講師への道 第4章 インストラクショナル・デザイン(ID)②ID設計
第4章 第1項からの続きです。若手B2B営業パーソンのための商談トレーニングについての架空のID(午前中まで)を例に、解説を続けます。
例示:若手B2B営業パーソンのための商談トレーニングID
オープニング(研修の目的やゴール、時間割の明示、講師自己紹介)10分
アイスブレイク「グループ内自己紹介」15分
グループ討議「①商談力を要素分解し、②課題を特定する」25分
発表共有(グループ数にもよるが仮に)25分
(各グループの発表に紐づけながら)まとめの講義「商談力とは」15分
休憩10分
講義「ニーズヒアリングのスキル解説」15分
ペアロールプレイ「ヒアリング」10分
気づきの共有(講師によるフィードバックデモを兼ねて)15分
振り返り&フィードバック 10分
同じペアで役割交代して再度ロールプレイ&振り返り20分
グループ討議をIDに組み込む。討議テーマを設定する
アイスブレイクを経て多少、場が温まった状態でグループ討議に入ります。討議テーマの設定としてはまず、「商談力」という抽象的概念を自分たちの言葉で要素分解してもらいます。狙いは研修内容の自分事化、参画意識の醸成にあります。
そのうえで討議テーマその2として「どこに自分たちの課題があるのか」を特定してもらいます。要素分解したうえで課題を絞り込む方が、課題の解像度が上がるからです。また、具体的な課題を特定したうえで本編のトレーニングに入っていく方が学習の効果と効率が上がるため、比較的序盤でグループ討議を置きました。
と言っても討議段階では、課題の見極めの厳密性はここではそれほど求めません。あくまで「思考の暖機運転」として位置付けています。なお、討議をいかに活性化させるかについては、第3章 第1項をご確認ください。
ところで、今取り上げている例の受講者は「若手の営業パーソン」を想定しているので、質と量の両面で最低限の商談経験があることを想定としています。だからこそ、自分たちの言葉で「商談力」を要素分解できるし、分解した要素に照らして自分たちの課題についても自覚的に分析できるものとしてIDを設計しています。
このように、受講者をあらかじめ分析し、学習ニーズを特定しておくことも、IDの定義、設計プロセスに含める見方もあります。私も非常に大切なプロセスであると、考えています。
グループ討議 ⇒ クラス共有 ⇒ 講義の流れで受講者を惹きつける
さて、グループ討議が済んだら、討議結果を発表してもらい、クラス全体で課題共有します。ここはできるだけ多く、できれば全グループに発表してもらいたいものです。緊張感と満足感、参画意識が高まるからです。
発表内容に対しては、原則ポジティブな共感コメントを返すことで心理的安全性をさらに高めます。まだ研修序盤なので、課題解決に向けた核心的なアドバイスをする必要はありません。むしろ、グループからの問題意識をコーチングのアプローチで深掘りして、本質的な課題が何なのかを特定するサポートに徹しましょう。
グループ間で質疑応答してもらったり、コメントを交換してもらえると「共に研修を作り上げている」という一体感も醸成でき、研修内容へのコミットメントも高まります。
討議結果のクラス共有からの、講義へのブリッジは、講師の力量が試される見せ場
ここまでで「商談力」についてのクラス全体の課題傾向が、ある程度の具体性を伴って共有されていることと思います。ここに挙がった課題の数々を踏まえて、次のセッションである「講義」にすかさずブリッジします。
グループ討議 ⇒ クラス共有 ⇒ 講義の順でID設計した意図は、講義内容を自分事として受け入れてもらうためです。先に講義を行うと、「そんな教科書的なことは既に分かっている」「教科書的なことは現場では通用しない」「当社の営業現場の実態を踏まえない、机上の空論だ」と、反発を招くか、冷ややかな態度で、重要なインプット情報がスルーされるからです。
なので、討議結果のクラス共有からの、講義へのブリッジは、前半の山場の一つです。当然、後の講義内容を把握したうえで、グループ発表のコメントを拾い集めていく必要があります。講師の力量が試されます。上手くファシリテートできれば、講義を聴く受講者の目が、真剣そのものに変わります。
ID内での講義の位置づけ
講義が終われば一旦、クールダウンで休憩をはさみます。研修開始から1時間半経ちますのでタイミング的にもちょうど良いです。
なお、講義はその性質上、どうしても受講者が受け身になる時間です。なので、いかに短くするか、いかに惹きつけるか、どのタイミングで行うか、が争点になります。王道は、受講者の何等かのアウトプットに紐づけて講義することで自分事化させることです。自分事化していれば、講義に惹きつけることはある程度可能です。そうするとタイミング的には受講者のワークの直後に行うこととなります。
とはいえ、人間の集中力はそれほど長く持たないので、個人的には一度に行う講義の長さは15分を超えないようにしています。
(さらに次回へ続く!)…なんですが、今、何を長々と述べているかというと、「IDの何たるか」です。そのために具体例を用いて解説していますが、念のため申し上げると、ここで言語化していることをすべて「研修前に」「シミュレーションとして」行うことが必要です。ここで述べていることを「あらかじめ想像して」研修をデザインする必要があり、それがIDなんです。なので、ある種のメタ思考です。