ローカルの「食」を見つめ、向き合ってきた3年半を振り返る。移住コラムその8
みなさん、こんにちは。2018年9月に愛媛県へ移住し、「cuddle」という屋号で食のローカル地域商社づくりに取り組んでいる、長尾愛里(ながおあいり)と申します。移住した経緯などは、以下の記事をぜひご覧ください。
起業型地域おこし協力隊「Next Commons Lab 西条」のメンバーとして愛媛県西条市に移住し、3年間の任期を昨年無事に終えました。それから半年たち、振り返って感じたこと、今後のことなど、改めて綴りたいと思います。
地域に愛される商品をひとつでも多く作り出す
この3年間の起業型地域おこし協力隊の期間では、ローカルならではの仕事の積み上げ方ができたと思っています。愛媛県西条市周辺という、都市部と比べたら狭いエリアで活動をすることで、自然と地元の方と会う機会も増えました。顔を合わせ、会話をする度に、互いに信頼が生まれていきました。その信頼の先に、「そういえば、長尾さんに相談したいことがあるのだけど」と声をかけてもらえるようになったのは嬉しいです。
卒業後は、もともと移住や起業する際に目標としていた「食のローカル地域商社事業」を、引き続き行っていきます。
「地域商社」とは、その地域の特産品やコンテンツ、土地の魅力を、売り込んでいく機能をもつ組織を指します。地域商社は地域外に売り込みを行う事例が多いですが、コロナをきっかけに、いかに「ローカル」にファンを持ち、消費してもらえるかが今後は大事な要素になる、と気付きました。
そのため、私はテーマを「食」と「ローカル」に絞り、いかに「食」の分野で、地域に愛される商品をひとつでも多く作り出せるか、経済を回していくかという課題感を持ち、日々事業に取り組んでいます。
コロナ以前は、「都会や海外に売り出すのが当たり前」=「地産外商」の世界でしたし、もちろん私も地産外商を見込んで事業を立ち上げました。ですが、コロナで輸送は不定期になり、商談や現地視察の往来が思うようにできなくなりました。リモートでの商談もできますが、やはり食は目の前で出会い、「五感」で楽しむことが肝。地域外の方々に食の現場を体感してもらえない期間が多く、なかなか歯痒く、焦りが募っていました。
ただ、この状況下の中でも、意外と自身の売上は減りませんでした。地域商社卸事業をはじめ、地元での販売額が増えたからです。旅行などへお金をかけられなくなったからこそ、地元にお金が落ちていく傾向が見られました。
輸送費をかけて外部に売り出すより、地元に根強いファンを作り、お金を落としてもらい地域内循環を作るほうが、原価も輸送の手間も掛からず、理想的な食の流れだと感じました。もちろん、外部からお金の流れを獲得することは、地元に販売していくうえでも強いPRになります。
ただ、生産者さんによっては、地元で知られていないのに、「東京に置きたい」とおっしゃる方も多い。今までの経験上、バイヤーさんとのやりとりでも、「地元に愛されていないと難しい」と言われることもよくあります。
逆輸入という考え方もあるかもしれませんが、私はまず「地元で愛される」ことを大事にしていきたいと思っています。食は、その地域の文化に根付いて成り立つ、唯一無二のものです。身近な人々に愛されていることが大事だと思います。だからこそ、地域に愛される商品を、ひとつでも多く作り出し、売っていくことを目標としています。
コンサルティングだが、気持ち的にはコーチング
地域商社事業の中のひとつの柱として、食のコンサルティング業があります。食を作り出すとき、売り出す時に出てくるお困りごとを、専門家の立場で解決していく仕事です。業務としてはコンサルティング業ですが、気持ち的には「コーチング」と思って実施しています。なぜかというと、「コンサルティング業」というと、少し身構えてしまう方が多いからです。
私はこの業界に身を置いて8年以上になりますが、「食のコンサルで良い人見たことがない」と言われたこともありました。同年代(20代)で同じような動きをしている人はほとんどおらず、同業者は40代より上の世代が多いです。年代的に見ても、上から目線で一方的になってしまいがちの業界です。その分、まだ若い世代と言われる自分にできることは、できるだけ同じ目線で、2人3脚のように一緒に並走していくことだと思っています。
並走するスタンスでコンサルティングがしたいという思いから、「cuddle(訳:愛を持って寄り添う)」という屋号にもしています。今の私の年齢だからできることを、事業にも落とし込みたいと思っています。
