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こんな時に限ってさっきコンビニでパックの卵買ったわ

「また事故だ」
三車線の真ん中を走りながら、右側の中央分離帯に突っ込んだ形で停まっているトレーラーに少し視線を送る。
傍らのレスキュー車が赤と青のランプを回していた。
 
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タイは本当に事故が多い。まずスピードを出す人が多いし、ちゃんと見てない感じの車線変更や右左折、脇道からの突進、バイクも多くこちらも人によっては冷や冷やする運転やすり抜けをする。
車線が交わるところでは、絶対に譲らないぞ!と絶対に行くぞ!が交差する。
歩行者は優先ではないし、ぐいぐい行った人(車)が優先だ。親切心を出して道を譲ると後続車が「今だー!!」みたいに突っ込んでくるので自分がしばらく動けなくなる。あの日本の、「暗黙の了解で一台ずつ交互に進む」みたいなの本当にすごいなって思う。ノーベル平和賞ものではないでしょうか。
右左折やUターンレーンが混んでいると隣を抜けて一番前に割り込む人もいて、一車線のはずが二台三台並んだりする。Uターンの視界を塞がれる。「お前という奴は」と言いたくなる。

スピードを出す車が多いとは言っても屋台がくっついたバイクやトラクターみたいな遅い車輛もいるし、たまにどしたん?車壊れたん?てぐらい遅い車もいる。
一車線だと80km出していても煽られるぐらいなので追い越しも多い。私もさすがに遅い車の後ろはイヤなのでできそうなら追い越す。追い越さないと自分の後ろに渋滞ができるというプレッシャーもある。
追い越しをする車を追い越す車とか、追い越しをかけている最中に対向車線の車も追い越しをかけてチキンレースみたいになることもあったりして、運転しながら「なんでよ!」と独り言を言うことが増えた。
 
タイは、と主語を大きくしてしまったけどスピードに関しては渋滞の酷いバンコクは当てはまらない。
郊外でも渋滞する街中は別で、私のように田舎の信号のない道をずっと走る場合。サーキットのような音を聞くこともあるし、とっつあんに追われてるルパンみたいな車線変更で爆走する車もたまに観測できる。
 
***
 
トレーラーの事故現場を通り過ぎると、油の臭いがした。
あの事故だろうな、ガソリンかな、なんか怖いな嫌だなと思いながら、左折のために左レーンに車線変更をする。前方には車はいない。左の脇道に見える車が出てこないことを確認して進むと、突然今まで開けていた視界にくるくると回りながら右から左へ流れて来るピックアップトラックが飛び込んできた。

フィギュアスケートのように右に左にくるくる回りながら道を横断してくるピックアップトラックなど見たことがないせいで、一瞬脳がフリーズする。えっ何?なんなの?そんなことある?

私の目の前を塞ぐ形でピックアップが流れて来る。ぶつかりたくないけど逃げ場がない。
ブレーキを踏みながら路肩に寄ったけどピックアップトラックも寄ってくる。
心なしかブレーキの利きが悪かったけど気のせいかもしれない。とにかくぶつかりたくないと左にハンドルを切り、ガードレールに突っ込んだ。
ピックアップトラックは道路に対して横向きに停まっていた。
衝撃と同時にエアバッグが飛び出し、ピーピーと嫌な音を立てて車は停まり、助手席の前から煙が出てすごく臭かった。「まじかー」と天を仰ぐことしかできなかった。
飛び出したエアバッグにぶつからないぐらいにはスピードは出ていなかったし、車がぐしゃっといってくれたおかげで衝撃が少なかったのか体も痛くなくて、でも恐らくエアバッグが飛び出た時にハンドルの破片が飛んできたらしく右のまぶたが痛かった。運転用の眼鏡が飛んでいったことには気づいていなかった。

ギギギと無理やりドアを開けて外に出るとピックアップトラックを運転していたおばちゃんが先に車から降りていて、大丈夫かどこか痛くないかと声をかけられた。
彼女もぶつかってしまったと思ったらしいけどピックアップトラックは無傷で、そういえばぶつかっていないのかなとぼんやり思った。ショックで記憶が曖昧だったけど、衝撃はたしか一回だったしバンパーがガードレール前に落ちていて、フロント部分が絶望的なほど潰れていた。
いつも「また事故だ」と横目で通りすぎるような現場に当事者として自分が立っている現実がかなしかった。

