ショートサドル試用記。(1)

サドルの座り心地は、実際に自転車に取り付けて、サドル高と前後位置がバッチリ決まった状態で暫く乗ってみないとわからないのは言うまでもないが、簡易的に調べる方法ならある。


可能であれば普段使っているパッド付きショーツ、もしくはレーパンを履いて、座面を坐骨に当ててみるという方法だ。できれば布団などの上に置いて体重を掛けられればより良く確かめられる。お店で試させてくれるところがあるかは不明だが、これを知っていれば、知人の計らいなどで目が眩むほど沢山ある中から色々試させてもらえることになったような場合、簡便に合いそうなサドルを選び出すことができる。特にサドル、ハンドル、ペダルといった身体と繋がる部分に関する、ものによってはとても高価な割に買うまでは全くわからないという大問題は、お店や輸入代理店が進んで貸出品を持てば解決する問題なのに、何故誰もやらないのだろう。万一壊されてしまった場合や返送されなかった場合に大変に面倒だからだろうか。はたまた、既にそのようなサービスはあるけれども私が知らないだけだろうか。

閑話休題、3種が届いたが既に夜であり、暖房の効いた作業場はないし、直前にポタリングを済ませた後で、特に足の先がとても冷たく凍えそうだ(爪先だけのものであっても防風用のシューズカバーが必要な時期となったようである)ということで実走は諦め、まずはこの簡易な方法で試してみた。

まずはR.e.med 3。サドルのセンターに明確に頂点があり、左右へ比較的急な勾配で両肩が落ちていく。値段の割に質感は良く、かなり柔軟なベース部を持っており、手で揉むと容易に形が変わる点は初代Arioneを彷彿とさせる。Selle SMPのCompositやFormaほどではないが、なだらかな前下がり、座面は一旦沈んで、なだらかな後ろ上がりに転じるSカーブ。座ってみると、まずはこれがベンチマークだからよくわからないが、こういったなだらかなものであってもSカーブは効いており、この一旦沈む部分と後ろに上がっていく部分との境目に坐骨が引っ掛かることによって座面はどこなのかを知らせてくれるような感覚がある。

つぎにVelo VL-1966-6。サドルであるからには両肩を落とさずに作るわけにはいかないのだろうが、R.e.med 3と比較するとかなりなだらか。ノーズ部分の幅がやや広いことが実用上どのように響いてくるだろうか。裏返してみると大手で歴史のある名門メーカーよりも余程の手間と腕前が必要であろう丁寧な仕事がしてあり、如何にも長持ちしそうな仕上がりで好感が持てる。3者における違いはほんの少しでどれも同じようであろうと予測していたのだが実際は違っていて、こちらは手で揉んでも簡単には撓らない堅牢なベース部を持ち、やはり丈夫さを第一に考えたサドルであろうことが推察され、重量感も比較的ずっしりしている。使っていくと徐々に自分の尻に馴染んでくる……なんてことはこの時代おそらくないと思うが……。だが、ナイロン等の比較的丈夫な素材も数年使い込むと日々の少しずつの摩擦で表面がテカテカに磨かれたり、洗濯等で揉まれて柔軟性を増して使い心地が良くなったりすることがあるのは事実だ。座面のカーブはR.e.med 3と同じようなSカーブだが、ややなだらかであり、極端なところがない。座ってみると、両肩の下がり方がなだらかな分、少し幅広な座面が坐骨をより面的に捉える印象がある。第一印象としては面的なほうが心地よく感じられるが、点的がいいのか、面的がいいのかは時間を掛けて検証する余地があるだろう。

さいごにPrologo Dimension Tri。1966-6と兄弟なのではないかと思うくらい似ているが、こちらは両肩の下がり方が更になだらかである。ベース部の撓りは控えめで、裏返すと軽量化のためかとても簡素な印象を受ける。1966-6のしっかりとした作りを見た後だから余計にそう感じるのだろう。レールの平行部分が他のふたつに比べて随分長く、前後位置の調整幅が広くとられており、あくまで実戦向けといった印象を受ける。ずっしりとした感じはなく、測っていないがおそらくこの中で一番軽い。座面はやはりSカーブだが、これらの中ではひときわフラットに近い。私が自転車を一旦やめる以前にはこんなにSカーブのサドルが溢れていた記憶はなく、SanMarcoのConcorや、どうやらそのカーブを模倣したらしいSMPのComposit、その派生のFormaといった極端なSカーブを持つサドルが見た目の割にソフトに感じられて座りやすいことが知れ渡った結果が実際の製品にも反映されてきたということだろうか。座ってみると実にニュートラル。坐骨の中央ではなく、できるだけ端のほうを捉えてくれるからか点的だとか面的だとかいう感覚が薄いというか、これまでは、特にレースで使われることを想定したサドルというのは坐骨で(尻というよりは骨で)捉えるものだという思い込みがあったが、Dimension Triの場合は臀部全体をしっかり捉えてくれるようだとすら感じられ、布団の上に置いて体重を掛けた場合、同じように体重を掛けたとしても圧迫感が一層低く、自転車のサドルというより、さながら普段使いの家具、一般的な椅子に座っているかのようである。この直観がまさに天啓なのだとすれば、運命というのは案外気の抜けたところに、かつ15年越しの未来の、ほんの半年前にはここへ来ることなど想像もしていなかったある意味的外れなところに転がっていたということになり、それはソーシャルゲームのガチャが欲を検知して強力なカードの排出率を下げるという都市伝説にも通ずるところがあるようにも思えるが、さて、実際に使用した時にこれらの印象はどう転んでいくのだろうか。

つづく?

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