story 高収入
初めてワンパンで気絶してしまった。
陽が昇り明るくなってきてなんとか運転して帰り自宅に到着。 今まで何度も喧嘩をしたが間違いなく過去1番の相手だ。不思議と仕返しをする気にもならずあっさり負けを認めてる。というかこんだけ圧倒的な差を見せられて勝てる気もしない。笑 そんな事を考えて気づいたらそのまま眠っていた。 どれくらい眠ったんだろうか。。目が覚めると夜9時になっていた。とりあえず沼尻に昨日の詩音との出来事と帰り道の話をした。 どうやら俺が負けた相手は俺よりも1つ年下らしい。年下にタイマンで負けたのなんてほんとに初めて。今まで隣町の暴走族の総長と地元の尾島先輩だけはタイマンで負けたが、また一つ黒星を増やしてしまった。。そいや、単車乗ってたもんな。少し恥ずかしい。 詳しく話を聞いていくとヤクザの息子らしい。 また出会って絡まれたらもちろん喧嘩は買うけど自分から探す事は辞めておこう。
部屋を出て下に飲み物を飲みに行くと母親からまた小言を言われる。「なんて生活してんの!早く仕事見つけなさい」最近は決まり文句の様にこれを言われる。「うるせぇな!」と一言だけ返して車のエンジンをかけてとりあえず家を出た。最近は極力家にもいたくない気持ちだ。 家から5分のセブンイレブンに車を止めて地元のリョウに連絡をして合流した。 赤の作業着を着て車に乗り込んでくるなり「お前仕事してなくて暇じゃね?たまには現場手伝いこいよ」なんて言われたので「気が向いた時だけ行くわ」と返事した。コンビニの駐車場でカップラーメンを食いながら他愛もない話をして深夜になってから地元をマジェスタでパトロール。 「なんか最近コンビニとか駅に溜まってるやつあんまいなくてつまんねーな」なんて会話してる。地元で知らない奴らが溜まってればすぐにぶっ飛ばしてきたもんだからだろう。この日も3時頃解散して家に帰る。 ベッドに横になり携帯をポチポチ見てると大宮の岩上さんからメールが来てる。開くと何件か仕事の依頼があったのでそのうち一件だけを返信して眠りについた。 ピリリリッ。ピリリリッ。また携帯の着信で目が覚める。岩上さんだ。時間を確認すると昼2時だ。また寝過ぎた。。 すぐに折り返しの電話をかけた。 「お疲れ様です。中島です。」 「お、中島くん寝てた?昨日のメールの件だけど今日夜8時に浦和のパルコ前。時間厳守。荷物受け取ったら指定した公園のベンチに置いて完了したら俺に電話して。おっけー?」 「わかりました。8時に浦和パルコ前行きます。」「あ、あと中身は絶対見ない事。これ約束。それじゃまた報告よろしく」 ブツッ。ツー。ツー。電話が切れた。業務連絡の電話みたいだ。怪しいのは分かるが少しワクワクソワソワした。 とりあえず夜の予定は決まったしもう一眠りすることに。
ピピピッ。ピピピッ。夕方6時今度はアラームで目が覚める。シャワーを浴びて着替えを済まし家を出た。車は邪魔になると考え電車で浦和まで向かう事にした。 30分前に浦和に到着した俺はタバコを吸いながら時間を潰す事にした。駅前は仕事帰りのサラリーマンで溢れかえってる。少しすると岩上さんから再び着信。 「お疲れ様です。中島です。浦和到着しました」「了解。そしたらパルコ前のロータリーに黒のハイエース止まるからその人から荷物受け取って。届け先はメールにあるから確認して」 「わかりました」と返事をして電話が切れる。公園の場所を確認すると駅から300メートル先の小さな公園だ。 なんだか突然緊張してきてとりあえずもう一本タバコに火をつけた。ハイエースが来たらすぐに受け取れる様にパルコ前で吸う事に。
吸い終える頃、黒のハイエースがロータリーに停車した。8時ぴったりだ。 周りの人に怪しまれない様、出来る限りの平然を装いハイエースの運転席に向かう。車の中には30代くらいの男が乗っている。 「中島くん?はい、これよろしくね」と窓から携帯ショップの手提袋を渡され直ぐに走り去っていった。 俺はそのまま目的地の公園に向かう。大丈夫。怪しまれてない。なるべくキョロキョロしないようとにかく平然を装い人気のない小さな公園に到着。トイレの前のベンチに荷物を置き任務完了。あんなとこに置いてほんとに取りに来るのか?と疑問もあったがそのまま少し遠回りをして駅に戻る。歩きながら岩上さんに報告の電話をした。 「お疲れ様です。中島です。今、荷物を置いて駅に戻ってます」 「ご苦労様。お金渡すからこないだのマンション寄れる?」 「わかりました。マンション向かいます」 とりあえず無事任務完了みたいだ。張り詰めた緊張感が少し解けた気がするが電車に乗って駅を離れるまでは油断できない。なるべくその場に留まることがない様に電車の時間を確認し空いた時間はタバコを吸ってジャストで電車に乗り浦和を後にした。 大宮駅に到着し今度はマンションに向かって10分くらい歩く。警察に付けられてる様子もないし大丈夫そう。マンションに到着して401号室のチャイムを押す。 ガチャッ。ドアを掴む手首まで伸びた入れ墨が見える。岩上さんだ。 「お疲れさんっ。なーに緊張した顔しちゃって」なんて軽く笑われた。 部屋に入ると「はい、これ報酬」と2万円を手渡された。え、こんなに?と驚きを隠せない。 「またよろしく〜。あ、そういえばこれ持っといてよ。次から仕事の連絡はこっちにするから」と携帯を一台受け取った。マンションを後にした俺はもう一度財布の中身を確認する。 たった10分程度の時間でほんとに2万円を受け取っていた。危なさを感じた反面スリルも感じ言葉には表せない感情。誰かに話したくて仕方ないけど他言無用。バレたらきっと逮捕だ。
帰りは一人で飲んで帰る事にして南銀座通りの一角にあるバーに入った。一人で飲みに来たのなんて初めてだ。なんか大人になった気分。 山崎ハイボールを注文。サッパリしててうまい。酒を飲みながらずっと頭の中は金の計算だ。今日と同じ仕事を1日2件受けるだけで日給4万。毎日やったら月収100万超える。今まで職人しかやった事なかった俺には想像も付かない金額。 そんなことを考えながら喋り相手がいないのはつまらなかったから1杯だけ飲んで店を後にした。
「おい、にーちゃん。態度でかいな」 駅に向かって歩く途中、酔っ払いのサラリーマンに絡まれる。面倒は御免だったので無視して歩いててもずっと付いてくる。黙ってるのを良い事にグチグチとずっと貶してくる。イライラしてきて人気の少ないマクドナルドと宝石店の間の細い道に入って行く。まだ付いてきて「無視すんなガキ〜」と肩を掴んできやがった。
その場でぶん殴った。「う〜。悪かった」と怯えた表情でサラリーマンは尻もちをつく。それでも俺はもう1発顔面に蹴りを入れて無言のままその場を立ち去り電車に乗って帰った。 チッ。靴が汚れてんじゃねーか。後味が悪いな。