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講師への道 第4章 インストラクショナル・デザイン(ID)④ラーニング・エクスペリエンス・デザイン(LXD)とは

体験価値を重視する潮流

ここ数年、ビジネスの世界で『顧客体験』というキーワードが注目されています。背景には、消費者ニーズの多様化、プロダクトライフサイクルの短命化、インターネットの普及に伴う情報格差の消滅などがあります。
「モノからコトへのシフト」を合言葉に、各社とも製品サービスの「そのものの価値」ではなく、その利用を通じて顧客が得られる「体験やストーリー」を訴求する傾向が強まっています。

そしてこの流れは、エドテック(EdTech:教育とテクノロジーを組み合わせた造語)の進展、リモートシフトによるITリテラシーの底上げ、人生100年時代におけるキャリアの多様化と自律化とも相まって、人材育成の領域にも押し寄せています。
現代のトレーニングの在り方には、効果と効率はもちろのこと、「いかにして学習者に意味のある体験を積ませるか」という視点も求められています。

企業内研修が提供者視点から学習者視点へとシフトするに伴って、学習設計において考慮すべき変数は急増します。難度が高まった研修設計へのアプローチの一つが、ラーニング・エクスペリエンス・デザイン(LXD)です。
本稿では、クリスタル・カダキア&リサ・M・D・オウエンス著、中原孝子訳『ラーニングデザイン・ハンドブック 仕事の流れの中で学びを設計する』(日本能率協会マネジメントセンター、2022年9月)をベースに、実務家としての見解を加えながら、LXDについて解説していきます。

LXD:Learning eXperience Design とは

LXDを私なりに定義すると、「個々の学習者の体験価値に比重を置いて、複数の学習方法をブレンドした、比較的長期にわたる学習の設計思想であり技術」となります。LXD設計のステップを簡易的に示したものが以下です。

  1. 学習目標・ゴールの設定

  2. 学習者のペルソナの設定

  3. ラーニング・タッチポイントの考慮

  4. ラーニングジャーニーの設計

  5. KPIの設計とモニタリング

よく見ると怖い絵ですが、LXD設計のイメージ図ということで

「学習目標・ゴールの設定」は単発の研修でも当然に行われますが、LXDにおけるそれは、業務上のパフォーマンス向上によりフォーカスを当てています。中長期の学習だからこそ、最終的なパフォーマンス向上を視野に入れているのだと思います。単発の研修だと、最終的なパフォーマンスの、もっと手前にあるKPIにフォーカスを当てることが多いように思います。

「学習者のペルソナ設計」のねらいは、多様な価値観を持つ学習者それぞれに有意義な学習体験を積んでもらうためです。したがって、LXDにおけるペルソナ設計は複数(3~5種類程度)想定します。
考慮すべき項目としては、学習ニーズの違いはもとより、学習方法へのアクセシビリティや学習方法の選好(好き嫌い)も重要です。働きながらの期間学習だからですね。

3種類のラーニング・タッチポイントをブレンドする

「ラーニング・タッチポイント」とは学習接点のことで、大別すると3種類に分けられます。すなわち、①フォーマルラーニング、②ソーシャルラーニング、③即時的学習です。

フォーマルラーニングとは体系化・構造化された学習のことで、会社が提供する研修やe-ラーニングが該当します。始まりと終わりが明確にあります。
ソーシャルラーニングとは、他者との交流を通じた学習のことです。学習者同士の学び合い(ピアラーニング)やメンターへの相談、1on1でのコーチングなども該当します。
即時的学習とは、24時間365日いつでも単独で利用できる学習のことです。インターネット検索、データベースへのアクセス、動画コンテンツの視聴や関連書籍による調べ学習など、実務的な必要性に駆られてその場で行う学習が該当します。

これらのラーニング・タッチポイントは、先行して設定した学習者のペルソナに照らして複数用意します。そしてそれらのラーニング・タッチポイントをどのようにブレンドさせるか、その配合を考えるのが「ラーニングジャーニーの設計」となります。

3種類のラーニング・タッチポイントをどうブレンドするか

体験価値を最大化しつつも、学習目標・ゴール達成にこだわる

ブレンドにあたって考慮すべきことは、①3種類のタッチポイントを網羅すること、②学習者の感情曲線をポジティブに引き上げていくこと、③学習目標・ゴールの達成に段階的に近づくこと、でしょうか。

学習方法をブレンドする理由は、①飽きさせない、②忘れさせない、③お勉強で済ませない、ためと理解しています。長丁場の学習においては学習動機を低下させないことは結構重要です。学習の継続と習慣化がやがて学習者の意識に変化をもたらし、行動変容へとつながると考えるからです。

ところで、LXDが多様な価値観を持つ学習者の体験価値に重きを置くものであるならば極論、「与えた環境下でお好きなように学んでください」となってしまいます。しかしそれでは自己啓発の奨励であって、学習目標・ゴールの(効率的・効果的な)達成は、学習者次第となりかねません。
だからこそ、ラーニングジャーニーを意図をもって設計することが重要だと考えます。その意味では、LXDは本質的にはインストラクショナル・デザイン(ID)と変わらないと指摘される方もあり、私自身も「さもありなん」と思います。

「KPIの設計とモニタリング」については次回、詳述します!

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