B2B法人営業とは何か?3. 案件マネジメントにはセンスが求められるのか?
まずは標準的な営業プロセスを可視化することが必要
案件マネジメントにセンスが求められるか否かを結論付ける前に、順を追って思考を進めたいと思います。
まず「案件」とは、受注の可能性がある商談のことです。「案件マネジメント」とは、案件を無事受注にまで至らしめるための、あらゆる営業活動のことです。似た概念に「ナーチャリング」という言葉もありますが、時間軸とゴールが違いそうです。つまり、案件マネジメントのゴールは受注獲得ですが、ナーチャリングのゴールは、顧客との関係性を強化し、継続的に受注をもたらす顧客にまで「育成」することです。営業活動だけでなく、マーケティング活動もナーチャリング施策に含まれます。
ちなみに、何をもって「案件化した」と言うでしょうか?これについても自社で明確に定義しておく必要があります。そうでないと、営業マネジャーがチームの見込み数字を読むことが難しくなります。営業担当と解釈が食い違うということです。これについては別途、論じたいと思います。
さて、案件マネジメントのゴールが受注だとして、一足飛びに受注できるほど営業はラクではありません。短期決戦とは言え、それなりの時間と労力、すなわちコストがかかります。そこで営業の費用対効果を最大化する、つまり生産性を上げるためには、案件が受注に至るまでの、自社の標準的な営業プロセスを可視化することがその第一歩になります。なぜなら、標準的な営業プロセスを認識して始めて、プロセスの短期化や省略化が検討できるからです。
一般的な法人営業のプロセス
では、自社の営業プロセスを標準化する足掛かりとして、一般的な法人営業のプロセスを私なりに提示してみたいと思います。
フェーズ1:業界・顧客分析&課題仮説立案
フェーズ2:課題ヒアリング面談(仮説の検証と修正の面談)
フェーズ3:顧客からの信頼獲得、本音や内情の取得
フェーズ4:ソリューションの企画立案
フェーズ5:プレゼンテーション
フェーズ6:顧客への根回し、クロージング
フェーズ7:フォローアップ&新たな案件の発掘
案件マネジメントのゴールを受注に置いているので、元来、フェーズ7は不要なのですが、次の案件を発掘していくためには重要なフェーズとなり得るのであえて記載しました。一般論として、新規顧客の開拓と既存顧客の深耕では後者の方がコストが圧倒的に安いこともあり、その意味でもフェーズ7は重要です。なお、個人的な印象としては、営業ハイパフォーマーほど、フェーズ7を大切にしています。
また、フェーズ3はフェーズ2と同時進行で進むことも多いのですが、「顧客からの信頼獲得」という抽象概念を具体的な営業活動に落とし込みたく、あえて分けました。フェーズ1や2の精度の高さが、フェーズ3における顧客からの信頼獲得につながり、結果としてソリューション企画の重要なヒントとなる顧客の本音や内情が聞けたりします。
さらに、フェーズ4は業種や会社によっては営業職の仕事ではないかもしれないのですが、一連の営業プロセスの中で切っても切り離せないので、組み込みました。
ちなみに当社(おけまるの所属する研修会社)では、ソリューションの企画立案も営業職の仕事です。ただし、講師やその分野のエキスパート、マネジャーなど他者を巻き込むことが多いです。言うまでもなく、企画立案のクオリティや精度(顧客の課題を解決することに対する確からしさ)を高めるためには、前工程で獲得した情報の量と質が極めて重要になります。
フェーズ5のプレゼンテーションには、業界によってはプロダクトのデモンストレーションが含まれることもあるでしょう。また、その後のフェーズとして、デモ機の貸し出し(お試し)とその印象のお伺いなどが入ることもあるでしょう。
案件マネジメントの少なくとも一部には、センスが求められる
フェーズ6は正に『THE 法人営業』ですね。根回しの進め方は、顧客の決裁プロセスに応じて変わってくるので、標準化が難しい営業プロセスです。また、決裁権者や、決裁のカギを握る「インフルエンサー」を見極めるのも、高度なコミュニケーションスキルが求められます。営業ハイパフォーマーによっては、「秘伝のノウハウ」ということでブラックボックス化していたりします。
根回しの例としてよく語られるのが、一昔前なら顧客先の喫煙ルームに入り込んでリラックスしている重役を(偶然を装って)捕まえます。何気なく雑談しながら重役の警戒心が解けたタイミングで、「ところで例の案件ですが、他社と比べてウチはどのポジションにいますかねぇ?」なんて聞いたりしたものです。私も前の前の会社でルート営業やっていた時に使ったテクニックです。ちなみに、今も昔も私は煙草を喫いません。
他にも、秘書室の受付女性と良好な関係を築いておいて、いざという時に社長のスケジュールをさりげなく教えてもらったこともあります。廊下で社長を待ち伏せて、まさに「エレベーターピッチ」でクロージングをかけました。今ならコンプラに引っかかるでしょうが、25年ぐらい前の話なので時効とさせてください。
どうやって受付女性の信頼を得たか?その方が収集していたキャラクターマスコットのレアキャラをプレゼントしました。ガチャガチャに自腹で1000円ぐらい突っ込んでゲットしたものです。とても「しょうもない」話です。
このようにフェーズ6は、未だに、法人営業であっても、「人情の機微に触れる」ようなところもあり、汎用的なノウハウが体系化しづらい領域です。その意味で、本コラムのサブタイトルでもある問い「案件マネジメントにはセンスが求められるのか?」に答えるとすると、”Yes”です。少なくとも、このフェーズ6にはノウハウ化しづらいセンスが求められそうです。
そうだとすると、この辺りのエピソードは、社内で成功事例として情報共有していくのが良いでしょう。その中で、参考になりそうなエッセンスを抽出して、自身の営業活動に応用していくのだと思います。それがセンスを磨くことにつながるのではと、考えます。
とはいえ、フェーズ6においても、「決裁権者を特定する」「インフルエンサーを見極める」「決裁プロセスを把握する」「決裁の会議体のアジェンダを入手する」「会議資料の作成を代行する」など、いくつかの汎用的なノウハウを体系化する、つまり習得可能なスキルに分解することは可能です。
次回以降、営業スキルに包含される、商談(コミュニケーション)スキルについて、今回提示した営業プロセスに沿って解説していきたいと思います。