オンライン調剤薬局市場の現状と今後の展望:楽天ヨヤクスリ薬局 vs Amazon Pharmacy
はじめに
近年、デジタルヘルスケアの進展により、オンライン診療からオンライン調剤薬局市場が急速に成長しています。特に楽天の「ヨヤクスリ薬局」とAmazonの「Amazon Pharmacy」は市場の注目株です。両社の戦略比較を例に、オンライン調剤薬局市場の現状と今後の展望を考察します。
1. 楽天のヨヤクスリ薬局とAmazon Pharmacyの概要
楽天のヨヤクスリ薬局
楽天グループが提供する「楽天ヘルスケア ヨヤクスリ」アプリを通じ、全国約5000軒の調剤薬局と提携し、処方箋画像や電子処方箋の事前送付、オンライン決済、薬局での受け取り予約、自宅配送を提供しています。
2024年8月から処方薬の自宅配送に対応し、アプリ上で予約から受け取りまで完結する利便性が特徴です。
Amazon Pharmacy
2024年7月に日本市場へ本格参入。Amazonショッピングアプリ内でサービスを提供し、登録薬局を通じてオンライン服薬指導や処方薬の配送に対応しています。
アメリカではAmazonが自社薬局を運営していますが、日本では提携薬局を活用する形です。
2. 両社の戦略的違い
楽天はポイント還元や健康管理アプリとの連携を強みに持ち、Amazonはその広大な顧客基盤と物流ネットワークを活かした効率的な配送が特長です。
3. 両社の強みと弱み
楽天の強み
楽天ポイントの活用:顧客ロイヤルティを高める効果が期待できる。
多様なサービス連携:「楽天ヘルスケア」との連携による総合的な健康管理サポート。
日本調剤との連携:日本調剤のネットワークを活用した質の高い医療サービス提供。
楽天の弱み
自社運営薬局が少ないため、対応できるエリアやスケールでAmazonに劣る可能性。
認知度においてAmazonにやや劣る。
Amazonの強み
Amazonのブランド力:広い顧客基盤と信頼。
物流の強み:Amazonの強力な物流ネットワークを活かして迅速な配送が可能。
電子処方箋とオンライン診療の連携:CLINICSとの提携によるシームレスなサービス提供。
Amazonの弱み
紙の処方箋に対応しておらず、利用者が限られる。
日本国内の薬局市場での実績はまだ浅く、楽天に比べて日本市場特有の慣習や規制に対する適応に課題が残る。
今後の展望と競争の行方
4. Amazonと楽天の年齢層別の加入者割合
39歳未満
この年齢層では、Amazonの利用率が楽天を上回る傾向にあります。
• 20代以下では、Amazonの利用率が楽天を大きく上回っています。
• 20代の場合、Amazonユーザーが18.3%に対し、楽天ユーザーは9.9%となっています。
• 30代では、AmazonとAmazonの利用率はほぼ拮抗しています。
40歳から59歳
この年齢層では、AmazonとAmazonの利用率に大きな差はありません。
• 40代と50代では、楽天市場とAmazonの利用者がほぼ拮抗しています。
• 50代では、楽天市場の利用率がAmazonをやや上回る傾向にあります。
60歳以上
この年齢層では、楽天の利用率がAmazonを上回る傾向にあります。
• 60代以上のシニア層は楽天市場の利用が多いことが明らかになっています。
• 60歳代の楽天市場の利用率は39.5%に達しています。
5. 今後の展望と競争の行方
楽天の戦略
楽天は、日本調剤や提携薬局との連携を深め、ユーザーの利便性を向上するため、健康管理アプリの機能拡充やお薬手帳の追加機能に力を入れています。今後はさらに電子処方箋の普及を見越し、全国規模でのサービス拡大を図る方針です。
Amazonの戦略
Amazonは、日本の電子処方箋に対応した医療機関と提携し、オンライン診療から服薬指導までのプロセスを一貫して提供することを目指しています。特に若年層や都市部での利用拡大を強調しており、物流とテクノロジーを駆使して競争力を高めています。
6. 今後の競争要因と課題
電子処方箋の普及率は施設種類によって大きな差があり、2025年1月12日時点で薬局63.2%に対し、医療機関は病院3.9%、医科診療所9.9%、歯科診療所1.7%と低水準です。厚生労働省が掲げた「2025年3月までに概ね全医療機関・薬局への導入」という目標の達成は困難な状況で、医療機関の導入率は2025年3月末でも1割に届かない見込みです。
普及率の特徴
1. 薬局の先行導入:
チェーン薬局を中心に導入が進み、2025年夏までに全薬局の約8割が導入完了する見通しです。一方で個人経営の小規模薬局では導入が遅れています。
2. 医療機関の遅れ:
公的病院を含む病院全体の導入率は3.9%、医科診療所でも9.9%と低迷しています。導入阻害要因として、システム改修費用の負担(約60%の医療機関が課題と指摘)や周囲の未導入環境が挙げられています。
年齢別の特徴
<医療従事者側>
• 若い医師の導入意欲:
20代の開業医の50%が電子処方箋導入に前向きで、年代が上がるほど慎重姿勢が強まります。