そこからがタイらしいというか、通りかかった一般の人が代わる代わる現われて交通整備をしてくれたり「写真を撮ってから路肩に車を寄せろ」と指示してくれたり、保険屋さんに電話で場所を説明してくれたりしてくれた。車やバイクを停めてどうしたんだと聞いてくる知らん人におばちゃんが何度も事故の経緯を説明していた。おばちゃんはスリップして一番右の車線から左の車線まで流れてきたらしい。
無傷のピックアップトラックはするっと移動できたけど、戦闘でボロボロになったトランスフォーマーのような私の車はエンジンをかけたらとんでもない音と煙を出したので、動かせと言った人たちが慌ててエンジンを切れと言い、みんなで協力して手で押して路肩に収まるように移動してくれた。
ピックアップトラックは無傷だし、私の車は潰れていたけどぶつかったガードレールは「目を凝らすとうっすらこすったような痕がある」程度だったので、みんなが「どこにぶつかってこうなんたんだ」と不思議そうにしていた。ガードレール、めちゃくちゃ頑丈。

しばらく待つと保険屋さんが来て、ピックアップトラックとはぶつかっていないので自損事故だと告げられた。私の過失なの!?と聞いたら「スピード出してたんじゃとか車間距離が十分じゃなかったんじゃって言われる」と言われ、「車間距離もなにも前じゃなくて横から回りながら出て来たんだけど!?」と言ったらハハハと笑っていた。
おばちゃんは何度もごめんねと言っていたけど、他の事故が原因の油で滑ってしまったおばちゃんを責める気にもなれず、また責めたところで結果が覆るとも思えなかった。タイで培った「マイペンライ」が口から出た。
おばちゃんとおばちゃんの保険屋は状況確認だけして帰って行った。おばちゃんは滑っただけでどこにもぶつかっていないので。
 
すっかり暗くなった路肩で小雨に振られながら、書類を書いてくれている保険屋の人に「台車は借りれるんだよね?」と聞いたら「ないよ」と言われた。「相手の過失だったら(向こうの保険で全部できるし)あるけど、自損事故だからない」。
修理は自分の保険。台車はない。レンタカーを自腹で借りるしかない。
すごいわ。踏んだり蹴ったりとはこのことだわと思った。
修理は三菱ですると言うので、バンコクで車を購入した時の担当者にも泣きついてみたけど同じことを言われた。
 
不幸中の幸いはどこも怪我をしなかったこと。
保険屋さんに「まぶたが痛いなら病院に行くか?」と聞かれ早く帰りたくて断ったけど、翌日には痛みも引いていて、事故から三日後にはうっすらかさぶたになって剥がれ落ちた。
事故の翌日にGrabバイクで三菱の修理場に行き、なんとか台車を借りられませんかとまたダメ元で聞いてみたけどやっぱり台車サービスはないと言われた。
修理にどのくらいかかるか聞いたら「いやーだいぶ壊れてるし、何ヵ月もかかるよ」と。
申請して許可が出てからパーツを取り寄せて修理すると説明されたけど、修理場の外の空き地にもなかなかの台数の車が置かれていて、時間がかかるんだろうなとは着いた時点でうっすらと理解はしていた。
帰りに犬に吠えられてしばらく後をつけられて、もう嫌だと泣きそうになったけど、無事にテリトリーを抜けてレンタカー屋に向かった。

後日、部下が私の車のナンバーで宝くじを買っていた。

***

6月25日に起きた事故から一ヵ月。
三菱の担当者にLINEで進捗を聞いたら、「(7月) 5日に保険会社から承認が降りて、今パーツを待っているところ。パーツが全部揃ったら修理をするのでまた連絡するカップ」と言われた。
つまりまだ何もしてない…!!

そして事故から2ヵ月。
「修理できるようになったらまた連絡する」と言った担当者からはもちろん何の音沙汰もないのでまた問い合わせると、「今色を塗っています」とのことだった。
タイランドでは「連絡する」「折り返す」を信じてはいけない。
いつぐらいに終わるか聞いたら「塗装が終わったら組み立てて磨くから、たぶん今月中には終わらないカップ」と相変わらず曖昧な返事。
ほんと全力で責任回避するよね。
会社でこの話をしたら、「本当に塗装してるか見にいかないとダメだよ!」「行って早くしろって怒鳴らないとやらないよ」「マイコさんには怒鳴るの無理だよ~笑 何言われてもハイハイ言うよ笑」と言われて笑った。笑い事かな?

そんなこんなで、昨日修理場へ行ってきました。ぐしゃぐしゃだった車は車の形を成しており、もうすぐ終わりそうに見えたけれど、あとどれぐらいか聞いたら「来週連絡する」と二回言われた。絶対に言質は取らせないぞという強い意志を感じた。
という訳でレンタカー生活はまだ少し続きそう。
強く生きようと思います。

【教訓】
気をつけて運転していても向かって来られたらアウトだけど、でも本当に事故には気をつけましょうね!!運転しない皆さんも!!安全第一!ヨシ!

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おこめ
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