった。
わあ、いいな、写真。私もちゃんとすればよかった、と思った。
時すでに、あ〜ああああ高校3年生。
もはや部員でもないまま、S先生の一眼レフだけはしっかり3年間借りて、幽霊部員から、ついにはカメラ泥棒になってしまった。
卒業式が近づいた頃、S先生はいつも通りに優しく心配したような口調で
「チダ、ちゃんと卒業できるみたいでよかったね。あと、先生のカメラ返してね。」
と、ちゃんと覚えていた(当たり前だ)。
卒業式の日に、S先生の所へ元気にカメラを返しに行き、ありがとうとさよならを伝えて、
学生も幽霊も泥棒も、その日に全部、卒業した。
それではお聴きください。
フリッパーズ・ギターで
『カメラ! カメラ! カメラ!』
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