講師への道 第1章 1対多数のデリバリースキル③デモンストレーション
コミュニケーションスキル研修では、デモンストレーションを示すことが有効
私は、営業パーソン向けの商談/交渉スキルや、マネジャー・リーダーあるいはOJTトレーナー向けの指導スキルなどをテーマとした研修に登壇することが多くあります。これらの研修ではコミュニケーションスキルがテーマになります。
コミュニケーションスキルには、傾聴、オープン/クローズド質問の使い分け、深堀り質問、コーチング、フィードバック、プレゼンテーション、ファシリテーション(プレゼンやファシリは「複合技」ですね)などがあります。これらのスキルは、説明を聞けば会得できるというものではありません。アタマで理屈はわかったとしても、体現できないのです。だからこそ反復練習の意義があります。
反復練習にあたっては、まずは講師がお手本を見せた方が、受講者の理解が早まったり、深まったりする場合があります。あるべき姿に照らすからこそ、自らの課題があぶり出されるからです。そういう時にはデモンストレーションを行うべきです。
「私、失敗しないので」
ですが、デモンストレーションは、講師にとってはプレッシャーです。失敗したら恥をかくし、最悪は受講者の信頼を損なうからです。恥はともかく、信頼を損なってはその後の研修運営に支障をきたします。「私、失敗しないので」が決め台詞の大門未知子がうらやましい限りです。
デモが美しく決まれば、受講者の尊敬と信頼をぐっと集めることも夢ではありません。では、どうすれば成功確率が上がるでしょうか?以下3点の実践をおすすめします。
与しやすい相手を選ぶ
得意な土俵で「型にはめる」
典型的な展開を複数想定しておく
1.与しやすい相手を選ぶ
コミュニケーションスキルのデモでは、相手との掛け合いを演じることが多いです。なので、「デモのお相手として誰を選ぶか?」が、極めて重要になります。受講者に立候補させるのは、避けた方が無難です。「こじらせてやろう」と、悪意を持った受講者がいないとも限らないからです。
安牌を取るなら身内からお相手を立てた方がいいのですが、ライブ感、臨場感、緊張感が薄まりますし、最悪は「小芝居」ととられかねません。勇気をもって受講者から選びましょう。ただし、人選を間違えないように。
人選の条件は、①研修に前向き、②素直、③表情が豊か、④目立ちたがり屋でない、⑤論理的に対話できる、といったところでしょうか。上記5条件を備えていそうな受講者を、研修冒頭から観察しながら、デモのお相手候補としてピックアップしておきましょう。クライアントの事務局がアテンドしているなら、事務局に人選を相談してみるのもよいでしょう。受講者をよく知る事務局であれば、適切な人選をしてくれるでしょう。
2.得意な土俵で「型にはめる」
1つのコミュニケーション研修で、何度も講師がデモを見せる必要はありません。冗長になりかねないし、嫌味な感じもします。なので、デモはここぞというときに1度決めれば十分です。
ならば、得意な領域でデモを行いましょう。不得意な領域でわざわざリスクをとる必要はありません。ここでいう「領域」とは、得意なスキル、扱いやすいテーマ、短時間で到達できる落としどころ(コミュニケーションのゴール設定)などのことを指しています。いくつか試し、反復練習を通じて、得意領域を確立しておきましょう。
そのうえで、自分なりの成功パターンを確立しておくとよいと思います。相手を「型にはめる」イメージです。こう来たらこう返し、次にこう来るだろうからその時はこう返す、といった「型」です。
相手が誰であろうと、おおむね当てはまる「型」を確立しておけば、デモに臨んでも落ち着いていられます。
以上述べた得意領域を私の場合で例示しますと、
ビジネスコーチング
日常業務上のライトな悩みや課題
論理的思考に基づく対話展開
となります。さらに論理的思考に基づく対話展開の「型」のイメージを示すと、現状把握→理想像の明確化→問題の定義→問題のMECE分解→重要な問題の特定→原因のMECE分解→真因の特定→課題設定→解決策のブレスト→優先順位付け、となります。お伝えできていますでしょうか。
3.典型的な展開を複数想定しておく
前項で述べた「型」にも通じますが、典型的な展開を複数想定しておけば安心です。想定外の展開が最も焦りますので、イマジネーションを豊かにして考えうる展開をあらかじめシミュレーションしておきましょう。
ただし、あくまで「典型的な」展開をいくつか想定しておけば十分です。前に述べたお相手の人選が間違えなければ、また「型にはめ」られれば、想定外の展開になることはまずありません。要するに不安をなくす程度に、展開を想定できていれば十分です。デモにおいては受講者に「焦りをみせない、悟られない」ことが重要です。その意味でも自然体で実践できるように、反復練習しておくことをおすすめします。
それでも失敗してしまったら…
笑って、「反面教師としてくださいー」と言えばいいのです。別に命を取られるような話ではありません。対話は水物なので、失敗もある意味、リアリティがあるとも言えます。