ライターは「汲み取り」と「言い換え」ができるといいよね、という話
モメンタム・ホースという会社で編集者をやっている岡島@okjmtといいます。
モメホ(とよく呼ばれます)はさまざまな企業さんの発信活動をお手伝いしたり、出版社さんとタッグを組んで書籍の制作をしたりする会社で、僕は主に若手経営人材を支援するコミュニティ「FastGrow(fastgrow.jp)」さんと、マンガサービス「アル(alu.jp)」さんのお手伝いをすることが多いです。
基本的にはWebが中心なんですが、2018年には社長@_ryhのサポートを受けながら書籍『THE TEAM 5つの法則』の制作にメインで携わらせてもらったりと、紙媒体に手を出したこともありました。
文章の仕事に関わるようになってから、まだ1年と10ヶ月くらいの若造なんですが、最近は恐れながら、ライターさんの原稿に赤を入れさせていただく機会も増えてきました。
その中で、多くのライターさんが苦手とされているように思うのが、「汲み取り」と「言い換え」です。このnoteでは、そのやり方について書いてみようと思います。
【前提】取材音源は、基本的に情報としての精度が低い
原稿をザッと読んだ時点で、「これは少し手が掛かるかもな…」と思うのが、”文字起こしそのまま感”のある原稿です。
ライターさんは基本的に、取材音源の文字起こし→執筆というフローで制作されているかと思います。そして、「執筆」においてライターさんに求められる仕事は、主に以下の4つだと僕は考えています。
1. 不要なエピソードを削る
2. エピソードを最適な順番に並び替える
3. 記事の形に文章を整える
4. 一つひとつの言葉の精度を高める
このnoteで言いたいのは、「4ができていない人が多いかもね」ということです(それぞれのフローについての説明はこのnoteでは省略し、また今度別で書きます)。
これを説明するには、まずWeb記事の執筆がどういうものなのか?を書く必要があります。
取材記事の執筆って、自分の頭の中にある情報を文章として紡いでいく作業というより、企画の目的に沿ってインタビュイーの発言をまとめていく作業ですよね。なので、正確には「執筆」というより「インタビュイーが発した言葉の編集」なのだと捉えています。
そして、大変な失礼を承知ながら、インタビュイーが発した言葉は、基本的に情報としての精度が低いのです。なぜなら、それは口語だからです。
そもそも人間は何かを話すとき、それがたとえ多大な時間を費やして考え抜かれた内容であっても、完璧な文法で必要な主語や目的語を網羅した話し方をするかと言われれば、そうではありません。
口語である以上、人は伝えたいことを目の前の相手に理解してもらうために、ぴったり当てはまる言葉ではなく、その場で頭に浮かんだ言葉を使い、本来は必要な言葉を省きながら話します。会話においては、正確さよりもスピードが重視されるからです。
これは、インタビュアーが対面で聞く分には理解しやすいかもしれません。しかし、文字起こしされた文章を見た別の誰かが同じレベルで理解できるかと言われれば、まったくそうではありません。
直接お話を聞いたインタビュアーからすれば、文字起こしされた文章は、誰もが理解できるように見えるかもしれませんが、それは説明されるべき要素が抜けていても、脳内で補完されているからなんですよね。
なので、文字起こし→記事にする過程では、インタビュイーの言葉をそのまま使うのではなく、彼ら彼女らが本当に言いたいことを「汲み取り」、最適な言葉に「言い換え」ることで、意味の精度を高める必要があるのです。
実際の文字起こしと記事を見比べてみる
では、どうすればいいのか?を説明していきます。
参考資料として、2月に僕が執筆した、本田圭佑さんインタビュー記事@アルを使います。実際にお会いした本田さん、マジのガチでかっこよかった。
この記事、汲み取りと言い換えが上手くハマった実感があるんですよね。記事化するにあたり、本田さんが実際にお話しされていたお言葉からかなり書き換えたりしたんですが、Twitterでは「本田さんの声が脳内再生される」というコメントをよく見かけました。狙い通りの反応が得られてとても嬉しいです。
さらに、「汲み取り」と「言い換え」を説明するにあたって、「公開できる文字起こし」が中々なく、noteを書きあぐねていたのですが、この記事は実際のインタビュー動画が本田さんのYouTubeチャンネルにて公開されています。
この動画で話されている内容であれば、部分的に文字起こしを公開しても問題ないと判断しました。noteを書く上で最適の素材が見つかったわけですね。というわけで、動画の2:00〜3:10の部分の文字起こしです。
【文字起こし】
