ルールは身近に、ルールを身近に (展示感想)
●「ルール?展」21_21 DESIGN SIGHTにて開催中
「身の回りにあるルールを意識し、その存在を疑い、自分のこととして柔軟に考える『ルール?展』」に行ってきました。
http://www.2121designsight.jp/program/rule/
私たちの日常は、さまざまなルールに囲まれている。憲法や法律、社会基盤となる公共インフラや公的サービスから、文化的背景に基づいた規則やマナー、家族や個人に無意識に根づく習慣まで、ルールは多岐に渡り私たちの思考や行動様式を形成している。
本展では、私たちがこれからの社会でともに生きるためのルールを、デザインでどのようにかたちづくることができるのか、多角的な視点から探る。
教育NPOで学校の校則・ルール見直し事業に取り組んでいる関係でこういったテーマに関心があり、足を運んでみました。
コロナの関係で入場数の制限があり、少し並びましたが、短い待ち時間で問題なく入館することができました。
●私たちはどんなルールに囲まれて生きているか
私たち一人ひとりが身の回りにあるルールを意識し、その存在を疑い、自分のこととして柔軟に考えることが求められている。多様なルールと交わり、日々更新し続けることで、私たちの社会とその未来の可能性はよりオープンで豊かな方へ押し広げられるのではないだろうか。
このコンセプトの言葉どおり、来た人がルールに気づき、自分ごとにする仕掛けが多数ちりばめられています。
入ってすぐに目をひくのは、この展示。ポスターにも使われているメインビジュアルの中にひそんでいるルールを解説しています。
日常の中で、いかに多くのルールや行動様式の中で手足と頭を動かしているかを気づかされます。
学校だったら授業など何かしらの活動の導入に使えそうだなとか思いました。「この写真の中に隠れているルールをみつけてみよう」なんて聞いてみたいな。
●教科書の前後にあるルールの構造
こんな展示もありました。法令の作成と施行過程を見取り図にしたものです。
真ん中に置かれているのは、中学校で使われている社会科の教科書です。教科書に載っている国会審議の過程を中心に、その前後にある原案作成や法案施行、見直しのプロセスを見える形にしています。
これも、教科書という媒体を使って見せているのが、見る人の自分ごと感を引き出す演出で上手だなあと思います。
教科書で示されている部分は、きっと授業中では遠い世界のことのように思えてしまいそうですが、教科書からはみ出した部分に示されているエリアには、自身が関わる余地をなにか見出せるのではないかと思います。
ルールは誰かが案をつくっていて、様々な立場の団体や個人がそれぞれの立場で世の中を見て、声をあげている人がいる。あるいは、よき意図が政治的な力で、別な意図にすりかわっているようなことはないだろうか。
あるいは、ルールができて万事OK、と安心するのではなくて、意図せざる結果を招いていないだろうか、特定の立場の利益・不利益を不当に導いていないだろうかとチェックする視点自体を、教科書からはみ出た部分で意識させてくれているように思います。
●公的なものに遊び心とかわいさをもたせる
ルールや校則もそうなのですが、公的なテーマは一般的に固いイメージを持たれがちだと感じます。展内では、デザインを使ってルールや公共テーマに遊びゴコロとかわいさを随所に感じさせるものがあり、これいいなと思うものがいくつもありました。
デザインとテクノロジーの持てる力はけっこう大きそうだぞと感じます。
・ルールの視点から遊びをみる
鬼ごっこの「家系図」的なものが、ルールの視点から分類されています。
見て楽しいタイプですね。
・シビックテック
市民の公共参加をITで推進するという取り組みです。
あるテーマについて、QRを読み込んで投票、投書するようなこともできます。
小学生くらいのユーザーを想定して、「ゲームをするのにルールは必要?」というテーマで体験することができました。
これは見て楽しいに加えて、使って楽しいタイプです。
↑画面右奥のiPadから投票、投書することができます。UIがかなりかわいい!
