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Bunkamuraザ・ミュージアム「マリー・ローランサンとモード」感想

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「マリー・ローランサンとモード」を観てきました。マリー・ローランサンは以前から好きで、ホテルニューオータニにあった「マリー・ローランサン美術館」(現在は閉館)も何度が訪問しました。ガーリーさとエレガントさの調和にときめきます。

ふたつの世界大戦に挟まれた1920年代のパリ。それは様々な才能がジャンルを超えて交錯し、類まれな果実を生み出した、奇跡のような空間でした。とりわけ女性たちの活躍には、目を見張るものがありましたが、ともに1883年に生まれたマリー・ローランサンとココ・シャネルの二人は、大戦後の自由な時代を生きる女性たちの代表ともいえる存在でした。

女性的な美をひたすら追求したローランサンと、男性服の素材やスポーツウェアを女性服に取り入れたシャネル。本展では美術とファッションの境界を交差するように生きた二人の活躍を軸に、ポール・ポワレ、ジャン・コクトー、マン・レイ、そして美しいバイアスカットを駆使したマドレーヌ・ヴィオネなど、時代を彩った人々との関係にも触れながら、モダンとクラシックが絶妙に融合する両大戦間パリの芸術界を俯瞰します。

時代とともにありながら、時代を超えた存在となったローランサンとシャネル。二人の創作の今日的な意味とその真価が、生誕140年を記念するこの展覧会で明らかになるでしょう。

本展では、オランジュリー美術館やマリー・ローランサン美術館※など国内外のコレクションから、約90点のラインナップでご紹介します。

展覧会公式ホームページより

【概要】  
  会期:2023年2月14日(火)~4月9日(日)
開場時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
     ※毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
  料金:一般1,900円、大学・高校生10,00円、中学・小学生700円
   ※障がい者手帳のご提示で、ご本人様とお付き添いの方1名様は半額
   ※未就学児は入館無料。

展覧会公式ホームページより

【訪問状況】    
   日時:日曜日午後
 滞在時間:13:30~14:30
      ※もうちょっとボリュームがあってもよかった気もします。
 混雑状況:思ったより空いてました。
      ただ会期末に向けて混むかもしれません。
感染症対策:入口で検温、手指の消毒
 写真撮影:一部の作品のみ可 ※3/26(日)まで撮影可能エリア拡大中

展示構成は下記の通りでした。

Ⅰ.レザネ・フォルのパリ
 ローランサンとパリ社交界の女性たち
 エティエンヌ・ド・ボーモン伯爵の舞踏会
 シャネルを身にまとう社交界の女性たち
Ⅱ.越境するアート
 ローランサンとバレエ・リュス「牝鹿」
 シャネルとバレエ・リュス「青列車」
 ローランサンと装飾美術
 ローランサンとニコル・グルー
 アール・デコ博1925
Ⅲ.モダンガールの登場
 1910年代:ポワレからシャネル
 シャネルの帽子店
 ローランサンと帽子の女たち
 1920年代:モダンガールの登場
 1930年代:フェミニンへの回帰
 1930年代
エピローグ:蘇るモード

出品作品リストより

今回の展示はローランサンの個人史に沿って作品を紹介するのではなく、1920年代パリの社交界、ファッション、舞台芸術、装飾美術といった切り口からローランサンの作品をまとめるという内容でした。女性の活躍が目覚ましかった時代の空気を反映してかローランサン作品のエッジの立った面が際立っており、また新鮮な魅力を味わえました。

ローランサンにはキュビズムに影響を受けていた時代、第一次世界大戦中の亡命時代、パリに戻ってから時代の寵児になった時期などそれなりに作風の変遷があったのですが、テーマ別に作品を見ると好きなモチーフであったり一貫して女性たちの物語を描こうとしていたことが感じられました。一方でローランサンの作品には「孤独に対する恐れ」のようなものがあるように思うのですが、初期はグレーで塗りこめていた孤独が次第に色彩で包まれるようになったように感じられ、作風の変遷もたどることができました。個別の作品では特に下記が印象に残りました。

◆マリー・ローランサン「エティエンヌ・ド・ボーモン伯爵夫人の空想的肖像画」1928年 マリー・ローランサン美術館
◆マリー・ローランサン「マドモアゼル・シャネルの肖像」1923年 オランジュリー美術館
「エティエンヌ・ド・ボーモン伯爵夫人の空想的肖像画」は仮装舞踏会を好んでいたボーモン伯爵夫人の無邪気さを子供の姿で表現したという、思い切ったアイデアが光る作品でした。写真が既に存在した時代に肖像画を注文するとはどういうことだったのだろうと思っていたのですが、この絵を見て画家の想像力や依頼主に対する思入れが望まれていたのかなと感じました。あるいは写真という新しいものよりも、伝統的な肖像画の方が発注主の箔が付くという面もあったのかもしれません。一方で「マドモアゼル・シャネルの肖像」はモデルであるシャネルから似ていないと受け取り拒否されたことで有名な作品で、画家の個性が裏目に出る場合があったのも面白いところでした。

