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『クリスマスの奇跡』
【あなたの夢、叶えます】
なんだこれ?
安っぽい売り文句だな。
夢ってのは、夢見てるから夢なんだろうが。
夢を夢見て、夢に焦がれて頑張って、それでも叶わないから夢なんじゃないか。
そんな簡単に叶う夢なんて、それはもはや夢じゃなくて現実だろ?
ったく。あ~ぁ、夢……かぁ。
俺の夢って、なんだろな。
とはいえ、人ってのは何かと夢ってのを聞きたがるよな。
ん?そういえば、今日は平日だってのに、やたらと人がいるな。
何でだ?……あぁ、そっか。
クリスマスイブ。
なるほど、どおりで。
クリスマスを、クリスマスとして楽しめるのは、限られた一定以上の生活水準を満たしているものに限られる。
それはなぜか?
答えは簡単だ。
クリスマスともなれば短期決戦だ。
短期決戦であるが故に、あの手この手で特別感を……。
ん?君は?
……なんだ、バイトかよ~。
クリスマスイブにバイトとは。
一緒に過ごす彼氏や家族はいないのか?
まぁでも、みんな恋人や家族と過ごしてたら、店なんてどこも営業してないだろうがな。
そんなことはどうでもいい。
いや、良くはないが今は君の事だ。
なぜ俺に声をかけた?
なるほど。
クリスマスケーキを売らねばならんのか。
今日はクリスマスイブなんだ。
適当にしてても売れるだろ?
え、売れない?
なんで……ってそりゃ売れねぇわ。
ここは、外なんだぞ?
こんなところで直径30センチもあるケーキが売れるわけないだろう!?
これは新手のハラスメントなのか?
君、何をした?
何もしてないのであればこんな無茶な販売なぞしないだろう。
分かった。君にはこれをやろう。
【あなたの夢、叶えます】
と書いてある。君の夢が叶うかもしれん。ケーキの完売という夢がな。
なんだよ?
俺に泣き落としは通用せんぞ。
え?教師?
君が?
《○○》と言うのか。
子供たちに夢を叶える素晴らしさを伝えたい。だから友人の手伝いでケーキの販売をしている。
そういうことか。
教師であればバイトなんて出来ないからな。
実質タダ働きという訳だ。
ん?俺の夢?
……はは、夢なんて、とっくの昔に忘れたさ。
まぁ、こんなタイミングで1人、こんなところを歩いていれば、独り身なのは想像がつくだろう。
今日はクリスマスイブ。
……そうだな。夢か。
デッカイ、クリスマスケーキを恋人と食ってみたいもんだな。
とか言ってみるか。
んあ?
あなたの夢を応援します?
ありがとうよ。
でもな、その夢は今年も叶うことはないだろう。
知ってるか?あと数時間で今日が終わる。
そのあと24時間が経過した後、クリスマスなんて忘れたかのように慌ただしく年末年始へと向かうんだ。
《○○》、君は教師だろう?
子供たちに現実を教えてやることも、覚えるんだな。
夢や希望だけでは生きてはいけない。
なぁ、なんでそんなに必死なんだ?
365日あるうちの、たかが1日の些細なイベントに過ぎん。
奇跡を信じろ?
そんなもん、甘っちょろい幻想だな。
教師がいかにも言いそうな言葉だ。
……なに?
もし、その奇跡が叶ったら信じるか、だと?
そうだな、起こせるもんなら起こしてみろ、その奇跡ってやつを。
……ちょっと待て!
お前、頭イカれてんじゃないの
か!?
今日、それもたった数分前に知り合った俺と付き合うだと!?
分かった分かった、ケーキ買ってやるから、頭冷やせ。
それで満足だろ!?
君みたいな可愛い子が、自分を安売りするもんじゃない。
それじゃ……
何だよ、まだなんかあんのか?
連絡先?
はいはい、交換したらいいんだな。
これで、いいんだな?
来年のクリスマスイブまで時間はある。
それまで、オアズケだ。
じゃあな!
って、俺は何をやってんだよ。
夢や希望、奇跡か。
まだ、間に合うのかな……俺の、夢。
もう1回、挑戦してみるか……司法試験。
終わり
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