• 薬剤師の年代差:
50代以下の薬剤師はオンライン資格確認の導入率が50%超なのに対し、60代以上では導入率が低下します。
<患者側>
• 健康アプリ利用層の関心:
健康アプリを活用している患者の60%が電子処方箋利用に意欲的で、非利用層より20ポイント高い傾向があります。
• 高齢者の情報格差:
60歳以上の患者は処方データの登録率が低く、電子処方箋活用の阻害要因となっています。
今後の課題
• 医療機関向けにシステムベンダーの開発支援強化や公的病院への導入義務化が検討されています。
• 患者向けにはマイナンバーカードの普及促進(2024年時点の利用率59.5%)が鍵となります。
電子処方箋の普及率:病院1.5%、診療所2.1%、薬局31.7%とまだ普及が限定的であるため、市場拡大に制限があります。
高齢者層の取り込み:オンライン慣れしていない高齢層への普及が課題ですが、現在50代のデジタル慣れした層が10年後にメインターゲットとなる可能性が高いです。
規制と法的課題:オンライン調剤市場は厳しい医薬品規制が存在し、新規サービスの導入には課題があります。
楽天とAmazonはそれぞれ異なるアプローチで市場に挑んでいますが、今後の競争は次のポイントに集約されるでしょう
電子処方箋の普及速度
高齢者層へのアプローチ
制度規制に対する適応力
特に楽天は日本市場の特性に合ったポイント戦略や提携関係を強化し、Amazonはその物流力を活かして広範なエリアでの利用者獲得を目指しています。
両社の戦略が市場に与える影響は大きく、今後のオンライン調剤薬局市場の発展においても重要な存在であり続けるでしょう。
7. 各調剤薬局における戦略展開の応用例
オンライン調剤薬局市場の拡大に伴い、提携薬局や地域の独立薬局もデジタルシフトと顧客サービスの向上が求められます。以下は、各調剤薬局が取り組むべき具体的な戦略の応用例です。
① デジタル化とシステム連携の強化
電子処方箋対応の早期導入
紙処方箋からの移行が進む中、電子処方箋の受け入れ体制を整備することで、オンライン調剤サービス(楽天ヨヤクスリ薬局やAmazon Pharmacyなど)との連携が円滑になります。ITシステムのアップデート
患者情報管理、在庫管理、オンライン決済システムなど、デジタルツールとの統合を図り、業務効率の向上を目指します。
② 顧客体験の向上とサービスの多角化
オンラインとオフラインの融合
地域に根ざした信頼感を活かし、対面での服薬指導や相談窓口を維持しながら、オンラインでの予約・相談サービスを導入することで、幅広い層へのサービス提供を実現します。パーソナライズドサービスの提供
患者の服薬履歴や健康状態に基づいたリマインダー通知、アフターケア、健康管理アプリとの連携など、個々のニーズに合わせたサービスを強化します。
③ 物流体制と配送ネットワークの整備
迅速かつ安全な配送体制の構築
提携宅配業者との連携や自社物流の見直しを進め、特に自宅配送サービスの信頼性を高める取り組みが求められます。地域限定の配送サービス
地域密着型のサービスとして、急な服薬指導や緊急時の配送対応など、地域のニーズに合わせた柔軟な物流サービスの提供を検討します。
④ 高齢者層へのサポート体制の充実
デジタルデバイドの解消策
高齢者向けに操作が簡単なアプリや専用電話窓口、店舗内でのデジタルサポートキオスクの設置など、オンラインサービスの利用障壁を下げる施策を講じます。対面サポートの充実
オンラインに不慣れな層に対しては、従来の対面サービスを強化し、オンラインとオフラインのハイブリッド型サービスの提供を推進します。
⑤ 規制対応と安全性の確保
法令遵守とセキュリティ強化
医薬品流通に関する最新の法令や規制に迅速に対応するとともに、個人情報保護やシステムセキュリティの向上に努めます。定期的なスタッフ研修
オンライン調剤に関する知識や最新の技術、規制情報の習得を目的とした研修プログラムを実施し、スタッフ全体のスキルアップを図ります。
⑥ マーケティングと顧客データの活用
データドリブンなマーケティング
オンライン予約や服薬指導のデータを分析し、地域ごとや年齢層ごとのニーズに合わせたキャンペーンやポイント還元、プロモーション活動を展開します。提携プラットフォームとの連携強化
楽天やAmazonなど大手プラットフォームとの連携を強化し、共通の顧客基盤を活かしたクロスマーケティング施策を実施することで、認知度と利用率の向上を狙います。
結論
オンライン調剤薬局市場における楽天とAmazonの戦略が市場全体を牽引する中で、各調剤薬局も自らの強みを活かしながら、デジタル技術の導入、顧客サービスの充実、物流ネットワークの整備、そして規制対応を徹底することが不可欠です。こうした多角的な取り組みが、患者にとっての利便性と安全性を高め、地域医療全体の質の向上につながると考えられます。
このように、各薬局がオンラインとオフラインの融合を図りながら、デジタル時代に適応したサービス展開を進めることで、今後の激しい市場競争においても持続的な成長が期待できるでしょう。