タイ人と日本に行った時の話
先日、人生で初の「出張」に行った。接客業や事務の経験しかなく、今まで縁のなかった出張。しかも海外出張（日本）。
今も経理部なのだけど、グループ会社との会議に出席するために、これまた「人生で初めて海外へ行く」というタイ人部下とふたりでスワンナプーム空港を飛び立った。
「きれい！(清潔)」
が、はじめて訪れた日本の街並みを目にした部下の最初の言葉だった。
「ゴミが落ちてないよ。ゴミ袋も全然ない！」
たしかに街が整然としている。
道に穴ぼこもなければ、歩道が崩れてもいない。歩道の真ん中から電柱が突き出たりもしていない。
停まっている車や自転車もきちんと並んでいるし、ぴかぴかしている。
それでよく走ってるな？というような黒煙を上げて走る車輛もないし、屋台もない。バイタクもいない。往来を自由に闊歩する犬もいない。
「バイクがいないね。日本人は自転車が好きだから？」
バイクが少ないのはやっぱり危ないからかなぁ。
「タイ人は自転車乗らないもんね」
「そうだよ。暑くて死んじゃう」
タイも自転車は全く見ない訳ではないけど、バイクに比べたら圧倒的に少ない。
私もタイで自転車はもう乗りたいと思わないな。暑いから。
「車がかわいい！すごい好き！いいなぁ～なんでタイでは売ってないんだろう」
部下が羨望の眼差しを向けるのは、たくさん見かける軽自動車。
四角い形の軽自動車はたしかにかわいい。あれもかわいいこれも素敵、タイに持って帰りたいと冗談を言う。
「あの車はきっとタイじゃ事故でぺしゃんこになっちゃうよ」と私も冗談を言った。冗談でもないけども。
「ピックアップトラックがいない！」
タイ人だなぁとちょっとフフフとなった。日本で見かける軽自動車ぐらい、私たちの生活圏ではピックアップトラックが走っている。
〇ナバの物置みたいに荷台にたくさん人が乗っているのも日常の風景で、丈夫だし冠水にも強いし人気があるのも頷ける。
日本では絶滅したと聞くパジェロも走っている。全体的にゴツい車が多い。
私は「日本では法律で荷台に人を乗せて走るのが禁止されているから、ピックアップトラックはあまり便利な車じゃないんだよ」と適当なことを言った。
そもそもあんまり売ってないのか、と後から思い出した。
「家も素敵。いいなぁ～ああいう家」
視線の先にはいかにも日本というような瓦屋根の古風な家。私も改めて良いなぁと思った。自然に溶け込むような風情と情緒。縁側でお茶を飲みたくなる佇まい。
新幹線に乗りながらGoogle mapを眺め、「これだったら北タイまですぐ行ける！10時間も運転しなくていいよ！」などと言う。
在来線から見える海をスマホで撮ろうとするとホラ早く早く！今！という大声のタイ語が動画に入ってしまう。
それから、タクシーの後部座席で「どうして日本は老人がたくさん働いているの？定年は何歳なの？」と聞く部下は、慈悲深いタイ人の顔になっていた。
やっぱり気がつくんだなぁ。私なんて麻痺してあまり気にならくって、それがなんだか申し訳ない気がしてしまった。誰に対してかはわからないけど。
そうなんだよね、年金がほぼないタイの方が働く老人は少ない。不思議な光景なのだろうと思った。
「タイと全然違うね」
なんだかタイ人といると、余計にそう感じるなと思った。
違う国だなぁ、なんて当たり前のことを思う。
***
深夜便から始まった2泊4日の海外出張は日程がハード過ぎて死ぬほど疲れたけれど、タイ人と日本に行くのはなんだか新鮮で楽しかったな。
部下が日本人に間違えられ、私はひたすらタイ人に間違えられる旅でもあった。
特に帰路のタイ航空の客室乗務員全員が、周りには英語で話しかけるのに私に話しかける時はタイ語に切り替えるのが可笑しくて、タイ人部下もバカウケ。
そんなに日本人に見えないのか～と改めて思ったし、やっぱり可笑しかった。
スワンナプーム空港からバスに乗り、タイっぽい景色を眺めながら自宅近くのバス停まで。
車を預けていた駐車場のおっちゃんに「なんで急いで帰ってきたんだよ～」と冗談を言われて、「タイに帰ってきたなー！」と思った。
かしこまらない接客、やっぱ好きだな、私。
違う国だねぇ。
おわり。
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