ボンタン
果物屋や野菜屋の店頭に、赤ちゃんの頭ほどはあろうかというとても大きな柑橘が並ぶ。並ぶというほどたくさんではなくてせいぜい2〜3個が置いてある。
商品名のところを見ると「晩白柚」と書いてある。以前は「文旦」と書いてあったように記憶しているが、ここ何年か晩白柚と書いてある。産地が熊本だから晩白柚なのだろう。
ネットで調べてみると、ボンタンの出荷の90%以上が熊本県だという。熊本では晩白柚と呼んでいるというので、晩白柚と書いた案内書を添えて出荷される。
鹿児島ではボンタンと呼んでいたから、ボンタン飴やボンタン漬けと呼ばれるスナックがお土産として売っている。鹿児島にたまに行くと、決まってボンタン漬けやボンタン飴を買ったものである。
「文旦」と漢字で書いて、ボンタンと読む。またブンタンとも読むのでブンタンと呼ぶ地方もあるようだ。
私の育った都城盆地では、ボンタンと呼んでいた。
文旦の名前の由来は、中国の「文」という役者の家に美味しい実のなる柑橘の木があった。当時は役者のことを「旦」といったことから、その木を「文旦」と呼ぶようになったという説がある。清代の初め頃には「文旦」と呼ばれていたらしい。
長崎では、ザボンと呼んでいたようである。セイロン、今のスリランカでジャムボールと呼ばれたボンタンの実をポルトガル人がザムボアと呼んでおり、それが日本に伝わって、ザボンと呼ぶようになったとする説があるのだそう。
お店にあるボンタンを見かけると、1個は必ず手入れて持ち帰る。
まず外側の黄色の皮を薄〜くむく。晩白柚と呼ばれる名前の通りの白い皮を8等分ぐらいに分けてむいて、中身を取り出す。白い皮を茹でてお湯をこぼして、また水を入れて茹でる。これを3〜4回繰り返して、一晩水にさらしておく。翌日食べやすい大きさに切って、皮の重さと同じぐらいの砂糖を入れて煮詰める。煮汁がなくなったら鍋から取り出して乾燥させると、美味しいピールが出来上がる。これがボンタン漬けである。
一番内側の中身は、袋の皮をむいてそのまま食べるもよし、袋ごと砂糖を重さの半分ほど入れてマーマレードを作るもよし。最初にむいた一番外側の皮を洗って刻んでマーマレードに入れると風味豊かな味になる。
ボンタン仕事をしながら、頭を巡るのは小学生の頃の懐かしい思い出である。学校の隣にある親戚のおばさんが庭になっているボンタンを1個ちぎって、私に持たせてくれた。
重いボンタンを両手で抱えて、落とさないように家までの30分ばかりの道を歩いて帰った。記憶に残っているのは、その味ではなくて重さである。