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Netflix『阿修羅のごとく』感想
向田邦子という人の作品を読んだことはないのだけれどドキュメンタリー番組は見ていた。ご本人がドラマにそのまま出演してよいのではと思うほど美しい。そしてお洒落。
四姉妹は性格個性バラバラな魅力があったけれど全て向田邦子の中にいる女の人なのだろうなとも思った。そのくらい人ひとり、女という生き物は複雑でややこしくて怖いし愛しいなと思うが、自分は姉妹のどのタイプかを考えるとどれも私の中にはいない女(ひと)な気もした。
姉妹、母や父への想いは通ずるところも多く泣いた。よかった。贅沢な時間だった。
是枝監督の前作『怪物』について監督ご本人とライターと映画文筆家の女性二名との鼎談の記事を読み終えてから次回作めちゃくちゃ楽しみだなと思っていた。
記事の内容は主にLGBTQについてで、監督がかなり詰め寄られているようにも感じ、大監督があの場に出向いてちゃんと真摯に対話するのかと驚いた。
あの鼎談のことも忘れてしまった頃に『阿修羅のごとく』の宣伝を知り非常に胸躍らせた。俳優陣が素晴らしいし是枝監督だしやっほう!だった。
一話を見終わったくらいにあの鼎談を思い出す。今この令和のあの鼎談で話されたような意識や価値観が広まっていく中で、まるで真逆を行くような昭和のコテコテの男尊女卑や不倫や女とは男とはをコテコテにそのままを描いた作品を手がけたことに面白いなと思った。
源氏物語だって未だに世界中で読まれている。
阿修羅のごとくももはや古典なのかもしれない。だから今の若い人達やあらゆる価値を認めていこうとする中のひとつとしてこの古典のような価値観もあるのだと思った。
小さな頃は寅さんを当たり前に観ていたけれど大人になって、寅次郎のダメっぷり迷惑行為にドン引きする自分がいた。
これも価値観や思考の選択肢が増えた証だと思う。昭和の古き良き人情が令和では迷惑行為になりかねない、パワハラモラハラになりかねない。ドがつく程の昭和でもなく平成と令和の狭間に立つ身としては、この文化なくなってよかった〜な昭和な部分とやっぱりこの男女や人間をコテコテに描く作品の色っぽさたまりませんな!と思う気持ちはなくならない。
やっぱり面白い。そう思うと『不適切にも〜』もあえての昭和コテコテ時代設定が新しく面白がられたと思う。
あとは何と言っても四人姉妹の美しいこと。
広瀬すずの今までにない役柄も新鮮だった。私の中で永遠にいい女代表の『蒲田行進曲』小夏を連想させる。
その最高の色っぽい役を演じたご本人の
松坂慶子がおばあちゃんのような姿で母役とあり、美しい銀幕のスター達の春夏秋冬を眺めているようだった。
少女から女性にそして母へと瞬く間に女の一生は儚く、あの母の膝で眠る夢をみるあのシーンにはたまらなく、泣いた。映画や女優という人達の歴史や愛を感じた。
そして是枝監督作品、子役たちが皆ダイヤモンドのよう。こちらも隅々まで素晴らしかった。
あとは食事シーンの美味しそうなこと。すき焼き、揚げ餅、焼き餅、うなぎ、お寿司に、朝ごはん。日本の伝統的な美しいご馳走の数々。
黒電話、着物、食器、家具、カレンダー、ティッシュの箱ひとつ画面にうつる何もかもに与えられた大切なお役目を感じた。
女ってのは〜という視点になりがちだけど、今この令和の中でみる『阿修羅のごとく』は果たしてこれは女性だけがもつ内面なんでしょうか、とも思った。男だから女なんだしをも飛び超えてひとりひとりの中にある、隠された顔の話なんじゃなかろうかと思う気持ちが残った。
劇場版も好きだった作品。
こんなに長時間で好きな監督・脚本で観れたことがとても幸福だった。