ーーキングダムとかも結構お好きですよね。
本田:めちゃ読みますね。今、一番好きと言っても過言ではない。今読んでいるマンガでは。ちょっとでも、理由を語るのは難しいくらい、普通に引き込まれていますね。なんなんすかね。でもまぁ、中国の、僕あの、蒼天航路という、三国志の曹操孟徳が主人公のマンガも大好きなんですけど。まぁ、それよりさらに遡るのが秦の始皇帝なので、それをモデルにしているのがキングダムじゃないですか。ちょっと個人的には卑怯だなと思っていて。あの、昔すぎて、戦国時代のパフォーマンスがちょっと非現実的なんですよ。これが日本の戦国時代だと、めちゃリアル。その差はあるかなって。日本の戦国時代が、どうあがいても、中国の戦国時代に、ちょっとある意味では勝てないのは、フィクションの差かなと。言ったもん勝ちやんみたいな、それ残ってないやろ絶対みたいな。
次に、記事の該当箇所はこちら。
【記事】
本田:僕、三国志の曹操が主人公の『蒼天航路』も好きなんですけど、中国の戦国時代の史実をもとに描かれている作品ってそれだけで面白いし、「卑怯だな」と思っています(笑)。当時の中国の武将って史料が昔過ぎて、あまりにも非現実的なパフォーマンスの記録ばかり残っているじゃないですか。「人間の身でそんなことできひんやろ、絶対盛ってるやん!」って(笑)。
一目でめちゃスッキリしているのが分かりますね。細かく見ていきましょう。
「汲み取り」の手法
「汲み取り」を説明するにあたって丁度良さそうな箇所を、文字起こしと記事のそれぞれから抜き出してみました。それぞれの該当箇所を見比べると、このようになります。
【文字起こし】
ちょっと個人的には卑怯だなと思っていて。あの、昔すぎて、戦国時代のパフォーマンスがちょっと非現実的なんですよ。
【記事】
中国の戦国時代の史実をもとに描かれている作品ってそれだけで面白いし、「卑怯だな」と思っています(笑)。当時の中国の武将って史料が昔過ぎて、あまりにも非現実的なパフォーマンスの記録ばかり残っているじゃないですか。
おや?と思われた方もいるかと思います。文字起こし→記事の全体を見ると文量はかなり減っていますが、この箇所にフォーカスするとむしろ文量が増えています。もうお分かりでしょうが、それは僕が不足している箇所を汲み取り、書き加えたからです。
まず、記事中の以下の記述は、実際には本田さんが話されていない内容です。
中国の戦国時代の史実をもとに描かれている作品ってそれだけで面白いし、
しかし、文字起こし全体を読み込むと、本田さんの主張としては正しいと分かります。だったら、その主張を会話文の冒頭に書いたほうが、読者に内容が伝わりやすい。だから、実際には発言されていなかった言葉ではありましたが、僕の判断で書き加えました。
続いてこちら。
【文字起こし】
あの、昔すぎて、戦国時代のパフォーマンスがちょっと非現実的なんですよ
【記事】
当時の中国の武将って史料が昔過ぎて、あまりにも非現実的なパフォーマンスの記録ばかり残っているじゃないですか。
「昔すぎて、戦国時代のパフォーマンスが非現実的」とありますね。これ、直接お聞きする分には「たしかに昔だし、非現実的だなぁ…」と思いながらお聞きできるんですよ。
でも、文字にして読んでみると、「昔って、何が昔なんだ?」「パフォーマンスって、何の?誰の?」という疑問が浮かんできます。ところどころ主語や目的語が抜けてしまっており、すごく曖昧な表現だと分かりますよね。
(念のため強調しておきますが、本田さんの元の表現をディスっているのではなく、「話し言葉は、読むのに最適化されていない」というだけの話です。多くの方がメディアで観られてご存知でしょうが、直接お会いして思ったのは、本田さんは話されるのが抜群にお上手です。僕が書くまでもないことですが。)
だから、「昔すぎて→当時の中国の武将って史料が昔過ぎて」だったり、「パフォーマンスが非現実的→非現実的なパフォーマンスの記録ばかり残っている」だったりという風に、汲み取って書く必要があるわけです。
「言い換え」の手法
続いて、言い換えについて説明します。参考箇所はこちら。
【文字起こし】
これが日本の戦国時代だと、めちゃリアル。その差はあるかなって。日本の戦国時代が、どうあがいても、中国の戦国時代に、ちょっとある意味では勝てないのは、フィクションの差かなと。言ったもん勝ちやんみたいな、それ残ってないやろ絶対みたいな。
【記事】
「人間の身でそんなことできひんやろ、絶対盛ってるやん!」って(笑)。
はい、がっつり言い換えていますね。
実は、「日本の戦国時代だと〜」の部分は、執筆時に一度、残しました。けれど、あえて日本の戦国時代の史料について言及し、対比せずとも、中国の史料についてだけ言及すれば、本田さんの主張を伝える上では問題ないわけです。
