ショートサドル試用記。(0)

やはりどうしても長いノーズへの疑問(本当に前に乗ったり後ろに乗り換えたりするか? 一定のところにカパッと嵌めるように固定して乗ったほうがペダリングの安定性が高いのではないか? という疑問)があったし、競技をするわけでなくとも競技者と同等にルールに則った上で乗っていたいという気持ち、そして単純な好奇心からショートサドルの試用と相成った。


この手のサドルの登場から発展までの歴史は、私は実際のところは良く知らないのだが、私の記憶が確かならば、イヴァン・バッソだったかイタリア人選手があろうことかスポンサーから供給されていたサドルの前端を切断することでルールに合わせるという強引な形でTTに臨んだあたりから真面目な検討がされ始めたのが起源だと考えられ、ひとつの完成形を作り出したのは、おそらく我がヒーローたるファビアン・カンチェラーラだと思われる。彼はPrologoと共同でTT用サドルの研究・開発を急激に進め、今やPrologoのTT/トライアスロン用サドルはここまで変態的なデザインになってしまった。

座面を真上から捉える角度から見ると普通だが、別の角度から見ると先端部分が極端に分厚く、後端へ行くにつれてベース部もパッドも薄くなっており『どうせ前しか使わんのだろ?』と言わんばかりの前乗り特化型デザインとなっている。TT用としては非常に理にかなっていると思う。(正確に言えば、その前部分すらも100%は使っていない。どんぶり勘定ではあるが、巡航時であっても坐骨周辺に掛かる圧力の1/3は慣性に消え、1/3はペダリングでの中腰効果で消えるので、実走での乗車時はゆったりと乗っていたとしても例えばローラーなどで感じられる圧力の1/3の圧力しか掛かっていない。)パッドだけでなくベース部も意図的にというか、恣意的に耐久性を高めるためだけのものとは思えないほど厚く造形されているということは、おそらく空気抵抗を削減するためのアイデアもここに含まれているのだろう。

こういったデザインには憧れるが、いきなりここまで飛躍する勇気がなかったし、微妙な違いで複数試したいという気持ちがあり、PrologoのDimension Tri Tiroxと、Selle RoyalのR.e.med 3、そしてTRACK ARCVに標準で付属していたVeloのサドルが意外にも心地よかったことからVelo VL-1966-6を試すこととした。

人情としては一番高価なDimension Triが一番良くあってほしいが、実際はそうとも限らない。とある一人にとってはそういった高価なものによって最高のフィットを得られたとしても、別の人にとってはとても座っていられないということが往々にして起こる。逆にいうと、安いから、重いから、名門製造者でないからといって選択肢から除外してしまうというのも勿体無い話である。今や、自転車は6.7kgよりも軽く作ることなど容易でフレーム内に錘を仕込むこともザラにあるし、丁寧に作り込まれた形や素材より雑で原始的な形や素材のほうが合うということもあるのだ。

力の入り方に関わるため出来ればジャストフィットを狙いたいので、なりふり構わず手当たり次第試すほうが当たりやすいが、肝心なのは、万人受けを狙った造形をひとつ試したなら、次は非常に特異な造形のものを試すといった具合に満遍なく探ることだ。座面の幅が狭いもの、広いもの、全長が短いもの、長いもの、座面がフラットなもの、カーブしているもの、これらを組み合わせると色々なパターンが出来上がる。まだまだ、ここからだ。

レールの素材にしたって、カーボンレールか、チタンか、ステンレスかと思いを馳せたいところだが、意外とクロモリレールが振動への振る舞いや耐久性で良かったりするので、サドルというのは本当にまったくわからない。

わかっているのは、パッドなしのような硬いものでもやり方次第では寧ろパッド入りより快適に使える場合があるということ、そして、パッドなしでは固定感覚に乏しい場合があるので、ある程度の、踏んだ力を逃がさない程度にほんの僅かに坐骨を沈ませる絶妙な硬さのパッドが入っていてもやぶさかでないということ、個人的には圧迫回避のための中央部のくり抜きは必須で、かつ座面はフラットというよりはやや後ろ上がりな形状のほうが好みであり、更に、私の坐骨の幅はやや広めなのであろうということ、精々これくらいなのである。

つづく?

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