マリー・ローランサン「マドモアゼル・シャネルの肖像」1923年 オランジュリー美術館

◆マリー・ローランサン「舞踊」1919年 マリー・ローランサン美術館
踊り子、伴奏者と踊りを連想させるモチーフはもとより、人物4人が等間隔に配置されていること、衣装や肩掛けの円環、青とピンクの反復などが動きとリズム感を生んでおり、見どころの多い作品でした。一見ふんわりしているようで、ローランサンの構成力の確かさが伝わる作品だと思いました。

◆マリー・ローランサン「鳩と女たち(マリー・ローランサンとニコル・グルー)」1919年 ポンピドゥー・センター所蔵、パリ装飾美術館に寄託
ローランサン自身と彼女と友人以上の関係だったと言われるニコル・グルーを描いているのですが、グレーに沈んだローランサンの険しい表情にインパクトがありました。ローランサンの自画像は沈鬱なものが多いように思うのですが、華やかな活躍の裏での葛藤、孤独が感じられます。このあたりの内省的な要素もローランサン作品の魅力だと思いました。

◆マリー・ローランサン「白い羽根飾りの黒帽子をかぶった乙女」1915年 マリー・ローランサン美術館
ファッショナブルなローランサンの作品の中でもとりわけお洒落な一作でした。ただ派手というよりはむしろ儚げで、このあたりが日本人に人気がある秘訣かなとも感じました。

マリー・ローランサン「白い羽根飾りの黒帽子をかぶった乙女」1915年
マリー・ローランサン美術館

◆マリー・ローランサン「シャルリー・デルマス夫人」1938年 マリー・ローランサン美術館
1930年代以降ローランサンは赤、黄色を作品に取り入れ、より女性らしさを全面的に出した作品を制作していたようです。この頃になるとローランサンの人気もひと段落していたようなのですが、却って世間の需要でなく個人の芸術性を追求して制作に邁進できるようになったのかなと思いました。

マリー・ローランサン「シャルリー・デルマス夫人」1938年 マリー・ローランサン美術館

ローランサンの作品以外にもココ・シャネル、ポール・ポワレといった同時代に活躍したデザイナーの衣装や関連した作品も展示されていました。

◆ジョルジュ・ルパップ「ポール・ポワレの夏のドレス『ガゼット・デュ・ボン・トン』誌第5号(1913年3月)掲載」1913年 島根県立石見美術館
ポール・ポワレがデザインした衣装を基にしたイラストで、現代で言えばファッション誌の写真にあたるものでしょうか。イラストとしてとても魅力があったのですが、アール・デコ様式の幾何学的な装飾性、またポール・ポワレのデザインが持つオリエンタリズムがイラストとも相性が良かったのかなと感じました。イラストに物語性を取り入れるのも上手いと思います。

◆セム、あるいはジョルジュ・グルサ「マドモアゼル・ココ、日曜日のための可愛い帽子が欲しいのだけど」1914年 桜アンティキテ
実際の制作意図は不明なのですが、かなり誇張されたシャネルの表情に当時の風当たりの強さのようなものを感じてしまいました。いつの世も挑戦する人は大変だと思わされました。

◆カール・ラガーフェルド、シャネル「《ピンクとグレーの刺繍が施されたロング・ドレス》2011年春夏 オートクチュールコレクションより」2011年 パリ、パトリモアンヌ・シャネル
シャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルドがローランサンの色彩を意識してデザインしたドレスとのことで、まさにガーリーさとエレガントさが調和した作品だと思います。流行は繰り返すと言いますが、単に消費者の嗜好のサイクルによる現象ではなく、クリエイターの先人へのリスペクトも根底にあるのかなと感じる締め括りでした。

カール・ラガーフェルド、シャネル「《ピンクとグレーの刺繍が施されたロング・ドレス》2011年春夏 オートクチュールコレクションより」2011年 パリ、パトリモアンヌ・シャネル

1920年代パリの熱気を感じるとともに、個性の追求が一過性のものではなく文化になっていくことも感じられる展示でした。会期まだありますので、気になる方は是非!

なおローランサンは今年生誕140年にあたるということで、年末にはアーティゾン美術館でも回顧展が予定されているようです。こちらも楽しみです!


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