なので、テキストを冗長にさせないためにも、カットしました。
さて、本題の「言い換え」について説明していきます。
まず、「言ったもん勝ちやんみたいな、それ残ってないやろ絶対みたいな」と「絶対盛ってるやん」は、まったく別の表現です。しかし、どちらの表現を用いても、ほとんど同じ意味で通じるように思われます。
また「言ったもん勝ち」という表現は、「誰が?何を?」という主語や目的語が気になってしまいます。ここで主語や目的語を書き足そうとすると、冗長なテキストになってしまいやすいので、避けたいところです。
さらに、史料は「書かれたもの」なので、「言う」という表現に少し違和感があります。また、「残ってないやろ」という表現は、史料自体は残っているので、「じゃあ何が残っていないの?」を考えてみると、どうも言葉の精度が怪しいようです。
と、ここで「盛っている」という表現を使うと、文章が冗長になることもなく、本田さんの主張通りの意味を伝えられます。というので、言い換えをしているわけですね。
言い換えは、文章をスッキリさせるためだけでなく、可読性を高めるために行うことも多いです。ゴツゴツした漢字が続いたり、ひらがなやカタカナだけが続く文章よりも、漢字とひらがな、カタカナのバランスが丁度良い記事の方が読みやすいです。
また、音読しづらい文章は読みにくい=頭に入ってきにくいので、僕の場合は音読しても違和感がなくなるまで言い換えを繰り返します。
文章の可読性に関しては、編集者の竹村俊助さんのnoteがとてもよくまとまっていたので、参考にしてみてください。
念のため書いておくと、「人間の身でそんなことできひんやろ」は汲み取りですね。ご本人のイメージが世間に伝わっている本田さんだからこそですが、らしさを生むために、あえて関西弁にしてみたり。
まとめ
まとめると、汲み取りと言い換えをする目的は、以下の通りですね。
1. 意味の精度を高める
2. 冗長さを排除する
3. 可読性を高める
そして、汲み取りと言い換えをするのに必要な能力は、ざっと浮かぶところでこんな感じです。
1. 文脈を読む力(話者が伝えたい意味を誤読してしまうようでは、汲み取りは難しい)
2. 日本語の文法や品詞についての正しい知識(意外とこれが欠けている人が多いです。目的語なしで他動詞を使っちゃったりとか)
3. 文章を変形する力(主語と目的語を入れ替え、能動態⇄受動態の言い換えをすることが多いです)
4. 語彙力/検索力(同義語/類義語への言い換えができる)
現代文の授業が得意だった人であれば、特に問題ないかと思います。「現代文は苦手だったな…」という人であれば、まずは学生時代の教科書を発掘してきて読み直すだけでも、大きな効果が期待できるかもですね(適当か)。
あとがき
汲み取りと言い換えは、正直、めっちゃ時間がかかります。原稿の単価次第では、時給換算すると恐ろしいことになっちゃったりもします。けれど、「一つの原稿にそんなに時間をかけていられない」と投げ出すようでは、良い仕事が集まるライターにはなれないと思います。
弊社の社長@_ryhは学生時代、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一さんに取材した際、「言いたかったことがそのまま書かれており、一箇所も直すところがなかったから」と、原稿を提出した翌日に著書(※)のライティングを依頼されたそうです。
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高宮さんが話された内容をそのまま書くだけでは、同じ結果にはならなかっただろうと思います。インタビュイーが本当に伝えたいことは何か?を考え抜き、それを受け取る人への架け橋になることこそが、ライターの真価だと思うのです。
もちろん、文脈を誤読してしまった場合、インタビュイーから「そんなこと言っていない!」と怒られてしまう可能性もあります。一方、汲み取りが成功しているときは、「上手く言葉にしきれなかったけど、私はこういうことを言いたかったんだ!」と喜んでもらえます。高宮さんが、社長にそう伝えたように。
一文字でも削れるところはないか?本当にその単語/熟語を使うのがベストなのか?黄金の原稿だと言い切れるか?を考え抜いた人のもとにこそ、「金ピカ」な仕事が舞い込んでくるはず。
文章の仕事に関するノウハウは、時折こうやってまとめてみるんですけど、なかなか骨が折れますね。まだまだ書きたいことはあるんですが、今回はこれくらいで筆を置きます。
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