・小ネタ
ちなみに、入ってすぐのところでスタンプコーナーがあり、パンフレットに
ペタっと押すことができます。
すると「ルール」が書いてあり、館内ではそのルールに従わないといけないとのこと。
私が押したスタンプは「鼻歌をうたわなければならない」というルールだったのですが、すっかり忘れていてルールブレイキングをしてしまいました(笑)
ともあれ、こういって手を変え品を変え、公的テーマのちょっと硬めなコードを、見てみたくなる、つかってみたくなるものへ変換していく必要があるということだろうと思います。
●協働作業と合意と当事者
とりわけ興味をひかれた映像展示を紹介です。館内にそれとなく置かれたテレビで流されていた映像なのですが、引き込まれてしまい長時間足を止めてしまいました。
「A Haircut By 9 Hairartists At Once(Second Attempt):ひとりの髪を9人の美容師が切る(二度目の試み)」
https://vimeo.com/ondemand/9hairdressers
タイトルの通り、9人の美容師が集まって、1人の髪を切るプロジェクトの様子の映像です。それだけのシンプルな映像なのですが、その過程がまさしく社会の一部をリアルに圧縮したものになっていて、かなり考えるところが多い作品です。
でかなり雰囲気がわかると思うので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
最初に本人(切られる人)の希望を聞いて、9人の美容師たちが「こういう風に仕上げたらいいんじゃないか、側面はこうしよう、どの部分を切るかまずは決めよう、ここは俺にやらせてくれ・・・」と、各々の見解を交わすミーティングから始まります。
進め方、部位、手法など個々人のこだわりが垣間見えるなかで作業がはじまります。
進めていく中で、主導権を握る者、周縁に追いやられる者が出たり、ハサミを握る側の「こうしてあげたい(よき意図)」と「こうしたい(エゴ)」の境目がなくなっていったり、切られる側の意思の所在がどっかに行ったり・・・など、「これを社会に置き換えるとどうなるか」という視点でみると考える内容満載です。
ルール展を通して、もっとも時間をかけて、じっくりと見た作品でした。
作者の田中功起さんの解説は以下です。
協働で何かを行うこということは、倫理的なものである。個人のエゴを押し殺し、他者との合意のもとに作業を遂行しようとする。その過程の中で参加者は、自分のそれまでに培ってきた思考、方法論や実践を一度脇に置き、その上で他者との妥協を探る。協働のプロセスは交渉と妥協の過程であるとも言える。そこに生じたマイクロ・ソサイエティは、参加者にある種の倫理性を要求してくる。自分自身の形を変えてまで、その倫理的な形に従うように要求してくる。協働とはそういうものだ。
●テーマの深めどころと現在地について
ルールという言葉ひとつについても、一緒の括りで考えられるものもあれば、棲み分けが必要なものがありそうです。
また、隣接領域も、思っていた以上に多様です。
それに加えて、ITやデザインなど、新しい軸を入れ込んで命が宿るものもある。
そういったことをちゃんと知った上で整理して、自分がやっていることは今どのへんなのかをわかっておきたいと感じた時間でした。
●行きつ戻りつしながら、その時々で最適なルールを見つけること
アップデートされた最新版が常にベストな答えとは限らないので、過去のどの時点で、どんなルールが適用されていたのかを履歴に残しておくことも必要そう。
館内にそっと掲示されていた「会場ルール変更履歴」これも素敵な発想だと思います。
現実的には、言うは易し行うは難しなんですが、視野は広めに、高めに、そしてやわらかめに持っておきたいものだと思います。
行きつ戻りつしていいという構えをまずは持つところからですね。
●今後行く人へ:時間配分は計画的に!
時間制限付きの展示コーナーに惜しくも入れず!、、
(9人の美容師の映像を長いこと見すぎたかもしれません・・笑)
人数制限がある展示コーナーは並ぶ場合がありますので、来場を検討されている方はご注意ください!
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