『アネモネ』ホワイトデー声劇 準決勝用バッドエンド 『紫』想定3分
『アネモネ』 作 沖ママ
女
「いらっしゃい。今日も、1人?」
男
『あぁ。1人だ。』
女
「いつものでいい?」
男
『ああ。』
女
「今日はホワイトデーでしょ?いいの?こんな所にいて。」
男
『俺がどこに居ようと勝手だろ?』
女
「ふふふ、それもそうね。」
男《モノローグ》
『カラン……とグラスの氷が音を立てて揺れる。そのグラスの向こうには紫のドレスの女。』
男
『そういえば紫、好きなのか?』
女
「えぇ、紫は好きよ。赤や緑、黄色は派手だし、雰囲気に合わないじゃない。だから好きになったのかもね。」
男
『確かに、派手な色じゃ場違いだな。』
女
「でしょう?ねぇ、紫ってさ、何かこう……ミステリアスな感じしない?」
男
『俺を……誘ってるのか?』
女
「ダメなの?」
男
『俺がそんな軽い男に見えるか?』
女
「ガードが堅いから落としがいがあるの。」
男
『そんなもんかね。俺には……分からん。』
女
「色恋はね、楽しむものよ。」
男
『君を色に例えても、紫だな。』
女
「謎多き女?」
男
『熱を持った赤のように見えて、冷めた青でもある。どちらもが混ざりあって、紫ってところか。』
女
「そんな風に見ててくれてるなんて知らなかったなぁ。あなたは……そうね、グレーだわ。」
男
『グレー?』
女
「真っ白なような、真っ黒のような不思議な人。どちらもが混ざりあって、グレーな人。」
男
『なるほどな。』
女
「ねぇ、やっぱり……ダメなの?」
男
『ダメだ。これ以上は、戻れなくなる。』
女
「いいじゃない。溺れていきなさいよ。」
男
『ダメなんだよ。今日が最後だから。』
女
「えっ、最後?」
男
『転勤でな。明日、日本を離れる。』
女
「……寂しくなるわね。」
男
『長居(ながい)すると、帰れなくなりそうだ。帰るわ。ありがとな。』
女
「さよなら。」
男《モノローグ》
『帰り際(ぎわ)に、言葉に出来ない思いを込めて、アネモネの花を1輪、グラスの横に置いて置く。』
女《モノローグ》
「彼が帰ってしばらく呆然としていたが、グラスを片付けようとした時、1輪の花に気付く。」
女
「これは……アネモネ……。馬鹿な人。」
男
『サヨナラ。』
終わり
※アネモネ 『青紫の花を咲かせる。花言葉は、あなたを待っています。』