今ご一緒しているコンサルティングの一例として、地元のカフェレストランと開発した調味料シリーズがあります。もともとヒットしていたドレッシングがあったお店ですが、現状に満足せず「もっと色々な角度で調味料や、食べ方の提案を消費者にしていきたい」という思いを常に持っています。
新商品を開発するまでのサポートはもちろん、開発後も商品の流通についても私が管理させていただき、販路開拓に取り組んでいるところです。ドレッシングがよく売れる夏場に、地元の販売店だけでも月200本ほど販売できた際は、「地元に根付く商品」の手応えを感じました。
もちろん、活動してきた3年間で「圧倒的に自分の力不足で失敗した」と感じたことも多かったです。コンサルティングの事業は、「コミュニケーションの質」と、「きちんと互いに納得できる事業内容を最初に決めておくこと」がとても大事です。分かりやすい納品物が生まれづらいのがコンサルティング業。「もっとこうしてほしかったのに」「なぜここもやってくれないのか」といった考えの相違が起こりがちです。
こういった相違が起こらないように、しっかりとコミュニケーションを取り、最初の契約もしっかり決めておく必要があります。会社員時代は、自分で契約書を作り、結ぶことはほとんどやっていなかったため、この分野については、「一から学び、失敗を繰り返しながら、徐々にレベルアップできているかな」と思っています。今後も失敗をしっかり反省し、胸を張って「これは私が関わった事例です!」と言える事例を増やしていきたいです。
二人三脚で食事業をサポートしたいと思う根本には、「この味を残したい、知って欲しい」という自分のエゴがあります。おいしいものを食べた瞬間が幸せ、と思う人は多いのではないでしょうか。
その幸せを、自分の活動によって作り出し、その幸せを作り出す味を後世につなげていきたい。色んな人に知ってもらいたい。そんなエゴがあります。
いずれは自社事業として、移動ローカル百貨店を
2018年9月から3年間過ごした愛媛県西条市ですが、実は結婚を機に離れ、西条市から1時間ほどの愛媛県四国中央市に引っ越しました。
今までのご縁もあるので、西条市での仕事はもちろん続けますが、せっかく新たな土地に根付くことになったので、新たな食の出会いや仕事を作りたいと思っています。また、地元が岡山県で、瀬戸内地域がとても大好きなので、愛媛も含めた瀬戸内地域で自分の事業を横展開していき、さまざまな地域で地域循環を作るお手伝いができたらいいなと思っています。
また、10年後くらいには、自分主導の事業も始めたいです。イメージとしては、付加価値を付けた、移動スーパーならぬ「移動ローカル百貨店」です。また、地域で食のサポートを行なうことに対して、「学びたい」と言ってくれた若い世代に、機会を作れるような40代にもなりたいです。
そして、今住んでいる家の前が遍路道なので、いずれはお遍路さんに優しい「おばあちゃん商店」もやれたらなと思っています(笑)。
きっと、ローカルでの起業やスモールビジネスを考えている人はどんどん増えると思います。2018年にローカルで起業した私が個人的に大事にしていることは「しっかり自分を知ってもらった上で、信頼してもらうこと」です。
ローカルで事業をやるには、ほとんどは地元の方と関わる仕事が多いと思います。その人たちに、自分がどういう人間なのか、何を大事に仕事をしているのか、しっかり理解してもらうことは最初にすべきことだと感じました。「長尾愛里」がどういう人間なのかわかってもらい、信頼をおける相手だと思ってもらえたら、きっと仕事につながっていきます。
ただ、もちろんどの人にも「合わない人」はいるのではないかと思います。そんな人に出会ったとき、私が実践しているのは、できるだけ「しょうがない」と割り切ること。「多少嫌われてもいいや、私の信念だから!」とざっくり思える図太さは、ローカルで生き抜くコツかもしれません。
そして、実は今妊娠9ヶ月目の妊婦です。妊婦になり、また世界ががらっと変わりました。行動制限はかかりますし、コロナに罹るリスクが大きすぎるため、PC仕事中心の生活になりました。せっかく声をかけてもらったのに、泣く泣く断ってしまった仕事もあります。
もちろん、お腹の子が第一なので割り切っていますが、個人事業主にとって仕事を断るのがいかに怖いか……! ただ、妊婦でも出来る範囲で関わってくれたら良いよと言ってくれる方もいて、ありがたいと思っています。
今後は、いかに地域で子育てをしながら、自分のキャリアを伸ばしていくか、奮闘する時期が始まります。それについても今後記事にしたいと思っていますので、またぜひご覧になってもらえると嬉しいです!