講師への道 第3章 1対多数のファシリテーションスキル②タイムマネジメント
講師の力量を見極める際のポイントは?
私は現職場で自ら登壇する機会が多いのですが、案件によっては裏方として他の講師をアサインすることも少なくありません。この11年間で数多くの講師を間近で見て、アサインしてきました。なので、講師の良し悪しを見極める目利き力には、それなりの自信があります。
講師の力量を見極める際のポイントはいくつかありますが、最もわかりやすく、かつ実際の力量と比例しているのが、タイムマネジメントの能力だと確信しています。つまり、タイムマネジメントがきっちりできる講師は、トータルの力量も高いことが多いです。なぜでしょうか?
IDがわかっている講師ほどタイムマネジメントが正確無比
第一に、タイムマネジメントができる講師は、インストラクショナル・デザイン(ID)の設計がしっかりしています。「どこでどれぐらいの時間を費やすことになるか」ということについて、分かったうえで研修設計している訳です。
正確無比なID設計に沿って実際のデリバリーを行っているので、パフォーマンスのブレが少ないです。学習内容を段階的に理解させ、学習ゴールに導ける確率が必然的に高くなります。要するに「上手い」ということです。
タイムを”マネジメント”できているということ
第二に、タイムマネジメントができる講師には、柔軟性と決断力があります。ところで、講師と受講者との、あるいは受講者同士のインタラクティブなコミュニケーションが多い研修ほど、タイムマネジメントは既定のスケジュールからズレやすくなります。受講者がどれぐらい長い時間コメントするか、受講者同士のディスカッションが時間を無視してどれぐらい活性化するか(逆に活性化していないので、講師側で討議時間を延長する判断をすることもあります)については、アンコントローラブルだからです。
そうして既定のスケジュールが押したときに、どこをどう削るか、どう端折るかについて柔軟かつ的確に決断できる講師は、あらゆる意味で「分かっている人」です。分かっていない講師は、既定の研修時間を大幅にオーバーしたり、機械的に最後の方のセッションを端折ったり省略したりします。そうなるともはや、デリバリーに対する戦略も何も、あったものではありません。
ちなみに「分かっている」講師は、IDの要所でバッファを見込んでいます。講師が制御できない要因で時間が押した場合は、あらかじめ見込んだバッファを食いつぶしながらタイムマネジメントしています。
タイムマネジメント能力は、メタ認知能力
第三に、タイムマネジメントができる講師は、メタ認知能力が高いです。稀にあってあきれ果てるのですが、自らの講義が長過ぎて、あるいはフィードバックコメントが長過ぎて、時間が押してしまう講師がいます。要するに自分のせいで時間が押しています。
もちろん、学習ゴールを達成するためには、必要最低限のインプット講義はどうしても必要ですし、講師からのフィードバックを期待する受講者が多いのも事実です。しかしながら、時間が押してこのままでは既定の時間に収まらないことが分かった時に、それでもなお「自らしゃべり続ける講師」って、イタくないですか?!
そんなに自分の講義は値打ちがあると思っているのでしょうか?そんなに自分のフィードバックは値打ちがあると思っているのでしょうか?うぬぼれも甚だしいというか、もう、ちゃんちゃらおかしいと思います。
講師による外発的な知識付与が、受講者自らの内発的な気づきに勝ると思っている講師は、メタ認知能力が欠如していると言わざるを得ません。
議論が盛り上がった時は…
先に述べたメタ認知能力とも関連しますが、グループ討議あるいはクラス討議が時間内に終わりそうにないとき、講師は決断しなければまりません。すなわち、議論を打ち切るのか、延長するのか。延長するならば、単純に時間を延長するのか、それとも議論の枠組みを修正したり、再設計したりするのか。ファシリテートスキルに属することかもしれません。
それらの判断と同時に延長時間をどこから捻出してくるのかを、瞬時に計算しなければなりません。実際には、あらかじめの想定に基づき、組み換えることになるのでしょう。最終的な学習ゴールと全体的なID設計をにらみながら、時間の組み換えを行っていきます。
研修の締め括りは、体操競技における着地の美しさのようなもの
かくしてタイムマネジメントができる講師は、さながら体操競技における着地のように、数分のズレもなく「美しく」研修を締め括ることができます。秒単位で締め括れた時は、快感ですね。